第19話 式神は手に入れるではなく、選んでもらうです
「おいお前ら、除雪したら昼休みにしていいぞ。授業は昼からだ」
校庭を雪まみれにした張本人は、関係ないと言わんばかりに、去って行こうとする。
このまま居ても校庭の雪の量が増えるだけなので、校舎の中に戻ってもらっていいと誰も引き止めなかった。
「先生! まだ納得できません!」
いや、強者がいた。
ガタガタと震えながらも、先生に言い寄る石蕗さん。
「もう話は終わった。
そう言い切って、
今ここで一番非常識なのは先生の方だと思う。
「皆さん。さっさと除雪してください」
先生が居なくなったところで桔梗が仕切りだした。桔梗がいるといつものことなので、皆は頷くだけに留める。
しかし、やはり石蕗さんは不満なのだろう。桔梗の方に向いて、指を差す。
「私は絶対に貴女の言うことなんて聞かないから!」
「別に構いませんわ。それよりも、石蕗さんとおっしゃったかしら? 式神を早く見つけた方がよろしいのではなくて? でないと、そのうち死にますわよ」
「え?」
桔梗は昨日の内に彼女のことについて情報を仕入れていたのだろう。桔梗も早急に式神を手に入れることを勧めていた。
「あら? その説明もされていないなんて、柳森は不出来過ぎますわ」
「それってどういう……」
「その説明は次の指導員がするので、私が話すことではありません」
石蕗さんの疑問をぶった切って、桔梗は私がいる方に向かってくる。
「真白さん。お昼をご一緒にとりませんこと?」
「桔梗ちゃん二ヶ月ぶりだものね。十環も一緒に食べたいな」
「十環さんはどちらでもよろしいですわ」
「じゃ! 一緒に食べる!」
十環は、二ヶ月ぶりに桔梗に会って嬉しいようだ。桔梗は口ではそう言っているものの、ほぼ全員が幼馴染と言っていいクラスなので、ほのかに口元が上がっているから、桔梗も嬉しいらしい。
桔梗を見ているといつも思う。斎木家として、在らなければならないというプライドを前面に出した姿。本当はこの姿を大祖父様が、私に求めているのだろう。
だけど、無理だね。私は、私でしかない。
「鬼頭。桔梗と十環といっしょに食べていいかな?」
私は桔梗と十環と一緒に昼食をとるのは嬉しいのだけど、鬼頭としてはどうなのか意見を聞いておかないとならない。
昨日から機嫌が悪いから、鬼頭が駄目だと言えば、諦めないといけない。
「構わない。先程の確認を真白にしたいのだろう?」
「はい。そうでございます」
桔梗はそう言って、鬼頭に向かって頭を下げる。
桔梗の中では鬼頭は逆らってはならない者になっているので、私とは態度が全く違った。
「なんで、私との話が終わっていることになっているの! スマホの電源も全然入らないし! 式神なんて居ないのにどうやって、手に入れるのよ! そもそもあなた達だって式神なんていないじゃない!」
多分スマホは、
異形を見分けられないというのは、初等科の授業を受ける必要があるかもしれない。
すると、桔梗が紫の蝶を右手の人差し指に止まらせ、石蕗さんに見せびらかすように空に飛ばす。
「式神は手に入れるではなく、選んでもらうのです。勘違いしてはなりません。互いに良好な関係を築いてこその、陰陽師と式神の関係ですわよ」
「何よそれ! 私が悪いみたいな言い方しないでよね!」
桔梗の言う事に間違いはない。式神によって条件が違ったりする。選んでもらうというより、認めてもらうのほうがしっくりくる。
ただ、私は桔梗の蝶の式神や十環の文鳥の式神のような伝言を伝えてもらう式神がいない。
鬼頭がいるから、他の式神が私についてくれないのだ。とても残念すぎる。
その時、お昼休みのチャイムが鳴った。と同時に校内放送がされる。
『
「呼ばれていますわよ。きっと次の指導員が決まったのでしょうね」
「っ……」
なんだか納得できないという顔をしながら、石蕗さんは校舎の方に向かって行った。
外からきた子がいるといつも思う。この里の在り方は、閉鎖的で変わっていると彼らには映っているのだろう。だけど、里で生まれ育った者からすると、全てが当たり前なのだ。
その常識の違いが、彼女の納得できないという表情になるのだろう。
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