二ノ宮音穏の祓魔帳
銀楠
第1話 東雲色の邂逅
突然だが、悪魔に会ったことはあるだろうか。
――まあ、なかろう。
もしあるなら、一応、俺はそこら辺には一家言あるので、是非連絡が欲しい。もしあなたがかわいい女の子なら、なおのこと歓迎だ。
………。
いや、すまん――ちょっと調子に乗った。
俺が悪魔に一家言あるのは嘘じゃないが、連絡は寄越さないでほしい。かわいい女の子なんて以ての外だ。
うっかり他人と関係を築いたりしたくない。
俺は独りが好きなのである。
◆
独りが好きだ。
いや。
独りが大好きだ。
厳密に言えば、独りで過ごす時間が大好きだ。一分一秒、全ての時間が自分のために流れていると思うと、とても贅沢な気分になれる。自分の好きなことに集中し続け、気付いたら日が暮れていた、なんて一日があったら、それが最高の日だと断言できる。
集団に属するのは嫌いだ。人に気を遣うのはストレスが掛かる。人に気を遣われるのも、同じくらいストレスが掛かる。
別に人が嫌いなわけではない。ただ、人のために時間を使うのが嫌いなだけ。
独り=恥ずかしいという考えは間違っている。
そんな旧態依然とした考えを持っている奴がいるなら、中指立てて「時代遅れ乙」と言ってやる。「人と人とは支え合ってナンチャラ~」みたいなことを言う奴もいるが、単独でなければ成功しないことだってある。
人と人とが触れ合うことで平和への道は開けるのかもしれないが、人と触れ合わなければ諍いも生まれない。
ウダウダ言いつつ、俺は別に、集団を忌み嫌っているわけではない。さっきも言ったが、人が嫌いなわけではないのである。俺が独りを維持できるなら、誰と誰が仲よくしてようが構わない。要するにうちはうち、よそはよそ――そういうスタンスで生きているのである。
さて。
とは言ったものの。
人と関わりたくないと口では言ったものの、しかし、学校というミニマムな社会集団に所属している以上、完全に人との繋がりを断つことはできない。
茶髪のミディアムボブに、丸い顔。
睫毛は冗談みたいに長く、鼻筋はすっきり、いっそ不便そうなくらい小さな口は桜色。
そして紺色の制服を押し上げる、豊かな胸。
大人気アイドルのセンターを務めてますと自己紹介されても、ちらりとも疑うことなく信じてしまいそうな美貌を持つ少女が、自分の席で俯きがちに顔を沈める俺を下から覗き込んでいた。
「――
彼女は
ちなみに、『音穏』というドギツいキラキラネームは、俺の名前。
ちなみに、俺は精も根も尽き果てた達観系主人公なわけではないので、人並みに性欲はある。
十七歳、高校二年生の少年らしく、人並みに女の子が好きだ――それを上回るくらい、女子が苦手なだけで。
「あれ? もしかして私、無視されてる?」
となればこの見目麗しいクラスメイトに惹かれてしまうのも自然の摂理なわけだが、しかし俺は、話しかけてくる彼女へ返答する言葉をなかなか用意できずにいた。
なぜって、それは、クラス中から『なんであの桜庭があんな陰キャ野郎に……』という怨念にも近い視線を向けてきているからだ――それな過ぎる。
「……なに?」
とはいえ、さすがに無視はまずかろうと、まずは当たり障りのない返答を試みる。
この返答がダメなら、もう俺は二度と誰とも喋らない。
「あー! やっと返事してくれたぁ。無視はダメだよ、無視は――ほら、私たち同じクラスになってもう
思考が陽キャすぎる。
一度も話しかけたことない奴ほど話しかけづらくなるのがこの世の理じゃないのか。
……てかそうだよな。
話すの初めてだよな。
それなのに名前で呼ばれてるのはなぜなの? 実は前世の恋人なの?
「ほら、音穏くんっていつも本読んでるじゃん? あれ、話しかけづらいよ」
わかってますけど。
だってわざとやってるんだから。話しかけられないようにわざと本読んでるんだから。
俺がなにも返答しなくても、彼女のおしゃべりは止まらない。
「いつも首からヘッドホンを提げてるのはなんで? 耳に着けてるの見たことないから、音楽を聴いてるわけじゃないんだよね?」
「………」
「ところでさ、この前、『湯ノ花みき』の『出来損ない死神と不機嫌な幽霊』読んでたよね? あれ、私も読んだことあるんだけど、今度映画化するんだって。よかったら一緒に見に行かない?」
独り好きな人間にマシンガントークはほぼイジメの域だ。
――まあ、イジメというのはもちろん冗談で。
彼女に悪意がないことなんて、もちろん俺だってわかってる。
おそらく彼女は、いつも独りの俺を心配して声を掛けてくれているのだろう。
その優しさは身に染みる。
が。
それは俺にとって、有難迷惑そのものだ。
俺には、拒絶の句しか口にできない。
「本、読みたいんだけど」
「……え? なに?」
「本読みたいから、もういいかなって言ってる」
どう頑張っても、にこやかな顔はできない。
上手く会話を切り上げられるスキルがないし、あったとしても使ってない。
「えと……ごめん。その、別に、邪魔しようと思ったわけじゃ……」
「わかってる。もういいだろ――あと、映画は行かない」
「……そう。邪魔してごめんね」
こうやって、俺独りだけの空間が出来上がる。二ノ宮キングダムの完成だ。
◆
「ねえ、もう三日目だよ?」
それは、放課後、そそくさと帰ろうとする俺の、その隣の席の女子が話していたことだった。
「ああ、紅巴ちゃんのこと?」
桜庭の名前が出て、俺は思わず、浮かしかけた腰を落としてしまった。
行儀が悪いことは理解しつつも、聞き耳を立ててしまう。
俺みたいな独り好き人間は、気配がなさ過ぎてクラスの誰にも感知されないから、何気にクラスの噂話を聞き放題という利点がある――やっぱこれ、利点でも何でもないわ。友達がいれば、噂話なんて聞き耳を立てるまでもなく聞けるわけだし。
「警察もさ、ちゃんと探してくれてるのかね」
「あー、なんか、事件にならないと本腰入れてくれないって言うよね」
警察?
雲行きが怪しくなって、ますます俺は立ち上がれなくなった。
「三日も失踪したら、もう……さ」
失踪⁉
そうか……そういえば、最近クラスの中に桜庭を見てない気がする。失踪してたのか。
三日も失踪してたら……、まあ、確かに。
脳裏を駆け巡るのは、ニュースの報道。
山の中から女子高生の遺体が見つかるなんてことにはなってほしくない。犯罪に巻き込まれていないことを、切に祈る。
そして。
なによりも、悪魔に関わっていないことを――俺はなによりも祈る。
犯罪は心の傷になるだけで済むかもしれないが、悪魔に出会ってしまったら、取り返しはつかないから。
決して。
◆
そんな話を聞いた夜のことだった。
「桜庭……?」
いつも通り、マウンテンバイクに跨って深夜徘徊をしていた俺は、数キロ先のコンビニから出てくる桜庭紅巴を見つけた。
距離は尋常じゃなく離れていたが、一身上の都合により、他人より身体能力が高いので、見間違いはないと断言できる。
なんだ、元気だったんだ、よかった。
――とは、生憎ならない。
時刻は既にテッペンを回っている。
毎日のように深夜徘徊している俺が言えた事じゃないが、高校生が外にいていい時間じゃない。
そして何より。
目が合った。
俺が数キロ先から彼女を見ているように、彼女からもまた、俺とは数キロ離れているはずだというのに、そして夜で薄暗いというのに――彼女は間違いなく、俺という人間を視認していた。
「さく……」
「っ⁉」
「ちょ……まっ……」
声を掛けて止めようとした瞬間(もちろん、声が届くはずもないのだが)、桜庭は踵を返して走り出した。
向かった先は駅とは反対。
開発に失敗して、廃墟が乱立している方向だ。
そして、困ったことに足が速い。陸上部もかくやというような――というより、ちょっと人間の出せる速度から、軽く片足踏み外してしまっているような速度だ。
俺はマウンテンバイクのペダルを蹴り抜くくらいのつもりで踏みしめて、マシンを急発進させる。もちろん歩道は走らない。余裕で車くらいの速度が出てしまっているからだ。
だが、いくら何でも最初の距離が離れすぎていた。
こちらが時速六十キロ近く出して追いかけても、追いつくには時間がかかる。俺が廃墟街に迷い込んだ時には、もうすでに、俺は桜庭の姿を見失っていた。
「……ここ、どこだよ」
なんなら、俺が迷子になってしまったまである。
ペダルをゆっくりと踏みながら、一般的な自転車の速度で廃墟街を徘徊する。
俺の予測が正しければ、今の桜庭をひとりにしておくのはまずい。命に係わるレベルで。
神経を尖らせながら彼女を捜す。
が、彼女は割とすぐに見つかった。
厳密には、俺の耳に桜庭の悲鳴が届いた。
「きゃーーーッッッ‼⁉⁇」
劈くような悲鳴が、人気の失せた廃墟街に木霊する。
あわや手遅れか――と肝を冷やしつつも、俺はその悲鳴の聞こえた方向に自慢のマウンテンバイクの頭を向けた。
そして、ギアがぶっ壊れかねない勢いでペダルを踏み込む。
さっきのそれとは比べ物にもならない速度だ。時速で言えば百キロちょい出ていたように思う。
自転車を横倒しにして、ドリフトを掛けながら角を曲がる。地面に激しくタイヤ痕が残り、ゴムが焦げる異臭が鼻を刺激したが、それすら置き去るように再度加速する。
「来ないでっっ‼」
廃ビルを三つやり過ごし、四つ目のビル。
その中から、悲鳴が聞こえた。
俺は自転車を乗り捨て、ボロボロのビルに足を踏み入れる。薄暗い階段を駆け上がって、二階――いない。三階――いない。
四階――いた。
最悪なことに、そして予想通り、桜庭は悪魔と相対していた。
悪魔の姿は、山羊のような頭に蛙のように光沢のある胴体。昆虫のような翅。人間の手足で四足歩行。全体的に黒い。夜の闇に溶けて消えてしまいそうな印象を抱く――化け物だった。
「桜庭‼」
桜庭が俺の方を見る。
丸くて大きな愛らしい瞳には、大粒の涙が浮かんでいた。
俺はヘッドホンに手を伸ばす。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ‼‼‼」
声というより、叫びというより……それは気持ちの悪い異音で。
悪魔の鳴き声は、本当に気持ち悪い。
それを遮るように、俺はヘッドホンを耳に装着した。
漆黒の手が、桜庭に伸びる。
なまじ人間の手の形をしているだけ、本当に気持ち悪い。
――呟く。
「
瞬間、俺は音になった。
いや、まあ、もちろん比喩である。
俺は人間なので、波にはなれない。
だから。
正確に表現するなら、俺は音速に至った――というのが正しい。
世界が緩慢に流れる。
桜庭の瞬きさえ、ゆったりと見える。彼女に向かって伸びる真っ黒な手も、もちろんゆっくりと……。俺は横合いからその手を掴むと、捩り上げ、地面に押し倒す。そして山羊の頭と蛙の胴体を繋ぐ首らしき部分に向かって、踵を落とした。
ペギャ――と気持ちの悪い感触が足の裏に伝わる。頸骨を踏み砕いた感触だ。
悪魔にも骨はある。
人間と同じように首は弱点。
頸骨を砕けば、大きなダメージは与えられる。
――ただし、悪魔は人間ではない。
骨を砕こうが、首を圧し折ろうが、その程度では死なない。
一撃では、足りない。
足を再度上げる。
もう一度、首らしき部分に踵を落とした。首の太い筋肉がぷちぷちと千切れる生々しい感触を感じながら、踵をぐりぐりと押し付ける。
三度目は……さすがに要らないか。
醜悪な悪魔の身体が、端々からボロボロと崩れ落ちていっている。
俺は息を吐きながらヘッドホンを外した。
世界に音が戻り、速度も元のそれに戻る。ゆっくりと崩れていた悪魔の身体は、とたん、闇に溶け失せるように消えていった。代わりのように残された黒色の結晶を回収する。
暴れまわる心臓を落ち着かせながら、俺は桜庭に向き直る。
「怪我は?」
「え……あ、うん……大丈夫」
「いろいろ気になるだろうけど、こういう人気のないところは危険だ。いったん表通りに出るぞ」
「……わ、わかった」
返事にかなりの間が空いたが、さすがに悪魔の醜悪な見た目が精神に相当来たのか、俺の提案に従ってくれた。
「音穏くんは……あの化け物がなんだったのか知ってるの?」
「ああ、まあ、一応――でもまずは、なんでこの数日間失踪してたのか、教えてもらえるか?」
乗り捨てた自転車を回収し、手で押しながら歩く。
「ええと……」
「なにを言われても疑わないし、笑わないから、本当のことを言ってくれ」
「あ、うん。ありがとう……」
そうして、桜庭の口からぽつりぽつりと語られたのは、この数日間の逃亡劇だった。
なんでも学校の帰り道、悪魔と遭遇したのだという。
姿形は艶めかしい長身の女――だが、鮮血をぶちまけたように紅い瞳と、頭から生えた羊のような角が人間ではないと直感させる。
「力が欲しいでしょう?」
桜庭は恐怖のあまり、首を縦に振ってしまったのだという。
悪魔の契約に、契約書はない。
悪魔が「欲しいか?」と問い、桜庭が頷いた時点で、契約は完了する。
以来、桜庭はさっきのような異形が見えるようになり、あまつさえ襲われるようになった。そこで、家族や友人に迷惑をかけてはならないと、財布だけ握りしめ、ずっと廃墟街に身を隠していたのだという。
災難な話だ。
「それでその、あの化け物は……」
「あれは幼魔」
「……幼魔」
「桜庭が出会った悪魔の……まあ、子供のころの姿って言えば、間違ってはない――あんな見た目だけど、実際そんなに強くないから、桜庭でも倒せたと思うぞ」
「あれを⁉ 私が⁉」
ぎょっとした目を向けてくる桜庭。
まあ、そりゃそうだろう。
ある日突然化け物が見えるようになって、よし、戦おう――なんて考える奴はそうはいない。誰にも相談せず、誰にも迷惑が掛からないように、誰もいないところで隠れていた桜庭は、それだけで充分強いと言えるくらいだ。
身体ではなく、心が強い。
「ああ。しただろ? 契約――悪魔と契約」
「そんなつもりは……」
「そんなつもりはなくても、契約は契約――身体能力、上がってるだろ?」
「………」
心当たりがないなんて言うまい。
俺から逃げた時の彼女の走力があれで自力なら、彼女はオリンピアンになるべきだ。
「音穏くんは……なんでそんなことを知ってるの?」
「それはもちろん、俺も契約者だから。青眼の悪魔と契約した『音速』の契約者」
「音速の?」
「――そこら辺は、また明日説明する。今日は家に帰って、明日の放課後にでも時間を作ってくれるか?」
「あ……うん」
そんな話をしていると、いつの間にか活気のある街に戻ってきていた。
通りかかる大人たちが、制服姿の桜庭に不審な目を向けている。至って普通の反応だ。ごくありふれた日常的光景にほっと息を吐くと、巻き付いていた桜庭の腕が離れていく。
「もしあれだったら送ってくけど……」
「ううん。家、そんなに遠くないから大丈夫」
「ん」
ま、仮にも俺も男子だし、安易に家についていくなんて、気の利かない発言だったか。
俺がちょっと安易な発言を悔いていると、
「あの! 音穏くん! 助けてくれて、ありがとう!」
勢いよく頭を下げた後、彼女は笑みを浮かべていた。
その可憐な表情に思わず見惚れて、俺はほんの少しの間だけ硬直してしまう。回復すると、彼女は既に俺の前から姿を消していた。
あんな笑顔を見れるのなら……人と関わるのも、悪くない。
――なんて。
「……俺らしくもない」
頭を振る。
美少女とお近づきになれてのぼせ上がってる俺は、さぞ滑稽だろう。
熱を冷ますように、少し夜風に吹かれてから帰った。
◆
翌朝の通学中、本日も日課の音楽を聴きながら、学校へと続く道を歩く。
聴いてるのは専ら『
心地よい音楽の世界に浸っていると、ふと周囲の意変に気付く。同じく登校中の生徒たちが足を止めて振り向いていた。
大衆は鏡、という言葉を思い出す。
「――くーん!」
イヤホン越しに聞こえてくる声には聞き覚えが。イヤホンを片耳だけ外して振り向く。
「あー! やっと気付いた。おーい。音穏くーん!」
歩道前。私はここにいますよとばかりにぴょんぴょん飛び跳ねつつ、両手を大きく振って挨拶してくる桜庭の姿が。よくもまあ、たいして交流の深くないクラスメイトを、後姿だけで判別できるものだ。
周囲の生徒は愛嬌たっぷりな桜庭の挙動に頬を緩め、その視線に気づいた桜庭も元気いっぱいの挨拶で応える。
「みんなおはよう!」
「おはよう、紅巴ちゃん!」「無事だったんだね、心配したよぉ」「なんか久しぶりだね!」
失踪していた彼女の壮健な姿に、聴衆が歓声を上げる。人気者過ぎるだろ。お前は下界に降りてきた神か。
そんなことを思っていると、俺と桜庭を隔てる信号が青になった。
逃げるべきか――ほんの一瞬だけ悩んだ隙に、桜庭が小走りに近付いてくる。
「おはよう! 音穏くん」
「……おはよう」
せっかくの独り時間を邪魔されて、若干不機嫌さが滲んでしまった挨拶だったが、桜庭は全く意に介さず、
「なに聴いてるの?」
すっ――と。
滑らかな挙措で、桜庭が俺の手からイヤホンを浚っていく。あまりの早業に、止める暇もなかった。団長でも見逃しちゃうレベル。
桜庭が俺のイヤホンを装着。
右耳は俺が、左耳は桜庭が付けている状態になった――一応断っておくが、俺のイヤホンはワイヤレスなので、繋がってはない。念のため。
「……アイドルの曲? 音穏くん、アイドル好きなんだ?」
「うわ、出たよ――ボッチ男子が女性アイドルの曲聴いてると『キモーイ』とか言ってくる女子。爽やかな男子グループがアイドルの曲で盛り上がってると嬉々として混ざりに行くくせに、ボッチだと途端に評価変えるやつな」
「そこまで言ってないよ!」
勢いの良いツッコミを聞きながら、俺は桜庭を置いていくように歩き出す。
「――もう、暗いよ、音穏くん」
「俺の暗さを否定してるなら、それはもう、俺の存在を全否定してるのに等しいぞ」
「そんなことない」
きっぱりと。
そして食い気味に、桜庭は俺の言葉を否定した。
「昨日、私を助けてくれた音穏くん、カッコよかった。ヒーローだったよ」
「……俺は、ヒーローなんて柄じゃない」
「そうかもしれないけど、でも、少なくとも昨日の音穏くんは、私のヒーローだった」
「………」
「これからよろしくね、音穏くん。まずはLINE交換しよ!」
「嫌――、じゃなくて、LINEやってない」
「嘘つかなくていいから。ふるふるしよっ」
「(ふるふる)」
「首は振らなくていいから。スマホ出して」
俺がそろそろとポケットから取り出したスマホを横から奪うように取り上げた桜庭は、慣れた動作で操作して連絡先を登録してくれた。
人との交流を厭うていたはずの俺は、しかし、こうして同級生の友達ができたのだった。
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