第17話 夏なのに吹雪いている
「……式神……なんて……いま…せん」
寒すぎるのだろう。奥歯がガチガチと音を立てながらも反論している。この状況でさらに口答えするなんて、逆に尊敬するよ。
私なら平謝りの状況だ。
だって校庭が吹雪いているもの。
「あの子さぁ。見えているのに異形がいないっていうの。変わった子だよね」
「ふーん。因みに何の異形だった?」
「校長室の前に居座っている『
「ああ、十六夜さんね。見た目は猫だからね」
通称十六夜さんは、この学校に居座っている猫又だ。全身が黒い毛並みにおおわれ、キュルルンとした金色の大きな目から、十六夜さんと皆から呼ばれている。
主はおらず、野良の猫又だ。大抵はくるっと丸まって校長室の入口横にある椅子に居座っている。あとは時々二本の尻尾を揺らして散歩をしているのを見かけるぐらい。
「猫だね。里には本物の猫はいないけどねぇ」
この里の中には動物は存在しない。空を飛ぶ鳥も、庭で寝ている犬も、野を駆けている兎も全てが異形。全てが一度調伏され、この里に住み着くことを許されたモノたちなのだ。
だから、この里で育った人たちは、本物の猫や犬、鳥などを見たことなかったりする。中には動物は普通に人の言葉を話せるのだと思っている者もいる。
……過去の私だ。
初めて里の外に出て、一生懸命に猫と話をしようとして、鬼頭に笑われたことがあった。
だって本物の猫が話せないなんて、誰も教えてくれなかったの!
「なんでもいいから、野良の異形を自分の式神にしろ。それから思念の塊は石蕗が始末をつけろ」
先生はそう言って、雪を降らすのを止めた。いや、正確には先生の式神の仕業なのだけどね。
「わかったわよ! やればいいんでしょ! 本当に私を馬鹿にしてムカつく!」
凄く怒りながら、石蕗さんは思念の塊に向かっていき、ボコボコと沸き立つように不変に形を変えているモノに手をかざした。
するとその形は崩れていき、思念の塊は消えていく。
「真白ちゃん。あれって浄化?」
十環が私に聞いてきた。浄化。それは思念である人の怨念を昇華させ、天に還すということだ。
十環が不思議そうに聞いてきたのは、我々陰陽師は浄化はできない。できるのは祓うこと。
だから思念の塊を散らして形を維持できなくすることだ。
私は十環の言葉に首を横に振る。浄化ができるのは巫女だ。彼女は巫女ではない。
私はちらりと隣に視線を向ける。すごく機嫌が悪い。おそらく鬼頭も気がついたのだろう。
誇らしげにしている石蕗さんがいるここでは口に出すことではない。だから、私は口を噤む。
なぜ陰陽庁が彼女を引き取ったのかは理解できた。彼女に関わる何かが裏で動いているのだろう。
「それから鬼頭真白。昨日トンズラした理由を言え」
はぅ!
私は席を立って、寒々しい景色の中で一人コートを着て立っている
「死人が出る前に離れたのですが、死人がでていたら、
「とらねぇよ。内容はだいたい聞いている。原因は十二年前と同じでいいんだな」
「はい」
十二年前。初等科一学年のときに起こったことだ。いや、鬼頭により引き起こされたことだ。
「
おや? 距離を取れではなく、関わるなと言われた。これは彼女の性格を考慮してのこと?
「はぁ? 意味わからないんですけど? 逆らうなって堂々とイジメをしてくる人と、怖い目の人のことでなぜ、私が死ぬことになるのよ?」
私は更に結界に内側から破壊されない呪も追加して、鬼頭の右手を押さえる。いつの間にか刀を取り出しているし!
「それに私はそんなことは聞いていないもの。イジメてくる人は、絶対に許さないからね!」
さっきからイジメと言っているけど、桔梗はこの里で暮らすには、斎木家に気を使いなさいと言っただけ。確かに桔梗は斎木の者らしくプライドが高いから威圧的だったかもしれない。
これは今まで彼女がいたところで、何かあったから余計に反発しているように見える。
だけど、この里にはこの里のルールがある。それが陰陽庁がこの里と言っていい理由にもなるのだ。
「ちっ! いい加減面倒だな。指導科の柳森を呼んで来い」
先生は何処ともなく空間に向かって言うが、そこには誰もいないように見える。だけど、普通の人が見えないモノが見える者にはみえた。先生が真っ白な着物を着た女性に向かって言ったことを。
人の姿をした異形。
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