9 ギルドの影
砂埃が舞う闘技場で、俺は舌打ちをした。
目の前の男は、何度倒しても立ち上がる。
それもそのはずだ。
奴は戦いの最中に何本ものポーションを立て続けに飲み干している。
赤い液体で傷が癒え、青い液体で防御力が跳ね上がる。
それが切れたかと思えば、今度は黄色いポーションを飲んで素早さを強化してくる。
それが、まるで呼吸をするような自然さで繰り返されるのだから、笑えたもんじゃない。
「どんだけポーション頼りなんだよ。」
俺が呟くと、奴はニヤリと笑い、肩をすくめた。
「生き残るためにはなんでも使うさ。それが戦いだろ?ギルドがスポンサーになってくれてめちゃめちゃ持ってんだ」
そう言いながら、またもやポーションを取り出してゴクリと飲む。
その様子が、まるで祭りの屋台でジュースを飲む子供みたいに見えて、思わず苦笑いが漏れる。
「…面倒くさいな」
黒炎の霊刃を軽く振り、俺は呼吸を整えた。
いくら斬っても再生し、防御力を強化されれば、攻撃は軽減される。
まるで無限に続く地味な作業だ。
神威が脳内で低い声を漏らす。
「飽きた顔をしておるな」
「当たり前だ」
次の瞬間
奴は一気に
間合いを詰め
俺に斬りかかってきた
素早さ強化の効果で、動きが速い。
その一撃をギリギリでかわしながら、俺は決めた。
「もういい」
刃を握り直し、黒炎の霊刃が熱を帯びるのを感じる。
奴の顔には僅かな警戒が走ったが、既に遅い。
一気に間合いを詰めた俺は
刃を
鋭く振り抜いた
その軌道には
迷いも躊躇もなかった
黒炎の残像が
空間を切り裂き
奴の首元を狙う
切っ先が触れた瞬間
肉を断つ感触が手に伝わる
奴の首は
何も言葉を発する間もなく
宙を舞った
静まり返る闘技場で、俺は軽く息をつく。
神威が静かに呟いた。
「ふむ、確かに手間が省けたな」
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控室で試合の準備を整えていると、街から流れてくる噂話が俺の耳に入った。
「ギルドの幹部たち、奴隷商人と繋がっているらしいぜ。」
「それだけじゃない。何人もの女が行方不明になってる。」
「暴こうとした奴がいたけど、そいつも消えたらしい。」
声を潜めて話す観客たちの話に、俺は眉を潜めた。
「どうする?」
神威が念話で問いかけてくる。
「どうもしない。」
そう答えながらも、心のどこかで苛立ちが湧いていた。
かつての仲間たち、そしてギルド幹部たちが裏で何をしているのか――想像するのも胸糞が悪い。
「あの幹部どもを本気で放っておくつもりか?」
俺は鞘に収めた黒炎の霊刃に手を置いた。
「流石にひでぇよな…懲らしめるしかないか…」
神威が微かに笑った。
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その日の試合は、戦士ではなく、奇妙な魔物が相手だった。
闘技場に放たれたのは異形の獣――鋭い牙と巨大な爪を持つ影のような存在だ。
観客たちが驚きの声を上げる中、俺は冷静に状況を見極めた。
「この魔物はただの獣ではないぞ。何かしらの呪術が絡んでいる。」
「面倒だな…だが」
影の獣が地面を引き裂きながら突進してくる。
その速度と力は、これまで戦ったどの相手よりも厄介だった。
俺は瞬時に加速魔法を発動し、獣の攻撃をかわす。
黒炎の霊刃を引き抜き、鋭い一閃を放つ。
獣の体は霧のように崩れたが、すぐに元の姿に戻る。
「?」
「術を解かない限り、斬っても倒せぬぞ。」
神威の助言を受け、俺は獣の動きを観察する。
その瞳の奥に、かすかに赤黒く輝く魔石が埋め込まれているのが見えた。
「あれか。」
俺は魔石を目がけて突進する。
獣の爪が迫るが、黒炎の刃で弾き返し、その勢いのまま魔石に刃を突き立てた。
「ぐおおおっ!」
獣は咆哮を上げ、その体が崩れ落ちる。
観客たちから歓声が湧き上がった。
「勝者、仮面の戦士!」
俺は剣を収め、闘技場を後にした。
控室で一息ついていると、再び念話が響く。
「さっきの魔物…ギルドが関与している可能性があるぞ。」
「どういうことだ?」
「奴らが呪術を扱う存在と取引をしていたのを知っておる、さっきの魔物みたいなのが増えていくと思うぞ。」
俺は拳を握り締めた。
「なるほどな…そろそろ…」
控室の扉の向こうでは、次の試合の準備が進んでいる。
だが、俺の心はすでに別の場所――ギルドへと向かっていた。
「準備はいいな?」
「ああ、あいつらを懲らしめる時が来た。」
俺は立ち上がり、仮面を外して深く息を吸い込んだ。
長い間燻っていた怒りが、静かに燃え上がり始めていた。
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