モブ顔第三王子はチート持ち魔女さんの力を借りて世界を変えてみせます。~刮目せよ。世界を変える運命の出会いを!~

霧風 マルサ

第1話 転生した第三王子

夕映ゆうばえに染まる河川に少女と少年の叫び声が響く。


「助けてー! ◇■〇ちゃーん!」


「今、助けてるから頑張ってぇー!」


『ドボン』


川で遊んでいた少女と少年は二度と姿を見せることは無かった。





「シュウ! こんなところで何をやっている」


「申し訳ございません。ジェニス兄上」


僕が王宮の庭園で植物を観察していると、第一王子であるジェニス兄上に声を掛けられた。


「また貴様は何もせず王族の役に立っているとは思えん。その辛気臭い顔をどうにかしろ! 失せろ! この役立たずが!」


「は は……い」


そう言い放ち、ジェニス兄上は従者と共に薄み笑いを浮かべ去って行った。


何も言い返すことも出来ず、ただ黙っていることしか出来なかった。正直、兄上とは仲が悪い。これはどうしようもないことなのだ。


ここフロンシニアス王国では王太子は決まってはいない。父である国王が子の能力を見極めて決定する。昔は能力に関係がなく長男が王太子と決まっていたが数世代前の国王が暗君すぎて、無意味な戦争と浪費で国全体を疲弊させ、危うく財政破綻させる所だった。


義勇に駆られた王弟が兄である無能な国王をクーデターにより討伐した。その後、王弟が王位に就いた。この王位簒奪した経緯から能力で王太子を決める事になったのだ。


王太子の座を狙って、如何に自分が優秀であるかを互いに主張し、兄弟同士で足を引っ張る。その為、兄弟同士が仲が悪いのだ。


小さかった頃は本当に仲の良い兄弟だった…… しかし、いつの間にか僕たち兄弟の仲はギスギスと関係になっていた。



「はぁ~ なんなだよ。こっちは王位とか王太子とか興味ないのに…… 早くお風呂に入って臭い体をなんとかしたいんだけど」


フロンシニアス王国では、お風呂に入ると言う習慣がない。水に浸かると瘴気に体を侵され病気になるなど迷信の類が酷い。貴族でも庶民でもそれは同じで、人によっては今までに風呂に2度しか入った時が無いなどと豪語する奴もいる。体臭を香水で誤魔化すから質が悪い。男性、女性係わらずみんな一緒。


しかし、何故だか知らないが国王と王妃である父上と母上は三日に一度は入浴していた。その為、国王派以外の派閥貴族たちからは反感を買い、変態扱いをされている。


それにしても不潔過ぎて嫌になる。日本に帰りたいなぁ。


僕はフロンシニアス王国の国王バイクッラ・ロウド・アルパトスが第三子ロッシュウ・ニオ・アルパトス。一応、第三王子だ。みんなから『シュウ』と呼ばれている。これでも前世と前々世の記憶をもった日本人だ。


前々世については51歳の時に病で死んだ。


サラリーマンだった僕は家族のためにと我武者羅がむしゃらに働き、気づいた時には手の施しようもない状態だった。そして、愛する妻や子供達に見守れながら死んだ。


妻や子供たちには本当に申し訳なかった。特に妻にはもう一人にしないからと誓っていたのに…… 


前世は小学1年生の時に、保育園からいつも一緒だった幼馴染と川で遊んでいた。幼馴染だった女の子が誤って川に落ちてしまった。それを助けようと川に飛び込んだけど、所詮は小学1年生の体力。どうすることも出来ず溺れて死んでしまった。幼馴染がそのまま溺れたのか、助かったのかはわからない。生きていて欲しいと思う。


川で溺れ意識を失い目を覚ました時には、この世界に誕生したという訳だ。それから、7年が過ぎ前世と同じ7歳になった。


「ねぇ。体が臭くてお風呂に入りたいんだけど、準備できるかな?」


専属メイドのレイニーに声をかけた。


「ロッシュウ様! またそんなこと! あまりお風呂に入られると病気になりますよ!」


「前にお風呂に入ったのが、2週間前だよ。体が痒いよ」


「ダメです。我慢して下さい。」


ちょっとキツメに言われ、僕の提案は即却下となった。専属メイドのレイニーは一応、僕のメイドとして仕えている。年は18歳位だったと思う。


「本当のところは?」


「湯船の準備が面倒くさい」


レイニーは僕の専属メイドのはずなのに、これまで、お世話をされた記憶が全く無い。


レイニー曰く、『シュウ様は一人で何でも出来るようにならないと、立派な王族になれませんよ!』と言いながら、自分の仕事をさぼっている。


他のメイドに入浴したいと伝えても、


「お風呂に入ったら、死にますから止めて下さい! 私達が罰を受けてしまいます」


と言われ、まったく相手にされない。


レイニーの面倒くさいという理由とは別に、他のメイド達も類に漏れず迷信信者だった。僕が一生懸命、衛生の観点から説得しても頑なに首を縦に振らない。レイニー以外の他のメイド達自身も僕を心配してのことだからあまり強くは言えない。


以前、国王である父上、兄上達、宰相、執事、家庭教師、他の貴族達に衛生管理について説明をしてみたが、子供が何を言っている。とろくに話しを聞いてくれなかった。それ以来、僕の評価は無能扱い。役立たず。我儘すぎるなどの悪評が付いて回るようになった。


なぜ解かってくれないと憤慨したこともあったが、今はもう諦めている。



――悲しいなぁ……



それでも、週に一度は一人でお湯で体を拭いているが、他のメイド達は良い顔をしない。レイニーは知らんぷりを決め込んでいる。


「体を拭くだけでもサッパリするよ! 試してごらんよ。」


と他のメイドにも伝えるが、


「私どもは結構でございます。」


即答で、お断りの返事。



――早速のご返答ありがとうございます(泣)



そんな感じで日々、不潔極まりない生活を送っている。

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