アシスタント

天川裕司

アシスタント

タイトル:(仮)アシスタント


▼登場人物

●屋邦達夫(やくに たつお):男性。45歳。独身。結婚への夢はある。愛する人の為ならどんな事でもしてあげたいと常々思っている。器量は良くない。一般的な中年男性。

●差巣辺 理亜(さすべ りあ):女性。30歳。小説家。最近ネタが尽きて伸び悩んでいる。絶世の美女。仕事のため独身を貫いている。若い男には男性恐怖症の気(け)あり。

●夢野恵美(ゆめの めぐみ):女性。30代。達夫の「愛する人と結婚したい・その人の為なら何でもして役に立ちたい」と言う理想と夢から生まれた生霊。


▼場所設定

●会社:一般的な商社のイメージ。達夫が働いている。

●理亜の自宅:郊外にある一戸建て。人は殆ど訪れない。地下室に書斎あり。

●バー「Assistant(アシスタント)」:お洒落な感じのカクテルバー。恵美の行き付け。


NAは屋邦達夫でよろしくお願いいたします。



メインシナリオ~

(メインシナリオのみ=4145字)


ト書き〈会社〉


俺の名前は屋邦達夫。

今45歳。

なのに、恋愛もまともにした事なけりゃ、結婚の兆しすら無い。


達夫「はぁ。遂に俺の従兄弟も全員結婚したかぁ。俺だけ独身だ・・・」


自分でも分かってる。

俺は器量が良くない。

年収も人並み以下。

でも・・・


達夫「俺は結婚したいんだ!結婚に憧れている!愛する妻を持って子供を持って、ささやかでも幸せな家庭を持って・・・そんな夢を叶えたいんだ。でも1人悩んでたってどうしようもない。結婚は相手が居て初めて成立するもの」


そう、相手が居なけりゃどうにもならない。

1人で叶えられるならとっくに叶えてる。


ト書き〈バー「Assistant」へ〉


達夫「はぁ・・・今日は飲みに行こかな」


最近ずっと行ってなかった飲み屋。

でも今日は給料日。

このまま家に帰って寝るだけ・・・というのは淋しい気がした。


以前通った居酒屋に行こうとした時・・・


達夫「ん、あれぇ?こんなトコにこんな店あったっけ?」


バー「Assistant」。

静かな佇まいだが、中は結構お洒落な感じ。

俺はカウンターに座って飲んでいた。

するとそこへ・・・


恵美「こんばんは♪お1人ですか?ご一緒してもイイかしら?」


結構キレイな人が声を掛けて来た。


彼女の名前は夢野恵美。

歳は30代くらい。

なんでも悩みコンサルタントをしてるらしい。


達夫「へぇ、コンサルタントの方なんですか」


恵美「ええ。主に『恋愛コンサルタント』が専門です」


達夫「そうなんですね。でもそんな方がどうして僕なんかに?」


恵美「夜、飲みに来る特に中年男性の方々は、何かしら心に悩みを抱えてらっしゃるものです。そんな方々の内からお客様を見付け、お声を掛けさせて頂いています。きっとあなたも何か今、お悩みがあるんじゃないですか?」


達夫「え?」


不思議な人だ。

ズバリ心の中を言い当てられた驚きもあった。


でもそれとは別に彼女には、

「昔から自分の事を知ってくれてるオーラ」

のようなものがあったのだ。


彼女と向き合って話しているだけでなんだか心が落ち着く。

解放的な感じになってしまう・・・。

気が付くと俺は、日頃の悩みを全て彼女に打ち明けていた。


恵美「なるほど。ご結婚への想いが溢れてるんですね」


達夫「ええ。情けない話です。こんな歳になってまだこんな事言ってるんですからね。でも最近つくづく結婚したいと思うようになってしまって、周りにはそんな相手が1人も居ないというのに、思いだけが昂ってしまうんです」


俺は心から有りの侭を言った。

情けない中年の身の上である。

でも恵美は親身に聴いていた。

そして・・・


恵美「いえ、世の中そう言う人は結構多いんですよ?恥ずかしい事なんて1つもありません。いいでしょう。では今のあなたにとって、最適な情報を差し上げます。どうぞ今後、会社への通勤にはこの電車を使ってみて下さい」


達夫「え?」


そう言って彼女は都内線の時刻表をくれた。


達夫「こ、これって東京から銀座回りの東西線じゃないですか」


恵美「ええ。これからはそれに乗って毎日、通勤してみて下さい」


達夫「ちょ、ちょっと待って下さいよ。僕の会社は三鷹にあるんですよ?わざわざこんな路線で行ったら、時間かかってしょうがないじゃないですか」


恵美「いいですか達夫さん。私がいま申し上げているのは『あなたの恋への近道』です。その路線で毎日行けば、あなたには必ず素敵な出会いが訪れます。信じてその通りにしてみて下さい。『急がば回れ』とも言うでしょう?」


恵美「何事も事を成す為には、それなりの準備が要るものですよ」


達夫「はぁ・・・」


でもやはり恵美は不思議な女性。

普通なら絶対信じない事でも、彼女に言われると信じてしまう。


ト書き〈数日後〉


それから俺は毎日、遠回りして会社へ行った。

そのぶん朝早く起き、それ迄と違った環境で通勤している。


達夫「はぁ。結構ツライなぁ。朝は今までより早くなるし、わざわざ遠回りして行く・・・ってのがどうもなぁ・・・。もしかして担がれてんのかなぁ、俺」


そんな心配をしながらも、

「とにかく結婚への夢」

を胸に秘め、俺は信じて通勤していた。


それから数日後。

転機が訪れた・・・


ト書き〈差巣辺 理亜が電車に乗っている〉


達夫「はぁぁ・・・なんて・・・奇麗な人なんだ」


偶々乗り合わせた車内には、絶世の美女が居た。

彼女は真っ直ぐ前を見て、他の乗客には目もくれない。

凛とした女性だ。


俺は完全に一目惚れ。

学生頃の甘酸っぱい青春が甦る。

俺はその人に恋をした。


恵美「もしもし?ちゃんと私が言った通りの路線で通われてますね?」


達夫「おぅわ!びっくりしたぁ、あ、あなたですか」


その車両には恵美も乗り合わせていた。


恵美「ほう、あの人ですか」


達夫「え?」


恵美「さっきからずーっと見てるじゃありませんか」


恵美「さては、良い出会いがあったようですね?」


達夫「あ、あはは」


恵美「いいでしょう。あの方の事を私がお調べいたしますよ」


達夫「えぇ!?」


恵美「そうですね、3日後くらいにまたバーへいらして下さい」


ト書き〈バー〉


3日後、俺はまたバーへ来た。


恵美「彼女の名前は差巣辺 理亜。今年30歳。独身女性のようですね。いま作家さんとしてご活躍されているようです。でも最近はネタ詰まりの様子で」


達夫「さ、差巣辺 理亜さん?」


恵美「お住まいは、都内からずっと離れた郊外のようです。どうも最近はずっと書斎に篭りがちのようで、あの日、あなたが初めて彼女を見た日は、どうも取材の為に出掛けていたようですね。どうです?まさに運命的な出会いでしょう?そんな彼女とあなたは何万分の1秒の確率で出逢えたのですから」


達夫「ふぇぇ・・・よ、よく調べられましたねぇ、そんな事まで」


恵美「まぁ最近のコンサルタントも進歩してるという事ですよ。人は偶に私の事を『探偵コンサルタント』なんて言って、からかう事もありますねぇ♪」


運命的な出逢い。

何万分の1秒の確率。

彼女の美しい顔・・・。

気品溢れる高貴な姿。


達夫「ダメだ!思い出したらまた気持ちが!諦めようと思ってたのに!」


恵美「今から諦めてどうするんです?まだ何も行動してませんよ?男なら当たって砕けろの精神で、少しくらいアクションを起してみてはどうですか?」


ト書き〈差巣辺 理亜の正体〉


更に恵美は驚く事を言ってきた。


恵美「実は彼女、以前、私の所へいらしたお客様だったんです」


達夫「え・・・?そうだったんですか?!」


恵美「ええ。だから彼女の事をよく知ってるんですよ」


達夫「な、なんだ・・・そうだったのか」


どうりで。


恵美「ですから私、彼女とあなたをワザと引き合わせてみたくなったんです。彼女にも『頼れる男性が居てほしい』と言う思いは、以前から強くありました。あなたはおそらく、そんな彼女の理想そのものと言って良いでしょう」


恵美「彼女はもとから若い男性が苦手です。ヤりたい盛りのギラギラした男に対し男性恐怖症の気(け)があるようで、そこへいくとあなたのような年輩の方、つまり包容力を持ち合わせた方のほうが遥かに安心できるようです」


恵美「先ほど、彼女が『創作意欲に伸び悩んでいる』と申しましたが、その延長で彼女は今、作品を書かせてくれるアシスタントを欲しがっています」


達夫「アシスタント・・・?」


恵美「ええ。創作意欲を掻き立ててくれるアシスタント。いかがです?そんな彼女のアシスタントに成ってみる気はありませんか?そうすれば彼女の元にずっと居られるだけでなく、本当の恋人に成れるかも知れませんよ?」


達夫「(ゴク)・・・」


急にそう言われ断ろうともしたが・・・。

ここへ来て又、彼女への抑えきれない想いが沸き出した。


達夫「お、お願いします・・・彼女と会わせて下さい!僕、彼女の為なら何でもします!いえ、そうしたいんです!愛する人の為なら何でもしたい・・・この思いはずっとありました。若い時から。でもそんな人が今まで居なくて・・・」


達夫「理亜さんを一目見て、その想いがやっと叶えられるような、そんな気がしたんです!お願いします!彼女に会わせて下さい!こんな僕でも役に立てるなら・・・それで本当に愛し合えるんなら、今の僕にとって本望です!」


初めて俺は本気で恋をした。

差巣辺 理亜。

俺は彼女の虜になっていた。


ト書き〈理亜の自宅〉


理亜「初めまして。理亜と申します」


達夫「は、初めまして!や、屋邦達夫です!」


翌日。

俺は恵美に連れられて理亜の自宅へ行った。

確かに人里離れた一軒家。

周りには田園風景が広がっていた。


恵美「彼女にはあなたの事をもうお話しています。実は彼女のほうも『ぜひ達夫さんにお会いしたい』と希望してらっしゃったようです。ね、理亜さん?」


理亜「ええ♪こんな売れない作家のアシスタントに成って下さる方なんて、そうは居ませんもの♪ぜひこれからあなたと二人三脚で一緒に作品を創れたら・・・そう思っています。本当に心から、ぜひよろしくお願いしたい思いです」


達夫「はは・・・ハハハ、ぜ、ぜひこちらこそ!」


恵美「では、私はそろそろここらでお暇いたします。理亜さん、達夫さん、ぜひお幸せに。あそれと達夫さん、幾らアシスタントと言っても『嫌な事』はきちんと断って下さいね。彼女、時々ムリな注文をする事もありますから」


理亜「フフ♪もう恵美さんったら」


達夫「ハハ、いいえ!こんな美人の頼みなら、私は何でも聞いちゃいますよ!」


ト書き〈地下の書斎で死体となって転がってる達夫〉

ト書き〈理亜の自宅を外から眺めながら〉


恵美「はぁ。幾らアシスタントとは言え『死体の役を実際に演じてくれ』なんて言われて、それを真に受けちゃうなんてねぇ。結局、殺されたか・・・」


理亜「ハハ・・・これよ・・・!このリアリティこそ、ずっと私が追い求めてきた題材よ!いいわいいわ・・・その表情!私を哀願するような目で見つめてくる半開きの目!・・・そっかなるほど・・・本当の死体の目はこんな感じなのね・・・」


恵美「私は達夫の『愛する人の為なら何でもして役に立ちたい』と言う理想と夢から生まれた生霊。その欲望と理想を現実に叶える為だけに現れた…」


恵美「もし達夫が『死体の役』を断っていれば、きっと理亜もあそこまで暴走する事は無かったろう。女は男で変わる、とはよく言ったもの。男女共に『尽す精神』は美しいものだけど、『尽し過ぎる』というのはやはり問題ね・・・」


(※)これまでにアップしてきた作品の内から私的コレクションを再アップ!お時間があるとき、気が向いたときにご覧ください^^


https://www.youtube.com/watch?v=o9KtM9SCE28&t=197s

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アシスタント 天川裕司 @tenkawayuji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ