第3話 お金
魔王に会って俺は何がしたかったんだろうか? 昔話をしたかったんだろうか? 俺達の輝かしい過去について喋りたかったんだろうか? もしかして時間が過ぎた今なら昔のことも語れるかもしれない、とそんな甘い期待を抱いたのかもしれない。
昔のことを語れば俺が勇者だった頃のことを思い出す。輝かしい過去の功績を思い出したくて彼女に会いに来たのかもしれない。勇者の俺がいるから、魔王の彼女がいる。ア◯パンマンとバイキ◯マンみたいな関係で、お互いがいなければ勇者でもないし、魔王でもない、みたいなことを自覚したくて会いに来たんじゃないだろうか? 情けねぇー。世界征服の方向が、人々を支配するから、人々に支持を受けるという方向に変わっているだけで、彼女は世界征服を諦めていなくて、俺がいなくても魔王は魔王だった。
「ポケモ◯カード買いに行くの付いて来て」と魔王に言われて、嬉しそうに揺れながら歩く彼女の後ろを付いて行っている最中、どんな魔法攻撃をされるよりも、どんな物理攻撃をされるよりも、立ち直れないぐらいに重たい攻撃を受けていて、ポケモ◯カードってなんだよ、と思いながら泣き出しそうになっていた。
「電気ネズミのSARを地引したいねん」
と彼女が歩きながら言った。
「はぁ」と俺は言う。
電気ネズミってなに? SARってなに? でも聞かなかった。
「桃太郎はカードゲームやらんのけ?」
「やらねぇー」
と俺が言う。
「マジか。おもろいのに」
「鎌倉時代に武士階級で流行ったカードゲームはやったことある程度」
昔のカードゲームも、ちょっと触れた程度で俺はハマらなかったけど。
「なつっ。あれ面白かったよな。ポ◯カや遊◯王は、あれの進化版や」
と魔王が言った。
へー、と俺は言う。
「桃太郎は、最近なにやってんの?」
と魔王が尋ねた。
俺がカードゲームの知識が無いのに気づいて、別の話を振ったんだろう。
「なにも」
と俺は言った。
「仕事は?」
と魔王は尋ねた。
「してねぇ」
と俺が言う。
「お金は?」
と魔王が尋ねた。
「資産は減らないぐらいある」
「なんやねんそれ。めっちゃええやん。うらやま」
と魔王が言う。
うらやましい、まで言えよ、と俺は思った。
「なんで、そんな資産家やねん」
「昔あるところで誰かさんを討伐したおかげで死ぬほどお金を貰って、それを色んな人に貸して」
と俺が言ったところで、
「お前、金貸しやってたんかい」と魔王が言う。
「金貸しってほどでもねぇーけど」と俺が言う。
「持っていても仕方ないから貸してただけ」
「ほんで?」
「一応は商会みたいなモノは作ったよ」
「桃太郎は商人の才能があったんか?」
と魔王が尋ねた。
俺は首を横に振った。
「俺、商人の才能もないし、興味もないから人に頼んでやってた。頼んでた奴が優秀で、どんどんと大きくしていって、ソイツの息子が後を引き継ぎ、その孫が後を引き継ぎ、その曽孫が後を引き継ぎ、その
「もうええ。引き継いだのはわかった。ほんで、その子孫に引き継いでどないなってん?」
「何代目かは忘れたけど、ソイツの子孫に会社を買わせてほしいって言われたから、売った」
「もったいなっ。商会を持ってたら自動でお金儲けができたんちゃうんか?」
「別に金儲けには興味がない」
と俺は言った。
「うらやま」
と彼女が言う。
「ほんで商会を売ってからはどうしてん?」
「それでも人生何回も繰り返せるほどのお金があったから、のらりくらり生きてたよ」
「それでも長生きやねんから底は尽きるやろう?」
そんなレベルじゃないぐらいにお金は持っていたけど、何もしなかったら、いつかは底を尽きていただろう。
「1800年代の終わりぐらいに東京株式取引所ができて、残っていたお金で株を買ったんだ。その当時はあんまり銘柄もなくて、今でいうところの財閥系に投資したんだ」
「ほんで?」
「使っても使っても減らないぐらいに今もお金はあるよ。むしろ増えていってる」と俺が言う。
「うらやま」
と彼女は言って立ち止まり俺を見た。
「桃太郎さん」と彼女がすり寄って来る。
「ポケモ◯カード買ってぇ〜」
子どもにねだられるようでも、女性にブランドモノのバッグをねだられるようでもあった。
どうして俺はお金のことを魔王に語ってしまったんだろうか? もしかしたら彼女に勝ちたかったのかもしれない、と思ったら、やっぱり自分が情けねぇ。ただ運が良かっただけなのに。
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