第3話 はじめまして、恋人になってください。
文化人類史の講義が終わり、資料をまとめ、筆箱やファイルをリュックにしまって、教室を出た。
最後には、メッセージが書かれた紙切れをパーカーのポケットに突っ込んで。
「あ」
教室の出口で、あの黒髪の女の子、
どうして、獲物を見定めるような獣の眼光を向けてくるのかな……?
俺が困惑の色濃いままに彼女に恐る恐る近寄ると、唐突に「付いて来て」と告げられた。
「は、はい……」
困惑しながらも、彼女の背中を追った。
ちょうど昼休みの時間帯なので、多くの学生や教員が食堂へと移動している。
ただ、俺と
紙切れのメッセージで指定された通り、3600号教室へと到着する。
ここまで、互いに、無言である。……かなり気まずい。
「はじめまして、どうも。
「あ、ああ、どうも、リリアさん。俺は、大空
「よろ」
「……」
何を話してよいかも分からず、俺も、彼女に倣って、お弁当箱を取り出した。
「……」
「……」
やべぇ、めっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっちゃ気まずい!!!!
ほぼ初対面なのに、急に昼食に誘われて、こんな
「あの……」
気まずさに堪えかねて、開口した。
「ん?」
「なんで、お昼ご飯誘ってくれたんだ?しかも、こんな静かな教室で二人っきりって……」
「湊くんを友達……いや、私の大切なパートナーにするためだよ」
「ぅ……うん?」
まだ、初対面だぞ。お互いの趣味も生活も知らないで、大切なパートナーなんて、バカげている。
リリアは、ちょっと言葉を詰まらせながら、惜しみなく言う。
「えっと……その……うん、前から、湊くんのこと、素敵な人だと思ってたから」
「え、話したこともないよね、俺たちって」
「うん」
「誤解を恐れずに言うと、一目惚れ的な……?」
「そう、一目惚れ」
プチトマトを頬張り、リリアは首を小刻みに縦に振った。俺って、一目惚れされるほど、見た目に特徴無いし、特別イケメンでもないぞ。
「ぐ、具体的には、俺のどんなところが、気に入ったの?」
「なんか、平凡で、飾らないところ」
「そ、そっか……」
「あと、髪綺麗。あと、お肌綺麗。爪もちゃんと切ってあって、髭も丁寧に剃ってあって、清潔」
「あ、ああ……ありがとうございます……」
付け足し継ぎ接ぎで、良いところを列挙したリリア。まあ、清潔感があると言われて、本音は嬉しいのだが、その誉め言葉の真意が分からない。
表情は、変化に乏しく、彼女の元から醸し出されるクールな印象が、さらに引き立てられる。
また、話し声のトーンが低く、落ち着いた感じだ。
表情も薄いから、一体、彼女がなぜ、俺なんかを呼び出そうとしたのか推察することもできなかった。
「で、何で急に?」
ならば、本人に直接聞くしかあるまい。
「何度でも言うよ。湊くんを、私の一番のパートナーにするため」
「ということは、今日から俺とリリアさんは、友達ってこと?」
「ううん。友達という関係を通り越して、恋人同士」
「それは、いくら何でも無茶がありませんか……」
さも当然だと主張するように、リリアは、次に卵焼きを飲み込んで、箸を置き、両手でハートマークを作った。一挙手一投足が、かわいい。かわいいけどさぁ……
いくらなんでも無理がある。「今日から恋人同士」なんて。
俺は、神から、リリアが運命のパートナーであることを知らされているから、彼女のことを意識していたが、彼女は、そのことも――来年のとある日に死ぬことも、全部、知らないはずなのだ。
そして、俺は、神様に直接会って、運命の人が彼女であって、【
だから、彼女から猛烈にアプローチされることが、ヘンテコに思える。
「無理じゃない。私と湊くんなら、幸せラブラブの恋人になれる。そう信じてる」
「何を根拠に……まあ、俺、友達いなかったんで、そう言ってもらえるだけで嬉しいよ」
「だめ。友達じゃなくて、恋人になるの、湊くんと、私は」
「こだわり凄いっすね……」
その後、湊とリリアは一緒にお弁当を食べながら、雑談を交えて、多少は、交友を深めることができた。
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趣味:読書。音楽もときどき聴く(クラシック、教会音楽、ボカロ、電子音楽)
最近は、お弁当のおかずを凝って作っている。ハンバーグがお気に入り。料理は、ある程度できるほうだと自負している。
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趣味:推し活(アイドル、Vtuber、歌い手)、カラオケ、漫画読む、映画鑑賞、洋服買う・着る、オンラインゲーム
彼氏募集中
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以上の内容に関する話を共有した。
特に、音楽関連で話が合ったことは、嬉しかった。
「週末、どこか出かけない?予定、大丈夫?」
「え、ああ。大丈夫だけど」
お弁当を一足早く食べ終わった。
週末の予定は、特になし。
せっかくだからと、一期一会を大切に、リリアと時間を共有してみようと思い、オッケーの返事をした。
「どこ行くつもりなんだ?」
「うーんと……お昼をサイゼで食べて、映画見て、カラオケ行って、私の家に泊まるでどう?」
「ええ!?予定山盛りだし、家に泊まるって、いきなり過ぎないか!?」
「だって、私と湊くんは、恋人同士でしょ?家に呼んでも、なんら不思議じゃない」
「思い出して!俺たち、今日、初対面で、話したばっかりだよ!?」
「関係ないよ」
「大ありだよ!」
「とりあえず、来てよ、サイゼ」
「まあ……それと、映画と、カラオケぐらいなら、いいけど……」
「あ、連絡先交換しよ」
「ああ、分かった……」
結局、彼女と週末に遊ぶことを約束してしまった。ついでに、電話番号やチャットIDなどの連絡先も交換した。
――そうだ。
神様の言葉が正しいなら、彼女は、来年の12月17日に【死ぬ】んだ。
であるならば、彼女と残りの1年と2か月ちょっと……目いっぱい、楽しく過ごしたいし、あわよくば、彼女を救う方法を見つけたい。だから、彼女のことについて知って、彼女と仲良くなりたい。
そのために、彼女の多少おかしな言動には、目をつぶっておこう。十分おかしい気もするが……
奇妙で、不思議で、かつ、歪な、リリアとの関係がスタートした。
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