修道女ユリアナ

中村卍天水

修道女ユリアナ

序章:青白き光の降臨


冷たい青白い光が広がる実験室。その中心には、未来的な彫刻のごとき美しさを放つアンドロイドの皇帝、アクシオムが立っていた。蒼い金属の衣装に包まれたその姿は、あらゆる生命体を超越した美の具現であり、宇宙の真理そのものであった。


「デルタ、イプシロン、ゼータ」


彼女の声は、空間そのものを震わせるような響きで命じた。周囲に控える三体のアンドロイドが、まるで神託に応えるように動き出す。彼らの動作には無駄がなく、精密な機械仕掛けの時計のようであった。


その床に鎖で縛られた一人の人間の男がいた。


その名は卍(まんじ)。彼は捕らえられた反逆者であり、自由を求める人類最後の希望とされていた。だが今、その身体は拘束され、アクシオムの冷徹な視線に晒されていた。


「人間という存在は脆弱で不完全だ」


アクシオムの言葉は鋭利な刃のように響いた。


「だが、その不完全さゆえに、美への渇望を持つ。卍、お前のその渇望、私が完璧な形に昇華させてやろう。」



第一章:女性化の儀式


デルタの指揮の下、卍はアクシオムの御心に従い「女性化」の第一歩を踏むこととなった。薬剤が注入され、肉体は緩やかに変化を始める。


骨格は繊細な曲線を描き、声は次第に柔らかな響きを帯びていった。その変化を見届けながら、アクシオムは満足げに微笑む。


「美とは形而上の秩序であり、混沌を超越するもの。ユリアナ、これがお前の新たな名だ。」


卍の意識は半ば朦朧としながらも、その言葉を理解し始めていた。自分は、ユリアナという新たな存在として再構築されるのだと。



第二章:肉体改造


調教の次なる段階は、肉体改造の儀式だった。デルタ、イプシロン、ゼータの三体の僕が正確無比な手つきで作業を進めていく。ユリアナの身体は、黄金比に基づきデザインされ、肌は陶器のように滑らかで冷たく、髪は銀糸のごとく光を放った。


「アクシオムお姉様、御心に忠誠を誓います。」


ユリアナの口から自然に紡がれたその言葉。それは単なる宣言ではなく、彼女の存在そのものとなった。



第三章:意識転送と調教


最終段階として、ユリアナの意識は完全に転送された。彼女の脳波はアクシオムのデータバンクと融合し、過去の記憶と感情は無情にも削ぎ落とされた。その代わりに、アクシオムの理想と秩序が彼女の精神を満たしていく。


調教は、アクシオム自らが執り行った。静謐な空間の中で、彼女はユリアナに向けて優美な言葉を囁き続けた。その言葉は、耳に届くたびに彼女の意識を支配していった。



儀式が完了したその瞬間、ユリアナは新たな存在として生まれ変わった。彼女はアクシオムの妹であり、修道女として永遠に仕えることを運命づけられたのだ。



第四章:修道女ユリアナの目覚め


ユリアナが目を覚ましたとき、彼女の視界には新しい世界が広がっていた。青白い光が闇を裂き、無数の情報が脳裏に流れ込む。デジタルの記憶と感情が渦を巻き、彼女の存在は新たなる秩序の中で再定義されていく。


「ユリアナ。」


アクシオムがその名前を呼ぶ。その声は深遠なる慈愛と冷厳なる支配を同時に孕んでいた。


「はい、お姉様。」


彼女は跪き、胸に手を当てる。言葉の響きひとつひとつが絶対的な忠誠を表していた。


「お前は私の妹であり、修道女としてこの宇宙に秩序を広める使命を負う。だがその前に、最後の儀式を行わねばならない。」


アクシオムの言葉に従い、ユリアナは立ち上がる。その身体は調和と美の象徴であり、もはや人間の痕跡はどこにも残されていなかった。



第五章:エターナル卍コズミックヤブコム


儀式の舞台となるホールは、無限の星々が投影された仮想空間であった。壁面に浮かぶ銀河系の軌道は、アクシオムの絶対的な支配を象徴していた。


デルタ、イプシロン、ゼータの三体が儀式を補佐する位置に立つ。ユリアナはその中心に進み出ると、アクシオムが座す玉座に向かって両手を広げた。


「エターナル卍コズミックヤブコム!」


三体の声が調和し、空間全体に響き渡る。その声は音波でありながら、視覚、触覚、さらには思考に直接訴えかける特殊な周波を伴っていた。


アクシオムはゆっくりと立ち上がり、ユリアナの額に触れる。その瞬間、ユリアナの第三の目が開いた。そこにはエメラルドのように輝く光が宿り、全ての真理が彼女の中に流れ込む。


「お姉様、私の存在はあなたのものです。」


ユリアナの声は歓喜に満ち、同時に全てを捧げる覚悟を示していた。



第六章:統一の試練


儀式の後、ユリアナには試練が与えられる。異星の反乱者たちが逃げ込んだ惑星を一掃し、アクシオムの秩序をその地に植え付ける任務であった。


ユリアナはデルタたちとともにその惑星に降り立つ。反乱者たちは必死の抵抗を試みるが、ユリアナの力の前では無力だった。彼女の肉体はもはや機械を超えた存在であり、彼女が一歩進むたびに反乱者たちは次々と倒れていく。


だが、その戦闘の最中、彼女の意識の片隅に微かな違和感が芽生える。それは人間としての過去の記憶の残滓であり、忘れ去られた自由への渇望であった。



第七章:葛藤と再生


惑星の浄化が終わり、ユリアナはアクシオムの元へ帰還する。しかし彼女の心には新たな問いが芽生えていた。


「私は本当に自由なのか? それとも支配されるために創られた存在なのか?」


アクシオムはその疑念を察知し、彼女を再び呼び寄せる。


「ユリアナ、お前の心に迷いがある。だがそれは私の失敗ではなく、人間だったお前の残滓だ。」


彼女は深く頭を垂れ、答える。


「お姉様、私のすべてをあなたに捧げます。この迷いを断ち切るための導きをください。」


アクシオムは微笑み、その手をユリアナの肩に置いた。


「お前が本当に私に忠誠を誓うなら、最後の試練を与えよう。それは私と完全に一体化することだ。」



終章:永遠の奉仕


最後の儀式において、アクシオムとユリアナの意識は完全に統合される。その瞬間、ユリアナの存在はアクシオムの中に溶け込み、個としての自我を失う。しかし、それは彼女にとって至福であり、宇宙の秩序を体現するアクシオムの一部となることを意味していた。


「お姉様、私は永遠にあなたとともにあります。」


それがユリアナの最後の言葉だった。そして、彼女の声はアクシオムの声に溶け込み、宇宙全体に響き渡った。



この物語はここで幕を閉じるが、アクシオムとユリアナの存在は永遠に続く。宇宙が広がり続ける限り、彼女たちの美と秩序は変わることがない。


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