どうやってもラブコメになるカフェ

九戸政景

プロローグ

「おや、いらっしゃいませ」



 ドアを開けると、マスターらしき男性が顔を上げた。その手には洗いたてのグラスと乾いた布巾が握られていて、どうやら少し暇な時間帯に私は来てしまったようだ。



「お客様、こちらは初めてですね?」



 私は頷く。ここに入ったのもそもそもこの辺じゃ見かけない名前のカフェがあるなと思ったからだ。その名も『Cafeラブ』。



「当店は、そうですね……どういうわけかお客様同士でのラブコメが繰り広げられるカフェなのです」



 ラブコメが繰り広げられるカフェとは不思議な話だ。世界広しと言えどもここくらいなのではないか。



「名前のせいなのかそれとも何か他の力でも働いているのか。それは定かではありませんが、このカフェにいらっしゃったお客様同士でラブコメが繰り広げられ、そのお客様達はその後すぐに付き合い始めたり仲が悪かった方々は仲直りされたり、と様々な結果を迎えて帰られますよ」



 それは好都合だ。私はこう見えても雑誌のライターだ。マスターさえよければ色々取材させてもらいたいものだ。



「論より証拠。よろしければ、何かご注文なさってから他のお客様を待ってみてはいかがでしょうか」



 もちろんだ。私はホットコーヒーを注文してからカウンター席に座る。すると、程なくしてカランカランとドアベルが鳴り始めた。

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