今昔物語〜本朝つけたり霊鬼

大高長太

第1話 おにどのの霊

今では昔のことですが、三条通りと東洞院ひがしのとういん通りの交わる北東の角は「おにどの」と呼ばれていました。そこには霊がいたのだそうです。


まだ京都がみやことなる前、この場所には大きな松の木が生えていました。


そこに矢筒を背負った男が馬で通りかかったのですが、突然の雷雨に見舞われ、あまりの雨で進むこともできずに松の下へと避難しました。


ところがその時、雷が松の木に落ち、その男は馬もろとも裂き殺されてしまったのです。


そうしてその男は霊となりました。


その後、京都はみやことなり、この場所も人の住む屋敷となったのですが、この霊はその場所を離れず、未だに留まっているのだとか。


そのためにその場所ではたびたび悪いことが起こるのだと、人々は語り伝えて来たのでした。



三条東洞院鬼殿霊語 第一


今昔、此の三条よりは北、東の洞院とういんよりは東の角は、鬼殿おにどのと云ふ所也。其の所に霊有けり。


其の霊は、昔し未だ此の京に京移みやこうつりも無かりける時、其の三条東の洞院の鬼殿の跡に、おおなる松の木有けり。其の辺ををのこの馬に乗りて、胡録やなぐいおいあるき過ける程に、にわか雷電霹靂らいでんへきれきして、雨痛く降ければ、其の男、過ぎずして、馬よりおりて、自ら馬をひきへて、其の松の木の本に居たりける程に、雷落懸りて、其の男をも馬をも蹴割けさき殺してけり。て、其の男、やがて霊に成にけり。


其の後、京移みやこうつり有て、其の所、人の家に成て住むと云へども、其の霊、其の所を去らずして、于今いまに霊にて有とぞ、人は語伝へたる。きわめひさしく成たる霊なりかし。


れば、其の所には度々からぬ事共ことども有けりとなむ語り伝へたるとや。



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