油っぽいオッサンは世界最強!?〜揚げ物は異世界を支配できるって知ってました?
春風邪 日陰
第1話 異世界は油っぼい能力と共に
昨今の日本はどうかしている。
度重なる増税に役人の失態。著名人の誹謗中傷なんて耳にしたくなくても聞こえてくる。
いつ見たってネットはどこも炎上状態。
その影響なのか、挙げ句の果てに大気の気温まで上がって真夏にもなればエアコンがなきゃ生活すらままならないほどになってしまった。
熱中症とは恐ろしい。自分でも気づかない内に体内の水分が不足して倒れてしまう。最悪の場合には死に至ることもあるとても危険な病である。
それを防ぐ方法は簡単だ。
喉が渇く前にこまめな水分補給を欠かさないこと。そして、涼しい場所にいること。
それさえ守っていれば熱中症も怖くはない。
その筈だった。
俺、間宮雄二郎は自分の数少ない趣味である料理に夢中だった。
結婚もせず仕事だけをただただこなす毎日。俺は所謂独身貴族を謳歌していた。
そんな俺の趣味らしい趣味といえば、マンガやアニメを見るくらい。後は自分の為だけに料理をする事だろう。
因みに俺の得意料理は揚げ物全般。
この世にある殆どの食べ物は揚げてしまえば上手くなる、それが俺の持論だ。
「カロリー?知ったこっちゃない」
いつ死ぬか分からないのが人生だ。だったら食べたい物を食べなくちゃ!
あ、勿論野菜だって食べてるし体だってそこそこ動かしてるから何も問題はない。
あの時の俺は久々に作る鶏の唐揚げに夢中過ぎた。
究極の唐揚げを食べる為に必要なこと。それは最高のコンディションを整えること。その為には順序が大切だ。
まずは外へ出て体を無駄に動かし疲れさせる。その間に肉は秘伝のタレに漬け込み味を染み込ませた。
後は粉を塗して揚げるだけ。体の汗を拭う事もなくエアコンもつけず俺はキッチンに向かった。
普段は揚げ焼きにして油をケチる事もあるが今日は多めの油で一気に揚げる。
キッチンは油が飛び跳ねベタベタに。室温も上がり額から汗が垂れる。
だけど今日は気にしない。何故なら唐揚げだから。
カラッと揚がった唐揚げを一度バットに取り出し油を切る。
この時点で既に香ばしく揚がった醤油の匂いが俺の胃袋を刺激する。
「もう我慢できない!!」
俺は冷蔵庫から冷やしておいたグラスとちょっと高級な缶ビールを取り出す。グラスを少し斜めにしてゆっくりと注ぐ。
目の前には器に盛った唐揚げ。左手にはキンキンに冷えたビール。
「いただきますっ!!」
まずはビールをゴクゴクと飲み干す。乾き切った体に冷えたビールが染み込んでいく。
普段ならこれだけでも十分幸せだ。
だけど今日は違う。なんてたって唐揚げがある!俺はこの時を待っていた!
出来立てほやほやアツアツの唐揚げを大きな口を開けて頬張ろうとしたその瞬間だった。
「あれ?……」
急に目の前の視界がボヤけだす。次第に体にも力が入らなくなり箸を落としてしまう。
「やべぇ……もしかして、これ、」
そりゃそうだよな。疲れて熱った体。バカみたいに上がる室温。極め付けは脱水時のアルコール摂取。そんなのいくらなんでもやっちゃいけないよなぁ……。
「熱中症だ……」
そして俺は気を失った。いや、熱中症で死んだらしい。
僅か35年で俺の人生は幕を閉じた。その日は俺の誕生日だった。
それにしてもまさか揚げ物を目の前にして死ぬなんてな。
めちゃくちゃ無様ではあるけれど揚げ物を愛している俺らしいといえば俺らしい死に方だったのかもしれない。
◇◇◇◇◇◇
「ん?……」
死んだ筈だった俺は何故か生きている。というか死んだことが自分で分かってる時点で不思議なもんだ。
「なんだここ?……」
目の前はひたすら木々が生い茂っている。森?それとも山の中?とにかく自然が豊かな場所なのは間違いない。
「それになんでスーツ着てるんだ…」
普段仕事で着ているお気に入りのスーツに普段持ち歩いているバッグだけが手元にあった。
こんな状況、どこかで見たことがある気がする。
死んだと思って目が覚めたら、日本とは違う何処かに飛ばされてる。そんな話が最近流行ってる。
「まさかと思うけど……」
茂みからかさかさっとした音が聞こえて、俺は慌てて振り返る。
「っ、まさかな…」
俺は恐る恐る茂みに近づく。するとその茂みから小柄でツノが生えたウサギが飛び出してくる。
「やっぱそのまさかかーーー!!」
俺は慌てて走って逃げる。
あれはただのウサギじゃない。動物でもない。あれはモンスターだ。
知っての通りモンスターは日本にいない。
つまりここは……
「間違い無い。ここは異世界だーーー!!!」
大声に反応して大量のウサギ達が群れをなして俺を追ってくる。
「やべっ」
事実は小説より奇なり。なんていうけれど、それはどうやら本当の事らしい。
◇◇◇◇◇◇
何はともあれ何とか大量のウサギ達を撒くことができた。
「とにかく、まずは人気の多い場所に行かないとな」
しかし、この森にはウサギ意外の魔物がいないとは限らない。ってか間違いなくいる。いないわけがないんだ。
さっきはなんとかなったからって次も上手くいくとは限らないしな。
「あーあ。ここが異世界なら俺にもないのかチートスキル…」
<ステータスを確認してください>
ぼそっと言った俺の声に反応したのか、脳内から謎の女性の声が聞こえる。
「え、まさか天の声?」
<ステータスを確認してください>
どうやらその質問には答えてはくれないらしい。
「だけどステータスなんてどうやって確認すればいいんだ?」
<ステータスと叫ぶか心で念じてください>
だけど必要な事には答えてくれるみたいだな。それもぶっきらぼうに。まるでAIみたいだ。hay○○とか、OK●●●って言ったら反応したりして。
<ステータスを確認してください>
分かったよ。分かってるって!冗談だから……。とにかく確認してみるか。
「ステータス!」
すると目の前に幾つかのウインドウが表示される。
「おっ!本当に出たぞ…」
1番上には名前が書いてある。
〔間宮雄二郎 30歳 彼女いない歴=年齢〕
「一言多いんだよ!一言!…何でそんなこと知ってんだ。それにこんなのステータスに書かれてたらいずれバレるんじゃ」
<ご安心ください。ステータスはプライバシーな為誰かに覗かれる事はありません>
「そうなのか……」
一安心。
って、そんなことよりスキルを確認しないと。
「えっと俺のスキルは。は?……」
〔スキル【オイルマスター】〕
「何だこれ……」
スキル欄に書かれていた唯一のスキルは全く意味が分からなかった。
「オイルマスターってなんだ?……聞いたこと無いぞそんな能力。ってか、チート能力なのかコレ……」
ダメだ。いくらなんでも情報が少なすぎる。これじゃ能力の使い方も分からない。どうすれば……あっ!
「スキル。オイルマスターの説明」
って聞いたら親切に教えてくれたりして。無理か。
〈スキル【オイルマスター】の説明を開始します〉
「おっ、上手くいったぞ!」
〈【オイルマスター】自由自在に油を使いこなす能力。現在初期能力が使用可能です〉
「え、それだけ!?いやいやいやいや」
聞きたいのはそういう事じゃない!油を自在に使いこなすって意味は分からないけどなんとなくオイルマスターって響きで予想はしてた。
「俺が聞きたいのはコレがどんな能力を使えるかだ!もちろん詳しく!」
〈オイルマスター。自由自在に油を使いこなす能力。現在、〉
「あーー分かった分かった。もういいよ…」
結局同じことの繰り返し。これ以上は説明出来ないってことか。
だけどどうしたもんかな〜。油を自在に使えるって言われてもそれをどうしろって……
「ん?」
変だ。なんか妙に右手がムズムズする。
なんだこの感覚は、尿意じゃないけど尿意みたいだ。
なんかそれは嫌な気分……
「あ、出るっ!」
すると右手から少し黄色がかった透明な液体が吹き出した。
「ウワッ。何だ、なんか出た!!」
アレでは無さそうだけど。だったら一体アレはなんだ?
俺は恐る恐る吹き出した液体を触ってみる。
「うおっ……滑る。めちゃめちゃヌルヌルする。コレって油か。しかもサラダ油だ」
まぁ、だよな。驚き過ぎた。オイルマスターって時点で出る液体は大体決まってる。
「って、ヤバい!」
吹き出た油が近くの川に流れようとしている。
「油なんか川に流したら大変なことになる!あ、でもここは異世界なわけだし別にそうとは限らないか……いや、そうじゃないだろ!」
とにかく油を川から遠ざけないと。でも油を拭くものなんて今は何も……。
「うわっ!!」
すると今度はいきなり左手から白い煙が油目がけて噴射する。
「て、手から勝手に。油の次はガスか!?」
暫くして煙が止まると目の前に流れていた筈の油に変化が起きていた。
「固まってる……」
流れていた油が見事にゼリーのような個体になって固まっている。
「なんなんだこの妙な能力は……」
右手からは油が吹き出て、左手からは油を固めるガスが出る。
異世界に来て手に入れた俺の能力はこれだけ。
なんなんだろうな。この絶妙にチートスキルとはかけ離れた微妙な能力。
「俺、異世界で行きてけんのかな……」
果たして俺は本当にこんな能力で異世界を生き抜いていけるのだろうか?
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