ミイラちゃんは弱らせたい

霜月ふたご

本編

第1話『ミイラちゃんは頑張りたい』

 カラッカラにあつい暑~いくにのこと。

 どれだけ暑いかといえば──ものがみんな干乾ひからびてんでしまうほどの暑さ。

 気温きおんたかいというよりも、湿度しつどきわめてひくいといった方が良いだろう。水源すいげんなんて何もありはしない。いずみの水はみんなれてしまったし、あめなんてものもったりはしない。

 だから、ここにいるみんなは干乾びていた。

 人間にんげんだってそうだ。ほねかわだけの状態じょうたいでガリガリにやせ細って、のどはいつもカラカラだ。


「あー、だるいなぁー。もぅ……」

 こちらは全身ぜんしん包帯ほうたいいた少女——これ、ミイラちゃん。

 他のみんなと違うのは、彼女だけ肌艶はだつやが良くて白っぽかった。たわわにふくらんだその弾力だんりょくのあるむねは、包帯によってギュッとけられていた。

 他の誰しもが干乾びている中──ミイラちゃんだけは生き生きとしていた。

 まぁそれは、彼女がモンスターに分類ぶんるいされる存在であるからなのだけれど──見た目には、ほとんど人間の女子と変わりない。

「こう暑くちゃ、たまらないよねー。あー、暑い暑い」

 そう言いながらミイラちゃんは、包帯を引っ張りながら手であおいだ。おかげで包帯の下に隠されていた豊富ほうふな胸の谷間たにまがさらにむき出しになる。

「おぉっ!?」

 干乾びた男たちは活力を取り戻し、起き上がって目をまん丸にした。


「は? あんたら、なんで起きるの? 早くそのままててよね!」

 ミイラちゃんはののそりながら腰の包帯をたくし上げた。彼女の太ももがあらわになる。

「おぉ……!」

 干乾びた男たちはさらに興奮こうふんしたものだ。息絶えようとしていたご老人までもが息を吹き返して、そのひとみかがやかせた。

「え、なにこいつら、しぶといんだけど……。さっさと死になさいよ、まったく……」


 そんな男たちの興奮した眼差まなざしが向けられている意味を、ミイラちゃんは理解できていないようであった。

 まだ痛め付けが足りないのだと勘違いしたミイラちゃんは、男の頭を素足で踏み付けてやった。

「ほれほれ、痛いでしょ? 辛いでしょ?」

——グリグリグリ!

 クスクスと笑いながら、ミイラちゃんは男の頭をなじった。


「うひょぉっ!」

──しかし、やはり逆効果であったようだ。男の表情はいっそう生き生きとし始めた。

 これまた痛め付けているのに——反対に、生気を取り戻していく男たち。そんな彼らの生態せいたいが分からず、ミイラちゃんは困惑こんわくしたものだ。

「え、なんなのよ、もう! ……また今日も失敗ってこと? 不愉快ふゆかいだから帰るわ!」

 腹を立てたミイラちゃんはプイッと背を向けて帰ってしまう。

 すると、阿鼻叫喚あびきょうかん──。

「まってくれ!」

「まだ俺は踏まれてないぞ!」

「俺を踏んでくれ!」

 背後で男たちが必死に訴えたが、ミイラちゃんが聞く耳を持ってくれるはずもなく──無情にも重たい石の扉は閉じられてしまうのであった。

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