古本屋

からし

古本屋

古本屋の扉を開けると、独特の香りが鼻をくすぐる。

埃っぽい紙の匂いと、湿った木の感触が混ざり合ったその場所は、どこか懐かしい雰囲気を醸し出していた。

店内は狭く、本棚がぎっしり詰まっており、まるで本たちが自らの存在感を誇示するかのように、ぎゅうぎゅうに押し寄せている。


「ここ、入ったことある?」と、友人の和美が私に訊ねる。

彼女は好奇心旺盛な性格で、いつも新しいものを求めている。

私たちは、ふと目に留まった古本屋は、チェーン店とは違う雰囲気

ノスタルジックな外観に惹かれ、立ち寄ることにした。


「いや、初めてだよ」と私が応えると、和美は嬉しそうに小さく笑った。

彼女の笑顔は、まるで夕焼けのように温かい。


古本屋の店主は、年齢不詳の薄汚れた眼鏡をかけた男性だった。

彼は本を並べたり、埃を払ったりすることに忙しく、私たちに目を向けることはなかった。店内には、静かな音楽が流れ、時折本のページをめくる音が響いている。

まるで、本たちが自らの物語を語っているかのようだった。


和美は、すぐに一冊の本に目を奪われた。

それは、表紙が真っ黒で、タイトルも作者名も見当たらない不気味な本だった。

彼女はそれを手に取り、私の方を振り返って言った。

「ねえ、これ、なんだか気になる!」


「でも、売り物じゃないんじゃない?」と私は言ったが、和美は本を開いてしまった。すると、瞬間、店内の空気が変わった。

ひんやりとした風が吹き抜け、私たちの背筋がぞくりとした。

周囲の音が消え、ただその本のページをめくる音だけが響いていた。


「こ、これ……」和美の声が震えていた。


彼女は本を読んでいるのか、それとも何かを感じ取っているのか、彼女の表情は恐怖に満ちていた。


「和美、やめた方がいいって!」私は心配になり、彼女の手から本を取り戻そうとした。しかし、彼女はそれを離そうとはしなかった。


「ダメ、これ、すごく面白いの!」と和美は叫んだ。

彼女の目は異様に輝いており、その瞳には何かが宿っているようだった。

まるで、彼女自身が本の中に引き込まれそうな勢いだった。


この瞬間、私は強烈な不快感に襲われた。

古本屋の中にある不思議な本が、何か恐ろしい力を秘めているのではないかと感じた。店主は私たちを見ているわけでもなく、ただ静かに仕事を続けている。

まるで、彼はこの異変を知っているかのようだった。


「和美、もうやめて!」私は彼女の肩を掴んで引き寄せた。

しかし、彼女は微動だにせず、ただ本に視線を奪われていた。

彼女の顔は白く、まるで死神に取り憑かれたかのようだった。


その時、店の中に響くような声がした。「それは、あなたの物語になる。」


驚いて振り向くと、店主が立っていた。

彼の目は、深い闇のように見え、まるで全てを見透かしているかのようだった。

和美はその言葉に反応し、しばらく黙っていたが、やがて本を閉じた。

彼女の顔からは、恐怖の色が消え、何か決意を固めたような表情に変わっていった。


「わかった、もうやめる」と彼女が言った。

しかし、その声には力がなく、むしろ虚ろな響きがあった。


「本の中には、作者の願いが込められる」と店主は続けた。

私と和美はその本から作者の願いを読み取ることができなかった。


作者の願いは何だったのか

店主はその本の作者の願いがわかっていたのか

彼女たちは、足取り重く店を後にする。


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古本屋 からし @KARSHI

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