元傭兵と女神と妖精
オノヒロ
??? 紅衣の司書
おや?どうもどうも。ようこそいらっしゃいました。当館に来客とは珍しい。いえいえ、お客様は大歓迎でございますよ。どうぞ、本日は心ゆくまで当館をご堪能ください。
えっ?私は誰ですって?嫌でございますよ。私はここの司書ですよ。
何です?司書にしては真っ赤な服で司書には見えない?お客様も異な事をおっしゃいますね?司書が真っ赤な格好で何か問題があるのでしょうか?……まぁ、そんな事はどうでもよろしいじゃありませんか。お客様が求めているのは私の格好の理由などではございませんでしょう?
そう、お客様が求めているのはお客様を満たせる本。それでございます。
はい?その割には前後左右に上下まで全て真っ黒で何も見えないですって?お客様もつくづく細かい事を気にされるお方ですな~。そんな事は本に没頭してしまえば気にすら留めなくなる事でしょう?
なるほど……こんな暗ければ本など見えない。見えなければ本の探し様が無いと。それも一理ありますな。しかし、心配はご無用。当館では、無数の本の中からお客様自身が本を探すのではなく、司書である私がお客様の望む本を紹介するというシステムでして……というのも、ここの本は実は私が編纂した物でございますから。
それでは、お前がここの本の全てを執筆したのかと?それは難しい問題でございますな。確かに、私が文字に起こしましたが、ここにある本は全て何時か何処かの誰かの人生を切り取った物でありますからな。もちろん、誰かから見聞きした事を書いた。などという手抜きではございません。私が全て観察し、対象の心を覗き、その魂の状態すら複製した完璧な表現作品でございますよ。この中には、お客様を満たす物がきっとあることでしょう。
当館のシステムをご理解いただけましたか?ふむ、それは重畳。それでは、お客様の趣味に合わせていくつか候補を挙げていきましょう。
まずはこちら。題を『金満堕落記』と申します。この本は清貧な男性がひょんな事から大金持ちになってしまい、次第に金に溺れてご堕落していく様を本人の意識の変化も含めて詳細に書いた大変面白い作品となっております。何よりも魅力的なのは、読めば読む程に読んだ人間すら堕落させる細やかな描写でございます。既に何人もの人格者を外道と呼ばれる堕落させた傑作で、非常にお勧めでございますよ。
なに、好みではない?そうですか……大変面白い本なのですが、残念です。
では、こちらは如何でしょうか?『躯、復讐セリ』、これは妻を殺され、自らも死に落ちた男がその恨みより不死者となりて自らを殺した者達に復讐を果たす物語です。こちらの面白い点は、やはり男の心理にあるでしょう。最初は妻の無念を晴らす為、自分の様な者を作らない為に行動していた男が、段々と精神まで不死者となっていく姿は不死者達の心理を知る上でとても興味深いものです。不死者の心理という、本来であれば生者には決して知りえない物を知る事が出来る貴重な本となっております。如何ですか?
ほう、暗い話は嫌いですか?それは残念。なればこそ、読んでいただきたいものですが、無理強いは私の趣味ではございません。
ならば、次はこちらを……っと、私が持っているこの本でしょうか?こちらはまだ書き掛けの物でして、結末はおろか題名すら決まっていない物なのです。とりあえずは、『元傭兵と女神と妖精』とでもしておくと致しましょう。この作品が駄作となるか、名作となるか……一体どの様な結末を迎えるのか……?私自身も楽しみにしております。
えっ?こちらをお読みになりたいと?そうですか……分かりました。お客様は久しぶりの来訪者です。私も最大限の便宜を図りましょう。しかし、先程も申し上げましたが、こちらは未完成の作品でございます。この本がお客様にとってどのような物となりますかは私にも判断は出来ません。願わくは、この本がお客様にとって素晴らしい物となります様に……
それでは、いってらっしゃいませ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます