第16話 結界を通り抜けるモノ
校庭に落ちたスマホの画面からけたたましい笑い声が鳴り響いている。そして黒い画面がボコボコと泡立つように盛り上がっていった。
いや、何かが押し出てこようとしている。
「なにこれ!……ちょっとなんで誰も何も言わないの! 聞こえているのでしょう! 見えているよね!」
勿論、ここにいる者達は見えているし聞こえている。だけど、誰も反応を示さない。
これは面倒だから自分で後始末しろという態度を皆が示しているのだ。
先程までプリン頭ちゃんに忠告をしていた桔梗でさえ、自分の席に戻って扇で仰ぎながら、本を広げて目を落としている。
あれは外で買ってきた雑誌のようだ。
そうこうしている内にボコボコと盛り上がっている黒い塊が二メートルぐらいの高さまでなって、人の顔が浮き上がってきた。
しかし今回のモノは笑い声が耳障りだ。
「もしかして誰も見えていないの! また見えているのは私だけ!」
プリン頭ちゃんはその言葉から察するに、元いた場所では色々あったのだろう。普通の人には、こういう人の思念の塊は見えないからね。
「騒がしいぞ! チャイムがなったのが聞こえなかったのか! 席につけ!」
炎天下の中、黒い長袖のコートを着て現れたのは、高等科の三学年の担任の
「今日の出席者は前から順番に名乗れ」
だいたい適当な人だ。まぁ、高等科になってから全員揃ったことなんて、両手で数えられるぐらいだから、出席は来ている者が名乗った方が早いだろう。
「先生! 助けてよ! 誰も助けてくれないのよ! 酷いよね!」
プリン頭ちゃんは、今度は霜辰先生に助けを求めに行った。
助けを求められた先生は、プリン頭ちゃんを一瞥して空いている席の一つを指しながらいう。
「俺は席につけと言ったはずだ」
「そんなことより! あれを見てよ! 私のスマホからあんなモノが出てきたのに! 誰も見えないし! 聞こえないの!」
「そんなことだと? そもそもスマホの使用は、校内で禁止だと説明されただろう」
あ⋯⋯霜辰先生がぶちギレ一歩手前だ。それを感じとった前の方の席にいる
私の結界の中に入れて欲しいと。
「言われたけど! スマホなんて皆、普通に使っているよね!」
霜辰先生がぶちギレ寸前と気がついていないのか、プリン頭ちゃんは言い返している。凄いな。
その間に十環を結界内に入れてあげる。隣の鬼頭の機嫌が悪くなったのを感じたが無視だ。
「鬼頭様。お邪魔します。これが終われば直ぐにでますから」
十環も感じたのだろう。鬼頭にペコペコと頭を下げて、私の後ろに隠れるように陣取った。
「スマホなんて、ここじゃ意味ないから殆どの生徒は持っていないよね」
「そうだね。連絡を取りたければ、式神を飛ばしているからね」
そんな会話を十環としている間に、校庭が真っ白になってきた。夏なのに空気が凍りついてキラキラと光出す。
周りを見ると、結界の強化が得意な者のところに身を寄せ合っている姿が見られた。
そして原因のプリン頭ちゃんは身を縮こませてガタガタと震えている。
流石に半袖短パンは凍え死ぬと思う。
「あ? 説明されたはずだろうが! この地には結界が張ってあると。それは人の出入りの制限のためと、異形が外に出ないようにするための結界だとな」
異形。それは妖怪だとかお化けだとか一般的に言われているものだ。そして思念の塊が里を覆う結界内の中に何故いるかと言えば……
「その結界を通過できてしまうのが、通信機器を媒体にできるモノだ。だから校内での使用を禁止している。使いたければ、誰の迷惑にならない寮の個室で使え」
そう、常時里を覆っている結界にも欠点はある。思念などの形を持たないものは電波という外部と繋がる物を通じて侵入し、この地に溢れ出る龍脈の力を吸って、実体を得てしまう。
「だいたいそんな思念の塊如きでギャーギャー喚くな。さっさと散らせ。それから
そう式神。小さく弱いモノから、大きく強いモノまで、古くから今まで調伏してきた異形が里の中には存在しているのだ。
しかし、やっとここでプリン頭ちゃんの名前がわかった。
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