第16話、メイドショップ

「こちらはいかがでしょう」

 アレクは、インベントリから商品を出しテーブルに並べる。


「あら、これは……」

「MADE IN MAIDEEN?」

 自分の前に座ったメイドさんが、ハンカチに描かれた国の紋章を見ながら言った。


「はい、メイドゥーンから来ました、”アレク”と申します」

「メイドゥーン製のメイドグッズを多数取り扱っております」


「まあっ、メイドゥーンといえば、”メイド・ファースト”が有名ね」

「西方のメイドの本場……」 


「”メイド・ファースト”は、我が国の国是としております」

 頭を下げた。


「メイド服は扱っているの?」

 少し小首をかしげる。


「もちろんでございますっ」

「ランドリーメイドのものから、王国メイド騎士団仕様の、”魔導重甲冑エプロンアーマー”まで」 

「 ―”フルオーダー”― はともかくオーダーメイドも可能です」

 椅子から立ち、きっちりとした立礼をした。


「いいわね、ちょっと待って」

 目の前のテーブルに座るメイドさんが、スカートに手を突っ込んだ。


 ――メイドインベントリ……中級以上のメイド殺法(さっぽう)

 ――並のメイドさんではないようですね


 メイドさんがスカートからスマホを取り出した。

 電話を掛ける。

 相手が電話に出た様だ。


「あ、もしもし、フローレスメイドチョー《師匠》、今ギルドにメイドゥーンの行商人がいますよ」

「買いに来ませんか」

「はい……はい、お待ちしております」


 と同時に、ギルドに赤い扉が現れた。


「なっ、百八あるメイド殺法さっぽうその79、”メイドコデモドア《ゲート》”ッ」

 ――マスタークラスのメイドがっ

 身構える。

 ――このクラスのメイドは時間を止めるっ


「ルリちゃん、来たわよ~」

 のんびりとした声。

 少し背の高い糸目のメイドさんが扉から現れる。

 肩までの金髪がサラリと流れた。


 ――隙を見せたらトラれる

 すかさず、メイドスタンディングちからのカーテシー。


「あら~、ご丁寧にどうも~」

 カーテシーを返してきた。

 ――くっ、体のどこにも力みのない、お手本のようなスタンディングとカーテシーッ


「まあっ、男性でメイド殺法さっぽうを~」

「たしか、”メイドガイ”と、メイ竜騎士ドラゴンナイトしか使えないはず~」


 ――男性でメイド殺法さっぽうを使える職業は上の二つだ。


「師匠、師匠、早速商品を見ましょうよ」


 メイドゥーン製のメイドグッズは、メイドたちの垂涎の的のはず。


「ん~、そうね~、色々見せていただけるかしら~」


「あ、私は、”ルリ”。 こちらが、”フローレス”メイドチョー《師匠》ね」


「ルリ様とフローレス様ですね」

「私は、飛竜商人の、”アレク”です」

「それでは……」

 商売を始めた。

 師匠と弟子、

 仲が良さそうだ。


「これは?」

 ルリ様が白い手袋を手に取った。

 レースの刺繍を施してある。


「鋼鉄蜘蛛の糸を使った手袋ですね」

「頑丈でなおかつ軽い、シルクのような肌触りでしょう」

「我が国の戦闘系メイドたちの愛用の一品ですよ」


「へええ」

「うふふ」

 おや、ルリ様がイタズラをする様に笑った。


「百八あるメイド殺法さっぽうその32、”メイド交渉術ネゴシエート”」

 ルリ様が、交渉術ネゴシエートを発動。


「ふふ、おや、お客様、メイドゥーンではその殺法さっぽうの使用は基本ですよ」

「百八あるメイド殺法さっぽうその32、”メイド交渉術ネゴシエート”」

 ――カウンター殺法さっぽう


 自分とルリ様が、激しく、かつ楽しそうに商売の交渉を行う。


「あらあら~、仲良くなってるわね~」


 師匠であるフローレスが、二人を暖かく見守っていた。


 




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