『システム管理者の異世界攻略』 ~デバッグスキルで最強のダンジョンマスターに転生しました~

ソコニ

第1話 『最後のデバッグ』


青白い蛍光灯の下、キーボードを叩く音だけが研究室に響いていた。


「まだ帰らないの?相変わらずだねえ、河野君は」

「もう少しです。このバグ、絶対に今日中に見つけてやる」


声をかけてきた教授に頭を下げながらも、俺の指は止まらない。画面に映る無数のエラーログの海を泳ぐように、目が滑っていく。


河野陽太、24歳。大学院でAIの研究をしている普通の学生‥‥というには、少し特殊かもしれない。小学生の頃からプログラミングに没頭し、高校時代にはすでに数々のコンペティションで賞を総なめにしてきた。だが、そんな経歴も今目の前にあるエラーの前では何の役にも立たない。


「どこだ‥‥絶対にここにあるはずなんだ‥‥」


開発中のAIは、仮想空間でのリソース最適化を行うシステム。言わばゲームのダンジョンマスターのような存在だ。モンスターの配置から報酬の設定まで、すべてを自動で最適化する。


だが、直前のテストでシステムが完全にフリーズ。原因不明のエラーが次々と発生し、ログだけが延々と吐き出され続けている。


「見つけた!」


歓喜の声を上げた瞬間、モニターがまぶしい光を放った。その光は次第に強さを増し、研究室全体を包み込んでいく。


「なっ‥‥!?」


突然の事態に目を見開いた時には、すでに遅かった。意識が徐々に遠のいていく。最後に見えたのは、モニターに浮かぶ不思議な光の渦。まるで意識を吸い込むように、渦は光を放ち続けていた。


そして、すべてが闇に沈んだ。


* * *


どれくらいの時間が経ったのだろう。


ふわりと、意識が浮かび上がってきた。まるで深い眠りから目覚めるように、ゆっくりと。


不思議な感覚。自分の体が‥‥ない?


代わりに感じるのは、広大な空間の気配。まるで無限に広がるデジタルの海の中心にいるような。データの流れが、潮のように自分の意識を包み込んでいく。


『システムステータス:オンライン』

『ダンジョンマスターコア:起動』

『新世界へようこそ』


青く輝く文字が、意識の中で静かに瞬く。


「おや、意識が戻ったようですね。ご機嫌いかがですか?新しいダンジョンマスター様」


突然聞こえてきた声に、意識を向ける。そこには、画面の向こうで微笑む銀髪の少女。彼女の背後には、剣や杖を持った冒険者たちの姿が見える。


「‥‥はい?」


困惑する間もなく、世界が広がっていく。まるでデジタルの海に潜るように、この空間のすべてが感じられる。そして衝撃の事実に気づく。


まさか‥‥俺が作っていたAIシステムの中に、意識が転送されたというのか?




「え、えっと‥‥これって‥‥」


「ようこそ、新しいダンジョンマスター様。私はシステムアシスタントのアリア。これからご案内させていただきます」

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