第37話 異変

「私と鬼頭はここで待っているから、行ってくるといいよ」


 私はショッピングモールの駐車場で三人を見送る。今回は問題の家が見える場所に車を止めてもらった。


「はい!」

「完璧にこなしてみせますわ」


 二人はそう言って駆けていった。その後を大津は急ぐわけでもなくついて行っている。

 まぁ、今回の彼の役目はほぼ終わっていると言っていい。しかし、未だに私が怒っていると報告したことが解せない。


 そう思いながら私は、車の側で問題の家を観察しながら、饅頭に齧り付く。おいしい〜。

 外に行っても八坂のお饅頭が食べられるなんて幸せだ。


 私が幸せに浸っていると、横から手が出てきて、私のお饅頭が抜き取られていく。


「私のお饅頭!」


 鬼頭に一口で食べられてしまった。


「鬼頭! 私のお饅頭!」

「また買えばいいだろう」

「そうなんだけど!……うぐっ」


 文句を言っていたら饅頭を口に突っ込まれた。そしてその間にまた一つ抜き取られた。


「うぅぅぅぅ〜!!」


 私のお饅頭が!

 口の中のお饅頭を食べきって、鬼頭に詰め寄って文句を言おうとしたら、強風が吹き付けてきて、側にあったフェンスがひどい音を立てて揺れた。


「ぐはっ!」


 そこには榕がフェンスに叩きつけられた姿でいた。

 え? 何が起きたの? 饅頭に気を取られすぎて、何が起こったのか見ていなかった。


「榕! 何があったの?」


 人目があるので、隠遁の術で榕を直ぐに隠す。


 そして鬼頭に榕をこちら側に連れてきてもらい、体の状態を見る。

 うん。鬼頭の血が流れているだけあって、怪我は全く無い。

 だけど、霊力の残滓のようなものが絡みついている。これが榕の意識を奪っているようだ。


 それを掴み取り祓う。


「うっ」

「榕。何が起こったの?」

「真白様……俺……何故ここに?」

「記憶がないようだな」


 記憶がないと言うことは、侵入した時点で何かを仕掛けられていたということか。しかし、昨日視たときは、問題があるようには思えなかった。


 若月と大津がどうなったかわからない。だから早急に行動を起こすべきだ。


「榕。ここで待っていて」

「いや若月がいないってことは……」

「足手まといは邪魔だ」

「鬼頭。そういう言い方は駄目だよ」


 しかし、榕はまだ未熟だ。足りないところが多い。


「榕はここで留守番ね。代わりに私と鬼頭が行くから。残りのお饅頭を食べて待っているといいよ」


 私は榕に残り三つになったお饅頭の箱を渡す。


「ひっ! 真白様がお饅頭を手放した!」

「何でそんなに驚くの? 既に鬼頭に五個も取られているから、驚くことはないよ」

「これは……まさか……(補佐職員から渡された物を美味しそうに食べていた真白様に苛ついていたとか?)」


 最後の方は聞き取れなかったけど、箱を持った榕は青い顔色をしていた。大丈夫かな?


 しかし榕に構っている場合ではない。


「鬼頭」


 私は鬼頭の名を呼ぶ。

 すると鬼頭は私を抱えて、隠遁の術を使って、問題の家の前に瞬間移動したように立っていた。


 間口は駐車場と門柱がある造りだ。同じような造りの家々が並んでいるので、これが普通なのだろう。


 だが、まだ立ち入ることはない。


「隣の家の敷地に侵入しようか」


 隠遁の術を使っているから、侵入してもバレることはない。隣の敷地から門柱の裏を見ると、何かふだのようなものが貼ってある。


 あれは誰が貼ったものだろう? 若月ならいいのだけど、そうでなかったら問題だ。


「そのまま、裏に回ろう」


 あの札がどのような効力をもつのか不明なため、迂闊に踏み込むのは危険だ。


 隣の敷地の家との隙間を通って、裏に回る。そこには小さな庭があった。草が人の腰の辺りまで無造作に生えている。


「うーん。あの辺りの草を切れる?」


 鬼頭に言って、逆鬼門の位置にある場所を示す。鬼頭は私を抱えたまま、器用に刀を取り出し、鞘を地面に落としながら裏鬼門に向かって刃を振るった。


 鬼頭の剣の刃から放たれた斬撃によって、一直線に草が切り落とされていく。


「なにあれ? カラス?」


 庭の土の中に黒い何かが顔を出して埋められている。それもまだ生きている。


「はぁ、最悪。今日、昨日に仕掛けられている。これは私達の行動を阻害しようと仕掛けられたってこと?」


 生きたモノを使った呪詛。それは普通の呪詛より強力なものとなる。


 それも下手に手を出せない。生きた呪詛を殺せば、更に強力に効力を発揮することになる。


「取り敢えず、あれを解呪しようか」


 私は鬼頭の腕から飛び降りて、問題の家の敷地に飛び降りる。地面に足がつこうとした瞬間に地面から何かがでてこようとしたのが視えた。

 だからそのまま踏み潰す。バキバキっという何かが折れた感触があった。


 しかし他の場所から次々と白骨した手が出てきて、人の形をした骸骨が這い出てきた。が、次の瞬間には鬼頭の刀によってバラバラにされていた。


「この骨。人じゃないね」

「餓者髑髏の一種じゃないのか? 核のような物があった」

「そうなんだ」


 餓者髑髏。巨大な骨の集合体なのだが、今のはほぼ人と同じぐらいの大きさだった。そして私が核を見つける前に、鬼頭にバラバラにされてしまったので、結局どういうモノかを視ることができなかった。


 さて、あとはカラスをどうしようか……私はふと振り返って屋根の上を見る。

 大きく翼を広げた黒い鳥が、私に向かって滑空してきていたのだった。


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