第24話 襲撃ー2


灰燼扇火かいじんせんか──起動アクティベート


 栞がデバイスを展開すると、彼女の扇子から白と黒の炎が溢れ出してくる。


 栞のことを包み込むように、その黒白こくびゃくの炎は螺旋を描いて天に昇っていく。


「──こく


 栞はデバイスを軽く振るうと、その扇子には黒いの炎が宿る。

 

 さらに彼女は自身の体に魔力を纏わせて、身体強化を行う。


「……」


 相手は栞の一連の所作を見て、只者ではないと察する。


 扇子デバイスの展開から、身体強化までの流れにおいて、その魔力運用に一切の無駄はなかった。


 まるで流れる清流のように、栞は臨戦体勢を整えた。


「では──参ります」


 一歩。


 栞は相手と距離を詰めた。


 栞は上段から扇子を相手向けて叩きつけ、それが相手の短剣デバイスとぶつかり合う。


 栞の扇子は炎を纏っているだけではなく、持ち手以外は全て鋭利な刃となっている。そのため、短剣と鍔迫つばぜり合いになって問題はなかった。


「さあ、どうでますか──? 力はどうやら、私の方が上みたいですよ」


 激しい鍔迫り合いになるが、相手は栞の方が膂力が上だと理解して、短剣を思い切り奮って彼女の扇子を弾き飛ばして一度距離を取る。


「────」


 何か音を発すると、その短剣には緑色の液体が溢れ出す。


 ぽた、ぽた、と滴る液体は地面を溶解させていく。



(毒……ですか。見るからに酸性の強いものでしょうか? おそらく、致死性の毒ではなく、溶解と麻痺の性質を組み合わせたものでしょうね)



 栞は相手の解放した短剣デバイスを見て、冷静に分析をしていた。


 トウヤほどの経験値はないが、それでも栞にはトウヤと同等の聡明な頭脳を兼ね備えている。


 そして、彼女には相手の攻撃を攻略する手札カードが既にあった。


「────シッ!!」


 相手はさらに身体強化をして、栞へ肉薄する。短剣の強みは、圧倒的な手数である。相手は短剣を高速で振るうことで、栞に毒を付与しようとする。


 栞もまた、その短剣を扇子で防ぐ。防戦一方になるが、それでも栞に焦りなどはなかった。


 だが──ついに、その短剣デバイスが栞に届こうとするが、栞はそれを見て微かに笑みを浮かべた。



「──びゃく



 すると栞の体を真っ白な炎が包み込む。相手は確実に攻撃を当て、栞の腕が微かに切り裂かれる。出血すると同時に、彼女の体内に毒が侵入する。


 しかし、その傷は一瞬で治癒していき、栞は勝利したと思い込んだ相手に対して思い切り蹴りを腹部に叩き込んだ。


「────!?」


 相手は派手に転がっていくが、受け身はしっかりと取っていた。ただし、その様子は焦りのようなものが見とれた。


 毒は確実に効いているはずなのに、彼女はそれを無効化しているからだ。


 栞は悠然と歩みを進め、もう一枚扇子を顕現させる。


 両手に持つ扇子は、漆黒の炎が宿っていた。



「理解したと思いますが、私の白い炎は自然治癒を高めることができます。どうやら、あなた程度の毒は一瞬で解毒げどくできるようですね。さて、あなたの攻撃は通用しないことが確定しましたが、何か他に手がありますか? ふふ。さ、もっと私のことを楽しませてください」



 栞のデバイスである灰燼扇火かいじんせんかは、黒と白の炎を操る。


 黒は攻撃系であり、白は防御系。


 攻守ともに優れたそのデバイスに隙など存在しない。


「────っ」


 栞がそう言うと、真っ白の仮面に漆黒の外套がいとうを羽織った相手は上空に飛翔すると、そのまま夜の闇の中へと消えていく。


 栞は扇子デバイスの出力をさらに高めようとするが──


「あら。逃げましたか」


 気配を消して奇襲を仕掛けてくると栞は思っていたが、相手の気配は完全に消え去っていた。


「ふむ。少し煽ってみましたが、流石にムキになってはきませんか。もう少し戦ってみたかったのですが」


 栞は扇子デバイスを解除すると、顎に手を当てて思案する。


(引き際がいいですね。斥候せっこうという感じでしょうか。まぁ、私の能力を把握したいだけだったのかもしれませんね。すぐに帰って、朔夜兄さんに報告ですね)


 彼女はそして、実家へと急いで帰って行くのだった。



 †



 トウヤは襲撃してきた相手を撃退した後、自宅ではなく実家へと向かっていた。


 そしてトウヤが実家へと戻ってくると、家の前には腕を捲って軽く汗を流している朔夜が立っていた。


「朔夜兄さん。戦闘後ですか?」

「ん? あぁ。帰り道に急に襲撃されてな。ま、この俺に敵うわけがないがな! ははは!」


 朔夜は高らかに笑うが、実際に彼の実力は退魔師界でも指折り。


 トウヤは逆に相手を殺してしまっていないか心配するほどである。


「逃げたんですか?」

「あぁ」

「実は自分も帰り道で襲われまして。その件で報告に来ました」

「なるほど……ふむ。どうやら、一旦話をしておいた方がいいな」

「話、ですか?」

「あぁ。皐月さつきさんも呼ぶことにしよう」


 朔夜はポケットからスマホを取り出すと、皐月に連絡をする。


「よし。すぐに来るそうだ」

「分かりました」


 トウヤは何の話をするかまだ分からないが、とりあえずは理解を示す。


 それはきっと重要な話だと彼も分かっていたからだ。


「あら? トウヤ兄さん? 今日は帰ってくる予定だったのですか?」


 そこにちょうどやってくるのは、栞だった。今日はトウヤが帰ってくるとは聞いていなかったので、彼女は疑問に思う。


「襲撃があってな」

「あ。実は私も」

「……殺してないだろうな?」

「ははは。流石にそこまでしませんよ〜。全く、兄さんは心配性なんですから」

「……」


 トウヤは妹の栞がスイッチが入ると、戦闘狂になってしまうことを知っている。だからこその言葉だったが、流石に暴走していないようでトウヤはホッとする。


「さ、中に入ってくれ。皐月さんを交えて、現状の話をしよう」

「分かりました」

「はい!」


 そして三人は朔夜の自室へと向かう。


 それから皐月も合流して、テーブルには三人分のお茶が置かれた。栞は部屋の隅に立ち、それ以外のメンバーはテーブルを囲うように着席している。


「それで、何があったんだ?」


 皐月が尋ねると、朔夜が反応する。


「襲撃されました。自分、トウヤ、栞が同時に。どうやら、不知火家のことを狙ってきたようです」

「ふむ……なるほど。相手もそこまで馬鹿ではないということか」

「えぇ。ただ、我が兄妹は強者つわもの揃い。相手は尻尾を巻いて逃げたようですが! ははは!」

「まぁ、お前ら三人に半端な刺客は意味をなさないだろう。ただ、おそらくこれから先は相手もなりふり構って来ないだろう」

「でしょうな」


 トウヤは二人の会話を黙って静聴していたが、皐月が彼に声をかける。


「トウヤ」

「はい」

「伝書鳩でも共有したが、お前を狙っている相手がいる」

「なるほど」


 トウヤは先日、伝書鳩で何者かが彼のことを狙っているかもしれないという情報を受け取っていたのだ。



「さて、まずは結論から話をしようか。公安一課の退魔官として、トウヤに告げる」



 皐月は学院長として活動しているが、それは表向きの顔。


 彼女の本職は──日本公安庁、夜魔対策局の第一課所属の退魔官。


 皐月は構成員を秘匿されている第一課の一員である。


 そして皐月はトウヤにこう言った。



「お前のデバイスである、無銘むめいの完全解放を──許可する」

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