一瞬先は闇。ぼくは異世界で生活保護受給者となる

@masuken0319

第1話 精神科

私は、精神科病院で働く看護師。年は37歳。名前はけんたろう。精神科看護師を13年経験し、病棟業務を難なくこなす毎日。

正直飽きた……。


患者さんの症状は千差万別。

状態が悪くなったら保護室で経過観察。

症状が改善してきたら、自殺リスクと暴力リスクなどを評価し、解放時間を延ばしていく。


私は患者さんからは、…まぁ好かれている方だ。

だがやはり気は使う。

誰に使うか。

それは一緒に働く、気分屋さんの先輩方。

患者さんに気を使うのではなく、看護師が看護師の顔色を伺いながら仕事をしないといけない。

なんとも滑稽だ。


そうこうしているうちに私にも主任の話が舞い込んできた。

正直、まっぴらごめんだ。

管理職手当てはあるものの夜勤が減らされ、責任は増え、手取りはほぼ変わらない。

やらないほうがマシだ。


そんなこんなで、病院を辞めてやった。

その後の職の当てはあった。


精神科訪問看護師だ。


なぜ精神科訪問看護師に移ろうと思ったか。

腕時計をはめててもなにも言われない。

お守りのパワーストーンを腕にはめててもなにも言われない。

移動中にコソッと買い食いも出来る。

フフフ


そして、精神科訪問看護師も難なくこなし、利用者とも信頼関係を築き、また上司の仕事も先回りしてサポートしていると、訪問看護のステーション立ち上げの話が上がり、管理者になることとなった。

………

……


半年かけて訪問看護ステーションを立ち上げ、管理者になるつもりなかったのになってしまった。

「管理者になりたくないのに……」

「責任負いたくないのに……」



そんなある日、いつものように訪問看護へ出かける、けんたろう。


「今日は何の話をしようかな。今日の夜のつまみに、なにがいいか聞いてみよ。一緒に考えてもらおうかな」

などと考え、利用者の部屋前にたどり着く。


『ピーンポーン』

……。

「あれ?返事がないな」

不思議に思う。普段外出はあまりしない方だ。けんたろう。もう一度。

『ピーンポーン!』

……。

けんたろうは不安と同時に違和感を感じる。

おかしい。

なにかがおかしい。

ドアに投函口がついているドアタイプで静かに投函口を開けて中の音を聞くと


???「はぁ…はぁ…はぁ」


あれ?中にいるじゃないか。

ノックをし、

「開けてくださーい。訪問看護〜のけんたろうでーす」


『カチャッ』


あっ!鍵があいた!

「失礼しまーす」

ドアを開けた瞬間

ドンッ!!

ハグをしてきたと思った。

何か違う。

たぶん刺されてる。

頭が真っ白になる。

『あーぁ。こんな感じなのね。』

利用者はなにか罵声を浴びせている。

耳を傾けると

「信じていたのに。なんで悪口言うんですか。あんなひどい言葉を陰で言うなんて……」

意味がわからない。

恐らく幻聴、妄想が、ひどくなったのだろう。近しい人が妄想の対象になることなんてよくある話。

それよりも自分の体の事だ。

勇気を出して下を見ると視界に入る、ほとんどが真っ赤になっていた。

『あー。たぶん、ダメなヤツだ。これ。』

けんたろうは少し笑みを浮かべながら目を閉じた………。


遠くから救急車のサイレンの音。

人が怒鳴っている声。

電子音。

病院?

気が遠くなり、深いよどみに落ちていくようだった。

『あー。もういっときは働きたくないな………。』


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