事件篇〈2〉
「……はっ! こら! 何を一件落着したようなムードを出しておるのだ! 我の方に注目せんか!」
「先生、ラッコがわめいてますよ。これはどういうトリックなのでしょうか」
「そうだね、どこかにスピーカーを仕込んでラッコが喋っているように見せかけているという可能性もあるにはあるが……」
「何度否定してもラッコラッコと……! お前達では埒が明かん! 一番偉い奴に会わせろ!」
ラッコは苛立ち紛れにほっぺの毛をおててでわさわささせながら云いました。
「ここで一番偉い人というと……洋館の主、水鳥川氏だろうか」
「そういえば水鳥川氏は何処に? 水鳥川夫人」
「分かりませんわ……主人は
まさか、と皆が思っているところに断末魔が響き渡りました。
「ぐおおおおおおっ!!」
「そんな……! あなたっ!!」
慌てて水鳥川氏の寝室へと向かう夫人を皆で追いかけ、ぽつねんと取り残されたラッコも寂しいので皆の後をぽてぽて追いかけました。
ところが寝室はもぬけの殻。一体水鳥川氏は何処にと皆が辺りを見回すと、「あっ! あそこに倒れているぞ!」と警部が指さした1階のホールに人影が。
「でも水鳥川氏は鼾も大きければ寝相も悪いのですよね? どうせ先刻の叫び声もただの鼾で、倒れているのも部屋の外に出てしまうぐらい寝相が悪かったというオチでは……」
ぼやきながら階段を下りていた田中少年は濃くなっていく血の匂いに顔色を変え、思わず鼻を覆いました。
そこかしこに血の飛び散った床。その中心に倒れている水鳥川氏の頭にも血が流れており、打ち捨てられたノコギリも血塗れという凄惨な光景が広がっていたのです。
夫人は気を失い、倒れそうになったところを木戸探偵が受け止め、使用人達に任せました。
「これは……なんということだ……!」
「そんな……さっきまで呑気な顔をしたラッコが出てくるような素っ頓狂な展開だったのに、こんな状況で本当に殺人が起こっても温度差がありすぎてついていけませんよ……」
田中少年も呆然としています。
「しかし起こってしまったものは推理して解決するのが私達の役目だ。そうは思わないかい、田中君」
「そう、ですね……」
気を取り直した田中少年は、あることに気が付きました。
「おかしいですよ先生。水鳥川氏が殺された時、僕等は全員同じ場所に集まっていたというのに、誰が水鳥川氏を殺したというんです?」
「そう、それこそが今回の事件の問題なんだ」
そう云って木戸探偵はその端正な顔を読者の皆様の方へ向け、今これを読んでいる貴方に語りかけたのです。
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