第9話
「全員起床!!起きろ起きろ!!村の一大事だ!!」
ドカート隊長の大声が兵舎に響く
まだ早朝なのに近隣住宅への迷惑も考えて欲しいものだ
「ロウニール君!!今日は入口に向かわずに村の広場に向かうのだ!そして中心にある『入口』から誰も入れないようにしてくれ!」
「・・・ドカート隊長・・・せめてノックを・・・て言うか入口に向かわずに入口??」
「混乱するのは分かる!だが行けば分かるからすぐに向かうように!」
隊長の方が混乱しているのでは?
僕の部屋のドアを思いっきり開けて入って来た隊長の姿は可愛い寝間着姿だった。ガタイのいい隊長が着るような服じゃないと思うけどつっこむ暇はなさそうだ
仕方なく着替えて隊長に言われた通り広場に向かうと既に人集りが出来ていた
当然その中心には僕が作ったダンジョンの入口。そりゃ目立つよな・・・広場の中心にこんなものが出来てれば
「す、すみませーん、通して下さい」
兵舎を出る前に隊長から軽く説明を受けたけど、どうやら国にお伺いを立てるらしい。今の段階では『ダンジョンの入口だろう』止まり・・・本当にダンジョンの入口か調査してからどのように対応するのか決まるのだとか
入口を発見した人から村長に連絡、村長はすぐに王都へと使者を出しドカート隊長に誰も入らないよう支持して僕が派遣された・・・ってのが今の状態だ
人集りを押し退けてダンジョンの入口の前に立つとみんなが僕を見つめる
期待と不安
そのふたつが入り交じった視線がなんとも言い難い気持ちにさせた
てか自分の作ったダンジョンの入口を自分で入らせないようにするとはこれ如何に!?
《臆病者の集まりね。ジャンジャカ入ってマナになってしまえば良いのに》
お黙りなさい
誰だって初めは怖いもの・・・しかもこの村には冒険者はいない・・・なぜならダンジョンもなければ魔物も出ないからだ
最初はこうなると簡単に予想出来たけど、思ったよりもみんな興味津々だな。減るどころかドンドンと人が増えていく・・・あっ、ペギーちゃん!・・・くっ、手を振りたいが・・・さすがに振れない・・・
「おいロウ!お前達兵士が調査するのか?」
誰だっけコイツ・・・見た事あるようなないようなオッサンが喋りかけて来たぞ
「いえ・・・国からの返答待ちです」
「んだよ役に立たねえな・・・普段無駄金消費してんだからこんな時くらい役に立てよ」
この・・・人の気も知らないで・・・僕だって早くみんなにこれがダンジョンの入口です!これから村は栄えます!って言いたいわ!
「ねえ・・・もしこれがダンジョンの入口だったとしたら・・・魔物がここから出て来るかも知れないんじゃない?」
おいおい不安を煽るような事を言わないでくれオバサン
「そ、そうだよね・・・確かダンジョンプレイとかなんとかが起きると魔物が出て来るって・・・」
どんなプレイだよ!ブレイクだブレイク
「もし魔物が出たとして・・・この子で止められるのかい?」
余裕です。て言うか出て来ません
「もっと兵士をかき集めろよ!不安で仕事になりゃしねえ!」
またこのオッサン・・・いいから仕事しろ!
「何とか言えよロウ!」
オッサンのせいでみんなが僕を責めるような視線で見つめる
くそ・・・本当の事を言えればどんなに楽か・・・デモ言えない・・・言える訳がない・・・
「その・・・大丈夫・・・だと思います・・・」
「はあ?その根拠は?」
「・・・もしこれが・・・ダンジョンの入口であっても・・・」
「あっても?」
「出口ではないからです」
無音
無音の重圧が僕に襲いかかる
ええ、ええ分かります・・・心の中でみんなが『何言ってんだこいつ』って叫んでますよね、分かります
「ちっ、シラケたぜ。せいぜい魔物が出たらゆっくり食われろ・・・そしたら俺達の逃げる時間が稼げるからな」
オッサンは頭を掻きながら言うと僕の言葉に呆れたのか振り向き去って行く。他の人達もため息をついてそれに続いた
結局どうしようもないという結論に至ったのか僕だけが取り残されてしまった
《で、出口じゃないからです・・・出口じゃ・・・》
「うるさい!笑うな!」
咄嗟に出た言葉がダンコのツボにハマったらしい。ずっと笑ってやがる
《ゴメンゴメン・・・でも期待してた初日とは違うわね・・・もっと大はしゃぎするかと思ったら、最初こそ近くに寄って見に来てたけど今では遠くからチラチラ見るだけだもの》
「仕方ないだろ?見てたって中には入れないし・・・今は期待より不安の方が大きいさ」
ダンジョン都市アケーナの話はみんな知っている。ダンジョンで栄えた街・・・でもアケーナと同じように栄えられるか分からないし魔物なんて見た事ない人がほとんどだから不安の方が大きくなる
「それにこの村には冒険者はいない。近くにダンジョンがなかったからみんな冒険者になる人は出て行ってしまったからね。だからこの村でいきなりダンジョンが出て来ても不安しかないよ」
《・・・そ。まあいいわ・・・これからドンドンこの村に冒険者が来れば良いだけ・・・ああ、腕が鳴るわ・・・》
なんか急に不安になってきた・・・ダンジョンはまだしもダンコがやり過ぎないかって
それともうひとつ不安がある
交代の人・・・来てくれるよね?
日が暮れて不安が的中してしまったのではと思い始めた時、2人の先輩兵士が来てくれて交代する事になった
どうやら夜間は2人体制で見張るらしい
御役御免となった僕は兵舎に戻り一日中立っていた疲れを癒す為にすぐに寝た
次の日の朝、食事もせず休憩も取らずに一日中立っていた疲れが響いてなかなか起き上がれずにいると隊長が部屋に入って来て僕に苦い顔をしてある事を伝えてきた
それは・・・ダンジョンの入口の警備からまた村の入口への配置転換
何故かと尋ねるとどうやら隊長の元にクレームが入ったらしい
あの兵士で魔物が出て来た時に村を守れるのか、と
どうせあのオッサンだろう・・・ムカつくからオッサンAとこれから呼んでやる
「オッサンAめ!」
《!?・・・気でも触れたの?》
「・・・大丈夫・・・もう平気」
配置転換はむしろラッキー・・・ダンジョンの入口前で立っているとどうしても人目につくし気が抜けない。それに1人だと暇だしヘクトさんと話していた方が時間が過ぎるのが早い気がする
気を取り直して村の入口に向かうともう既にヘクトさんが立っていた
「ヘクトさん!おはようござ・・・います?」
「・・・おはよう」
あれ・・・見るからに凄い不機嫌そうだ。どうしたんだろう一体・・・
話しかける事が出来ず既に夕方・・・食事休憩も取れずにひたすら2人で立ち続けた・・・無言で
ヘクトさんはずっと険しい目で遠くを見つめている・・・何かあったのか気になるけどとてもじゃないけど聞ける雰囲気ではなかった
そうこうしている内に日も暮れ始め、そろそろ仕事も終わりかけの時にヘクトさんが口を開く
「ロウ坊や・・・振り子は知っておるか?」
へ!?やっと口を開いたと思ったら振り子!?・・・えっと紐の先に玉がぶら下がってるアレのこと?
「知ってる・・・と思います」
用途は知らないけどね
「・・・何もせねば振り子は垂れ下がったまま動かん。だが
いつの間にかヘクトさんの手に振り子が握られていた
何で持ってるの!?
・・・いや、それはいいとして何を言おうとしているんだろう
垂直に垂れ下がった玉が風に揺られ左右に振れ始めた
「・・・村が今まさにこの状態じゃ。今まで無風であったが微風が吹き振り子が振れ始めた。また無風になるか強風になるかは分からぬが・・・恐らく強風であろう・・・そして玉は振れ続ける・・・その勢いを増して、な」
玉が村で風がダンジョンって事かな?ヘクトさんはもしかして望んでない?この村がダンジョンという風で揺れる事を・・・
「ヘクトさんは・・・この村にダンジョンは必要ないと?」
「・・・広場に現れた入口がダンジョンの入口かはまだ分かっておらんが・・・十中八九ソレだろう・・・ソレであって欲しいと思う気持ちもなくもない。が、怖いのだ・・・今日一日あらゆる事を考えた・・・ダンジョンがもたらす恩恵は人々を笑顔にする・・・まるで村を照らす太陽のように、な。だが空はずっと晴れている訳ではない。時に曇り、雨を降らせ、嵐を呼ぶ・・・ちょうどこの振り子のように、な」
左右に振れ続ける振り子
それを見るヘクトさんは少し寂しげだった
完全に日が落ちて仕事は終わりを告げた
兵舎に帰りベッドに横たわりヘクトさんの言っていた事を思い出す
遠回しな言い方だけど言いたい事は分かった。ヘクトさんも不安なんだ・・・変化が
《ねえロウ
「誰がロウ坊だ・・・なに?」
《あのお爺さんが言ってた事で悩んでる?》
「別に・・・ヘクトさんは今までの日常が変わってしまう事を恐れてたけど・・・みんないずれ喜んでくれるはず・・・最初だけさ・・・戸惑うのは・・・」
《・・・ハア・・・やっぱりロウ
「なんでだよ!」
《あのお爺さんが懸念していたのは変化じゃないわ・・・もっとその先の事よ》
「え?」
《なぜ振り子を出したと思ってるの?天候を例にあげた理由は?本当に理解してれば分かるはずよ》
そう言えば晴れるとか曇るとか言ってたな・・・変わるって事を言いたかったと思ったけど違うのかな?
《・・・まあ私もハッキリ言ってなかったし・・・ロウ・・・ダンジョンは全ての人に有益とは限らない。むしろ損をする人も沢山いるわ》
「・・・どういう事?」
《途中で挫折すると困るから予め言っておくわ・・・ダンジョンの恩恵と損害を──────》
恩恵についてはこれまで散々聞かされてきたから知っていた。けど損害については考えもしなかった
ダンコから聞かされたのは『なぜヘクトさんは振り子を持ち出したか』を理解するには十分な内容だった・・・
ダンジョンの恩恵と対になる損害
この村にダンジョンが出来れば自ずと人が集まって来る。それはダンジョン都市アケーナで立証済みだ。冒険者にとってダンジョンは一番の稼ぎ場所・・・冒険者が集まれば他の店も当然増える。飲食店、武器屋、宿屋・・・この村にはほとんど必要なかった店が増えるのだ。村はドンドン発展していくだろう。けど人が増えればリスクも増える・・・良い人も来れば悪い人も来る・・・ほとんどの人が見た事ある人だったのが見た事のない人が増えるのだ
《この村で犯罪が少ないのは
まあ確かにそうだよな・・・この小さい村で悪さすれば村に居づらくなるし・・・
《ダンジョンは人々に恩恵を与える・・・莫大な富を得る人も出て来るでしょう。けどそういう人は妬まれたり狙われたりする・・・今までの村にはなかった光景よね》
そう言えばこの村に大金持ちっていないよな・・・なんてたって大金を稼ぐ術がない。でもダンジョンが出来れば?きっと大金を得る人は出て来るだろう・・・そうか・・・振り子・・・ダンジョンという風が吹き、左に振れれば富を得る・・・けどその反動で右に振れれば・・・
「富を得なければ起きなかった事が起きる・・・だから振り子か」
《そうよ。例えばアナタが100ゴールド持ってたとするでしょ?その100ゴールドで剣を買えばアナタは剣を得るけど100ゴールドを失う・・・何も買わなければ得もしなければ失いもしないけどね》
「でも・・・必ず損するとは決まってないだろ?買い物は確かにお金を使うけど・・・」
《いえ・・・必ず何かを得れば何かを失うわ。それが何なのかは分からないけどね》
そうかな・・・得るだけのものもあるんじゃ・・・だってダンジョンは・・・
《納得していないって感じね。まあいずれ分かるわ・・・入口は開かれた・・・もう後戻りは出来ないのだから》
ダンコの言葉に唾を飲み込み喉を鳴らす
僕はとんでもない事をしてしまったのでは・・・今更ながら思う反面ダンコに言われなくても後戻り出来ない事は分かっていた
なぜならダンジョンを無いものにするには・・・
ベッドの上で起き上がり上着を脱いで胸の中心を見る
そこには飲み込んだはずのダンコが浮かび上がっていた
《どうしたの?》
「いや・・・なんでもない」
なぜ浮かび上がってきたのか分からないけど、恐らくダンコを壊せばダンジョンは消えて無くなるだろう。体内にいたら僕が死ななければ壊す事が出来なかったであろうダンコ・・・今は死なずとも壊す事が出来る。でも・・・
上着を着てまたベッドに寝っ転がる
天井を見つめて僕は新たに決意を固めた
「ねえ・・・ヘクトさんは風が吹けば振り子が振れ始めるって言ったよね。でも・・・風が吹き続ければ振り子は・・・片方にしか行かない・・・頑張って吹き続けるよ・・・止むことのない風はきっと・・・みんなを幸せにする・・・きっと・・・」
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