好きで嫌いな彼女達。
睦月短冊
第1話 プロローグ
「俺と――付き合ってください」
『恋』とは、昨日読んだ本
いや、待ってくれと思った。それは元から関係値がある女の子じゃないだろうか。『既にある程度話せる』女の子が果たして何人いるだろう。そんな女の子と恋に発展する程の仲になるのは……どれほどの確率?
ここは一旦、全然話した事がない女の子と恋をする場合を考えてみよう。
授業中、つい消しゴムを落としてしまい、ほとんど話した事が無い子に「はい、消しゴム落としたよ」と言われ笑顔を向けられたとする。
うん……それは『きゅん』だな。その上俺だけに見えるように彼女はウインクをする。相手は恋に落ちるか死ぬ。
つまり俺の死因は『きゅん死』。果たして母と父と妹は泣いてくれるのだろうか。
そんなラブオアダイな高校二年生の俺――
そんな小春とは高校生になった今でも一緒に登下校したり、たまに夕ご飯を一緒に食べている。
そして休日も……と言ったように、いくら幼馴染と言えど距離感が近すぎる事は気付いていた。それでもこの関係がとても心地良くて。
だから――『恋』を自覚するのに、そう時間はかからなかった。
そんな長い付き合いの彼女に告白しようと決めた時、本当に悩んだ。何せ経験が無い。
なんて言えばいいんだろう。付き合ってください? それとも何かかっこいい事を? ――と告白文をノートに書いて、次の日恥ずかし過ぎて、布団の中で叫んでみたり。
結局、在り来りで平凡な、それでも精一杯の気持ちを込めた、そんな言葉を伝えた。
――え? お前も元から関係値のある女の子に恋してるじゃないかって?
そう、俺には幸運な事に可愛くて距離感が近すぎる幼馴染が居て、しかも家が隣という創作みたいなミラクルが起きている。まさに宝くじを掴み取ったような幸運。
でも、確かに誰もが羨む状況だけど、このくらい許して欲しい。
なぜなら――、
「あー……ごめんね、付き合えない」
――今、そんな彼女に、振られたのだから。
◇
「……はぁ」
小春に振られ早数十分、数え切れない溜息をしながら、俺は未だにその場から動けずに居た。
ちなみにその場とは告白に選んだ場所である学校の階段下である。理由は中々人が来ないから。
擦りすぎて痛くなってきた
『私と湊はこれからも親友でいよ?』
好きと言われても今の関係は壊したくないと小春は思ってくれていた。それはとても嬉しい事だ。
明日の朝からまた一緒に登下校して、たまにお互いの部屋でゲームをしたりして……そしていつか、友人代表として小春の結婚式のスピーチを――。
「嫌だぁ……」
ぽろぽろと涙が溢れる。
無理だ、嫌だ、死ぬほど苦しい! 何年……何年、小春を好きだったと思ってるんだ。諦めたくない――そうだ、これからもっとかっこいい所を見せれば。
『私と湊はこれからも親友でいよ?』
親友では居たいと思ってくれてるならまだチャンスだってきっと……!
『私と湊はこれからも親友でいよ?』
きっと……。…………。
……いや、分かってる。きっと、じゃない。もう終わったんだ。俺はそんな甘い気持ちで告白してない。
振られたら今の関係が終わると覚悟して告白したんだ。――結果として明日から親友に戻るけど。
「……っ……」
歯を食いしばり、必死に我慢しても涙が溢れてくる。
俺は必死に声を押し殺して泣いた。膝を抱え、顔を
「こんな所で何してるの?」
「……柊?」
だから、近づいてくる彼女の足音に、全く気づけなかった。
◇
俺は彼女の事が嫌いだ。理由はシンプル――俺の事を嫌っているから。
朝教室に入り、すれ違えば、
「おはよう、夏目君。今日も不愉快な顔ね」
と言われ、ある日の昼休みには、
「あらこんな所にゴミが……ってなんだ夏目君か、間違えちゃったみたい」
と言われた。どうやったら人をゴミと見間違えるの? そんなわけないよね。
それ以外にも何かと因縁を付けられ最初こそ無視していたのだが、最近では普通に言い返す事にしている。
「……何の用だよ」
そもそも何で柊がここにいるんだ。たまたまここに来た? ……中々人が来ない場所だと思ってたんだけど。
「別に? 珍しく夏目君が泣いてるから、からかおうかなって」
「泣いてないけど」
「子供みたいな嘘ね、しばらく泣き声も聞こえていたわ」
ねぇ、いつから居たの?
まさか告白した時から居たんじゃないだろうな……と思ったが、自爆する訳にもいかず心の中に閉まっておく。
さも当前のように隣に座る柊に対し、顔を見られないように逆方向にある消火器を見つめ、声をかける。
「なんで座ってるんだよ、帰れ」
「夏目君がして欲しい事を私はしたくないのよ、余計に帰りたく無くなったわ」
「じゃあ一緒に居てくれ」
「はぁ、仕方ないわね」
「いや帰ってよ、話が違うじゃん」
そんないつもの様な会話になってしまう。
というか何故俺は好きな人に振られて嫌いな奴と話しているのか、この世に神は居ないのか。
「人と話す時はちゃんと目を見て話すべきよ、夏目君」
「泣いてるって知ってんだろお前、見たくても見れないの」
「驚いた、そんなに私の可愛い顔が見たかったの」
「お前の耳は本当に都合が言いように出来てるんだな」
「お世辞はいいわよ」
「褒めてないから」
まずい、またこいつのペースに乗せられてる、これは良くない。とにかく話を切り上げなければ。
「……柊、悪いけど今は」
勘弁してくれと、そう言おうとした時。
「――ねぇ、夏目君。私と付き合わない?」
「……は?」
柊の方を向き、驚く。言葉もそうだが、それだけじゃない。
だって彼女は――柊は。
顔を真っ赤にして、俺の目を上目遣いで見つめていたのだから。
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