Twins 彼女の愛した彼 after

蒼空∞

事故後直ぐのお話

亜理子

第1話

「亜理子.....頼むから、戻ってこい」

真っ白い世界を歩く私の耳に何処からともなく聞こえてくる声。

懐かしくて、愛しいその声に立ち止まった。


「....亜理子、愛してる。お願いだから戻ってきてくれ」

もう一度、呼ばれた名前。

私は声のする方に歩き出す。

なんにもないその場所に向かわなきゃいけない気がしたんだ。

キラキラと光る白い世界を声のする方へ進んだ。

乃絵留が背中を押してくれたから、私は戻らなきゃならない。


この声の持ち主の元へと。




重い目蓋をゆっくりと持ち上げる。

目に飛び込んできた照明の光に目が眩んだ。

しかめっ面の私に聞こえてきたのは、優しい声。


「...亜理子..」


「...っん?...」


「起きるのが遅せぇ」

少し不機嫌だけど安堵した声と、私の頬に触れた温かい大きな手。

私はこの手を知ってる。


「...由來?」

思いの外掠れた声が出た。

照明の光に慣れた目を完全に開くと、そこには目に涙を溜めた由來の顔があって。


「アリス!」


「アリスちゃん」


「良かった、目が覚めた」


「医者だ、医者を呼べ」

沢山の声が聞こえた。

ゆっくりと視線を動かして部屋を見渡せば、白い壁に囲まれた四角い部屋にいて。

自分はベッドに横たわってるのだと知る。

ぼんやりとする頭と気だるい体。

どうして、私はここにいるのかな?

起き抜けの頭は上手く動いてくれない。


「亜理子、バカ野郎。無茶しやがって」

ガバッと覆い被さるように抱き締められた体。


「...えっ? ゆ、由來...」

戸惑いながらも由來を拒まなかったのは、私を抱き締める彼の手が震えていたから。


「良かった...亜理子...っ...」

由來が泣いてた。

周りに人が居るだとか考えずに泣いてた。

声をあげずに男泣きする由來に胸が苦しくなった。

あぁ、私はこの人にこんなにも心配をかけてしまったんだ

ハッキリとしていく意識。


そうだ、私は男の子を助けようとして車に.....。

だから、全身痛いのか?

うん、納得。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る