ひとりと、ふたりでいたいだけ

おいしいお肉

三人は仲良し


サキとカナタと、茉莉は三人グループ。

サキはカナタが大好きで、二人はいつも一緒だ。サキのあからさまな好意にも、かなたはいつもタジタジになっている。

二人は半ば公認のカップルのように扱われている。けれど、誰もふたりに「付き合っているの?」は聞かない。

なぜなら、その方が面白いし妄想が捗るからだ。

 女子校において、恋愛ごとといえば彼氏のいるごく少数の女子たちから伝聞される、やや誇張されたものばかりだ。やれ、キスをしたとか、セックスをしたとか、そういう肉体的接触に憧れたり、ひどい忌避感を持ったりするものも、少なくない。

 そんなわけで、ある種男性性を遠ざけつつも、エンタメとして恋愛を消費したい者たちからしたら、サキとカナタの二人は格好の題材なのだ。

 カナタが大好きだと全身で伝えて憚らないサキ、そんなサキの過剰すぎるくらいの愛情を柔らかな笑顔で受け止めるカナタ。二人はこの教室ではお似合いのカップルなのだ。

「お熱いねえ」

「お似合いだよね」

「絵になるよね」

「二人なら、デキててもむしろ嬉しいよね」

だって、綺麗だもん!とかしましく騒ぎ立てるクラスメイトたちは囁きあった。それを、傍観者であるところの、茉莉は恐ろしいほどの顰めっ面で見つめていた。

「で、実際のところどうなの?」

「茉莉は知ってるんでしょ?教えてよ」

「あれは絶対付き合ってる!」

 きゃあ!と盛り上がる少女たちに、茉莉は極めて無愛想な声で言った。

「知らん、どうでもいい」

「えー!あの二人と一番仲良いのって茉莉でしょ?」

「そうだよ、うちらよりずっと近くにいるじゃん」

「授業の時も、お昼も一緒に食べてるし、帰る方向も一緒なんでしょ?」

「やかましい、散れエロガキども!」

 茉莉がバッサリと切り捨てると、少女たちは蜘蛛の子を散らすように教室から飛び出していく。ぱたぱたという上履きの音が遠ざかって、霧散する。

 遠いゆめのように消えていくと、茉莉はため息をついた。茉莉は、この手の話題がひどく苦手だ。嫌い、と言ってもよかった。

 思春期の少女たちの恋愛に対するある種の羨望や、神聖視に耐えられず、嫌悪感をむき出しにしてしまう茉莉はクラスの中でも浮いていた。

 誰もが手負の獣じみた茉莉を、遠巻きに見ていた。

そんな中で、サキとカナタだけが茉莉に手を差し伸べた。クラスの皆は首を傾げた。二人で完結している世界に、どうして茉莉のような異物を入れるのだろうか、と。

その答えを、誰も知らない。おそらくは茉莉も。


 ただ、遠巻きにされている、という意味ではサキもカナタも茉莉と相違なかった。消費されているということは、見せ物にされて、人間扱いされないということだ。

 そのある種のシンパシーが、二人と茉莉を引き寄せたのかもしれない。


カップルであるサキとカナタ。そうして傍観者の茉莉。

舞台に上がることもないクラスメイトたち。

 これは多分、そういうお話だ。

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