第2話

「……確かに、そうなのかもしれません。面と向かって言われた事はありませんが、姪が生まれたあたりから両親の雰囲気が……とりわけ母が妙にこちらの近況を聞いてくるようになりまして」


「それだよ! いや間違いないね。エーくんにも早く奥さんが出来たらいいなって思ってるね。でさぁ、ぶっちゃけ気になってる子とかいない訳? 私の知ってる子とかだったら間に立って取り持ってあげる。大丈夫だって、相手に気付かれないようにエーくんに誘導してあげる」


「気になる女性ですか……。そうですね、まったく無いとは言いませんが」


 ほう! これは意外にも素直な回答が来た。


 エーくんってばいわゆるお堅い騎士様でもあらせられますからね、顔を真っ赤にして「そ、そそそそそのようなものっ!」とでも言うかと思ったけど。


 いいじゃんいいじゃん。もうどんと来いよ。こんなイケメンさんに惚れられてるなんて果報者が世の中にはいるもんなんだなぁ。


「私ってばその子知ってる感じ?」


「そうですね、きっとよくお知りだとは」


「へぇ。これだけでも絞られたぞ……。じゃあさ、その子ってエーくんが気になってるって気づいてるのかな?」


「いいえ、まったく。そのような素振りを見せた事は一度もありません」


 ? いやにきっぱり言うんだな。なんか意外。


 あの真面目なエーくんがこうまで言うなんて、気心の知れた仲って事かも。


 私のお世話をしてくれてる専属メイドのシャンタルちゃんかな? あの子奥手だから確かに気づかないかも。


 それともエーくんと交代で護衛をしてくれてる女騎士のリディアちゃんとか? 同期らしいし、だったらこの線もあり得る。


 そして一番あり得るのが、そう那奈夢ちゃんだ。やっぱ聖女様だし、聖女の仕事の護衛をする事も多い。他の騎士よりずっと接近する機会が多いのだ。それにやっぱ若い騎士と聖女のカップリングが王道ってもんよね。


(どれもいいな。でも誰が相手でも応援してあげちゃうぜ!)


「その人が僕から気を持たれている、というのは非常に意外に思われるかもしれません」


「そうなんだ。にしてもエーくんから好かれてるってのに気づかないなんて鈍感さんだな。大丈夫だって、うまいこと取り持ってあげるって。まま、当然ここだけの話にしといたげるからちょっと教えてよん」


「……名前を言っても驚きませんか?」


「大丈夫大丈夫! 何が来ようと、この厚い胸でどんと受け止めてあげようじゃないか! ま、大きさには自信は無いけどもさ」


「…………では」


 エーくんってば息を整え、目つきが真剣になる。


 ただ好きな人の名前を教えるだけなのにね、やっぱ真面目さんだな。


「僕がお慕いしている方は――貴女です」


「? アナタなんて人居たっけ? ちょっと待って今思い出すから……。えぇっと――」


「いえそうではなく! このエドゥアール――マレミ様、貴女様を一目見た時から心を奪われました。この身は貴女様の為に、そして貴女様に尽くすために生まれてきたのだと確信するに至りました。どうか、このエドゥアールの愛を受け入れては頂けないでしょうか」


「…………ふぇ?」


 ……………あ、そうか! ドッキリだな!


 なんだそうか、つまり私は先手を打たれたんだな。もうみんなしてさぁ。


「わかったわかった、私の負けだぜ。もういいからみんな出て来てよ。那奈夢ちゃ~ん、主犯は君でしょもう」


「いえ誰も居ませんよ。勘違いをなさってるところ申し訳ありませんが、全て僕の本心です」


「ぁっ、ぇ……? いや、いやいやいや! そんな事言っちゃってさあ、え? エーくんってばジョークも言えるようになっちゃって。その成長はビックリだなぁ。なんて」


「……………」


 な、何その真剣な目? 嘘、ガチな訳? いやでもそんな素振り今まであった?!


 どこでどうしてそうなるの!? 何? 何が起こってるのよ!!?


「そ、そんな事言ってもさ! いきなりそんなんついていけないかなぁって。もうあんまりからかわないでよぉ。ホントだってんならここでキスしてもいいけど? な~ん――ッ!?」


 て。って言おうとしたのだけれど。唇に感じる全く知らない感触。


 異様なまでに近い目と目。その目は見たことも無く熱い。いや知らないこんなの!!


「――こ、これが僕の真剣な気持ちですっ。許可を頂いた通りにこの唇を貴女へと捧げました。ど、どうでしょうか?」


「あっ、あ……………。わあああああああああ!!!!!」


 途端、動き出すこの足の赴くままに部屋の扉を蹴り開け、勝手に出る大声のまま城内をダカダカと駆け巡る私。いや本当に私? いや本当に私!


 これは私だ。私の体が、心と関係なく動いた結果がこの奇行なんだ!!


(な、なんだこれ!? こんな風に体を動かすのは中学の頃にクッソ恥ずかしいラブポエムを書いて直ぐ破いた時以来だ!! なんでこんな?!)


 とか考えても体は止まる事なく動き続けるのであった。




「おや、今のは?」


「ナナム様、今目の前を駆けて行ったのはマレミ様では……」


「ええ、そうねシャンタルさん。……なるほど、ついに。ふふ……」


「ついに、という事はエドゥアールの奴は想いを告げた。という事か?」


「ええ、きっと。リディアさんってば、ヤキモキしてましたもんね」


「同期だからと、それとなく相談されていたからな。これでやっと肩の荷が下りそうだ」




 ああああ!! 今誰かとすれ違ったような気がする!


 こんな姿見られるなんて、これが三十手前の女の行動かよ!!


(クッッソ!! 二十八年間も男を作らなかったツケが今更回ってきた!! 今度からどんな顔して会えばいいんだよもう!!!)

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娯楽に恋話を求めた結果、側近から不意打ちを受けてしまいました~一瞬でひっくり返される状況、顔を赤くするのはどちらなのか~ こまの ととと @nanashio

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