悪の貴族は美しき散り様を望む〜もしかして、君たちループしてる?〜
綾丸音湖
第一章
第1話 転生、そして……
「……んん?」
ふと、気づく。
ここってもしかしてゲームの世界では?
いつも通り、だだっ広い食堂で一人食事をしていると急に思い出してきた。おー、なんだこれ凄いな。色んな情報が頭を駆け巡っていく。その全てが今の体に馴染み、理解していく。
ここはおそらく、大好きだったゲーム『
このゲームの一番の特徴といえば、膨大なテキスト量と選択肢だと思う。プレイヤーは七人の主人公のうち一人を好きなタイミングで切り替えながら操作できるが、操作していない他の主人公たちは、生まれ持った特徴とそれまでの選択を基に自動で行動していく。だから、プレイヤーによって全く異なる物語が展開していくのだ。
ちなみに、めちゃくちゃハマって何周もした。
「……ふぅむ」
転生、したのだろうか。
住んでいる場所は西洋ファンタジー風味全開のお屋敷。確か魔法も見たことがあったはずだ。まだ幼いこの頭では、記憶が曖昧だけど。
うん、よし。状況は把握した。
ここはゲームの世界。剣と魔法のファンタジーな感じとか、ワクワクするね。
……さて、そろそろ現実を見よう。
なんでッ、主人公じゃないんだッ!!!
七人もいるのに!!
おかしいだろ!誰だよこいつ!!
いや、まあ名前に記憶はある。
僕の名前は、サリファ=グライエンツ。栄えあるオルブレイム帝国公爵家の三男坊。家族に会ったことはほとんどなく、使用人たちに育てられた六歳の子供だ。
サリファという名前のキャラクターは確かに存在していたが、あんまり思い出せない。問題なのは、グライエンツ公爵家の方だ。
帝国出身の主人公は二人いて、どちらの物語にも共通するイベントはたくさんある。学院で出会ったり、迷宮に潜ったり、帝国各地で発生する魔獣氾濫の討伐に繰り出したり、帝位簒奪を狙った内乱に巻き込まれたり。
で、まあその帝位簒奪を狙う黒幕がグライエンツ公爵家だったりする。完全に悪役だね。
「……詰んでない?」
主人公たちの活躍もあり、内乱は失敗に終わる。たしか、一族郎党皆殺しにされてなかったっけ。
巻き添えとか普通に嫌すぎる。
内乱が起こるのは、主人公たちが学院を卒業してすぐだったはず。なんとかして皆殺しは回避したいが、この公爵家は長い間他国と通じて入念に準備してきたはずだからもう手遅れだろう。というか、育児放棄されてる三男坊に内乱を阻止する力はない。
「……逃げるか?」
力をつけて、他国に亡命するのはありかもしれない。他の国で、主人公に協力したりして仲良くなるとか? お、なんかいける気がしてきたな。
どうせ、内乱の際にグライエンツ公爵家が召喚した魔神のせいで帝都はボロボロになるから、その時に上手く逃げ出せば……。
「……あ」
最悪だ。思い出した。
グライエンツ公爵家が行う魔神召喚の儀式。多数の人間の生贄を捧げて、依代に魔神を降臨させる非道な魔術なんだけど……。
依代って
なんか名前を聞いたことがあると思ったんだ。主人公たちが魔神をなんとか退けたあと、依代にされていたのが学院での同級生だったということが発覚する場面で名前が出ていたんだ。ということは、サリファは主人公と同い年くらいなのか。
あー、これは逃げられないな。
依代にするからには絶対に監視されているし、逃げ出したって捕まえられるだろう。というか、魔神を降臨させる器にするために体を弄られてるから、長く生きられないとかいう設定もあった気がする。
なんか、せっかく好きなゲームの世界に来れたのにテンション下がってきたな。
この際、何かと危険な目に遭うことになる大好きな主人公たちを救って、華々しく散るか。
どうせ死ぬんだし。
主人公たちを助けて、美しく散る。
方針は決まった。
セブファンというゲームはめちゃくちゃ面白いのだが、難易度は高い。凶悪なイベントや悲惨なエピソードが随所に盛り込まれており、主人公たちはいくつもの危険に晒される。そして、一人の主人公が死んだら他の主人公に切り替わってそのままシナリオが進行するのだ。死んだ主人公はもちろん蘇らないし、オートセーブだからやり直しもできない。やり直すとしたらリセットだけだ。
そんなわけで、主人公たちの命の価値は高い。そう簡単に命を落とすとは思いたくないが、そうならないように僕が命を使うとしよう。
そのためには何が必要か。
やっぱり戦闘力がほしいな。どうせ死ぬなら、カッコよく主人公を庇って死にたい。もしくは主人公たちを逃して、ここは俺に任せろってのをやりたい。
この世界で強くなるといったら、やっぱり剣術と魔術を鍛えるのがいいかな? まあ、教えてもらうアテは一応ある。なんとかして頼み込もう。
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