第47話 喰われたやつが悪い
騒ぎが起きているところに行くと、巨大なガマが暴れていた。それも、高等科の運動場でだ。
ということはさっきまでいた三学年の青空教室の場所だった。
「ガマだね」
「ガマだな」
校舎ほどの大きさのまだら模様のガマの下では、沢山の人だかりができて騒いでいる。
「誰のガマだろうね」
「そこの池のガマじゃないのか?」
鬼頭は高等科と中等科の間にある中庭の池を指し示したけど、あの池にあんな巨大なカエルはいない。
「何か実験でもしていたのかな? ……卵を生み出したし……」
粘液状の何かが出てきたと思えば、水の中で見たことがある連なっている粘液の中に黒い粒があるものだ。
それも成長が早く、オタマジャクシになって……
「卵の中で
これ無尽蔵に増えれば里の中がガマだらけになってしまう!
私は慌てて、着物のたもとから木の棒を取り出し、運動場の地面に打ち付ける。そして、その周りに八本の杭を打つ。
「『結界!』」
木の棒を中心に透明な膜が広がっていった。
これは家の周りに張り巡らせてある結界を簡易的に発動させるものだ。だから、許可がないモノは出入りが不可能。
そして今回は条件を付けなかったので、誰も出入りが不可能な状態にした。
しかし私が校舎側にいたために、中等科の校舎まで巻き込んでしまった。
「ま……真白ちゃぁぁぁぁぁん!」
ガマの足元の集団の中から人の名前を大声で叫びながら凄い勢いで駆けてくる人がいる。
あのスモークグリーンのワンピースは十環か。
「真白ちゃぁぁぁぁぁん!」
そう叫びながら十環は勢いを殺すこと無く私に飛びかかってきた。が、鬼頭に引っ張られ、タックルは避けられた。
その十環は地面にスライディングするかと思いきや、片手を地面について側転をする。
運動神経が良さそうには思えない十環だけど、動きはいいのだ。
「あれ何が起きて、ああなっているわけ?」
取り敢えず、状況確認をする。誰かが実験をしてああなっているのなら、後始末は本人に任せるべきだ。
「それが! 雀ちゃんが、いっぱい食べそうな、そこの池にいるガマでいいんじゃないって言うから、虎鉄君と
主語がなくてよくわからないけど、恐らく石蕗さんの式神の件だと思われた。
「でも、連れてきても見えないって言うから、雀ちゃんがガマを石蕗さんに押し付けたんだよ。そうしたら、ガマがあんなに巨大化して石蕗さんも取り込んじゃったの」
「は? 取り込んだの?」
「そうなの! それで桔梗ちゃんが助けようとしたら、桔梗ちゃんまで取り込んだの! あと、近くにいた虎鉄君と
それはあんなに人だかりはできているけど、何もしていないわけだ。
恐らく手を出せば、ガマに食われてしまうのだろう。
しかし、十環の話の中でおかしなところがある。
「ねぇ、それって本当に雀がやったの?」
「そうだよ。雀ちゃんだよ」
「雀って人と関わりたくないオーラが全開でしょ? 一週間しかいない石蕗さんに構うとは思えないのだけど」
「はっ! 確かに……入学してから毎日声をかけて、初めて挨拶を返されたのは中等科に入ってからだもんね」
いや、私は二学年のときだよ。一年はかかると言おうとしたのに、十環はまさかの六年。たぶん十環のテンションについて行けなかったのだと思う。
これは怪しい。雀はイタコだ。憑依されることで死者の言葉を届けることができる特異体質者。
だけど、憑依されても己の意思はあるはず……いや、この三日間雀はいなかった。
憑依が可能ということは、他者から憑依させられることも可能だと言える。そこに雀の意思はない。
私は着物の合わせを確認する。大丈夫。対策はしている。
「霜辰先生は?」
「あ? なんだ?」
先生に連絡はしているのかと十環に確認したのに、本人の声が背後から聞こえてきた。
「いつの間に!」
振り返りながら叫ぶと、暑苦しい黒いコートを着た霜辰先生が立っていた。
「鬼頭十環が叫びながら走っているときだ」
そんな前からいたの! いや絶対にわざと気配を隠していたと思う。
鬼頭は気がついていたかもしれないけど。
「先生が石蕗さんに式神を与えろって言うから、このような状況になっているので、責任持って始末してください」
ここは霜辰先生に任せよう。先生が悪いということで。
「あ? 俺は式神を捕まえてこいと言っただけで、与えろとは言っていない」
確かに言われてはいない。しかし、これ以上ガマが増えられても困る。
「それでは、ガマを冬眠させてください。卵から孵ったガマが飛び跳ねているので」
もう卵から孵ってしまった。それもオタマジャクシではなくて、ガマの姿で出てきているから、集まっていた人たちが蟻のように散り散りになって逃げ惑っている。
「取り込まれた奴がいるって言っていたが、そいつ諸共になるぞ」
「有事の際、私が守るべきは里であって、人ではありません」
ここを間違えてはいけない。里の崩壊は私達の生活の崩壊に繋がる。だから、いざというときは、私は里の維持に力を奮うことを決めている。
「そらそうだ。喰われたやつが悪い」
そう言って、黒いコートのポケットに手を突っ込んだまま霜辰先生は、ガマが暴れているところに向かっていったのだった。
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