第15話 泥船?! 

この世界では、歴史が少しずつ異なる軌跡を辿り始めた。




アメリカ合衆国:協調路線への転換


第46代大統領ジョー・バイデン政権下で、アメリカは「多国間主義」を基盤とした外交戦略を進めている。


中国を「競争相手」としつつも、全面的な対立ではなく、環境問題や貿易において一定の協調姿勢を取る方針に変化した。


トランプ時代の「アメリカ第一主義」から脱却し、同盟国と連携して世界の安定を目指す動きが強調されている。




中国:南シナ海での抑制的な行動


中国政府は南シナ海での軍事活動を一時的に控え、国際社会からの圧力を回避する動きを見せた。


地球外の存在に対する認識が、各国の行動に微妙な影響を与え始めているのだ。


しかし、国内での厳しい情報統制と一党支配体制は変わらず、周辺諸国との緊張感も根強く残っている。




ロシア:慎重な領土政策


プーチン政権下のロシアは、ウクライナや東欧における影響力拡大を続けるが、これまでより慎重な姿勢を取るようになった。


ロシアは虎視眈々と機会を伺いながらも、世界的な注視を意識して表立った軍事行動を控えている。




ミャンマー:軍事クーデターの未然回避


2021年2月に予定されていたミャンマー国軍のクーデターは、この世界では起こらなかった。


国軍とNLDの間で一時的な均衡が保たれている。




日本:変わらぬ泥船


政界の腐敗


日本の政治は、利権政治と金銭的な不正行為によって蝕まれていた。国会議員の多くは、自身の利益を優先し、以下のような行動を繰り返していた




賄賂の横行:大企業や業界団体からの献金が政策に直接影響を与え、多くの議員が企業寄りの政策を推進。


予算の横領:地方自治体や公共事業に投じられるべき予算が、不透明なルートで議員やその支持基盤へ流れる事例が後を絶たない。




選挙における不正:地元有権者への利益供与や、表向き合法だが実質的には不正行為とされる選挙戦術が常態化。


これらの問題に対し、国民は抗議の声を上げるものの、政治家や行政機関の間での自浄作用はほとんど期待できない。メディアによる批判もあるが、背後にある利権や影響力に阻まれ、報道が抑え込まれるケースも少なくない。




弱腰な外交政策


日本の外交政策は、特にアメリカと中国との関係において、従属的な姿勢が際立っている。




アメリカとの関係


日本は戦後、アメリカの安全保障の傘の下で繁栄を築いてきた。その歴史的背景から、アメリカ政府の要求に対して反論や独自の意見を持つことがほとんどない。以下のような問題が指摘されている




米軍基地問題:沖縄をはじめとする米軍基地の存在が地元住民の生活に多大な影響を与えているが、日本政府はアメリカに対して有効な交渉を行えていない。




軍事技術の依存:自衛隊の装備や技術開発において、アメリカの技術に依存し、日本独自の軍事産業の発展が停滞。




TPPやFTA交渉:経済交渉においてもアメリカ側の条件をほぼそのまま受け入れる形となり、農業や医療分野での国民負担が増加。




中国との関係


一方、中国に対しても、経済的依存度の高さから強硬な姿勢を取ることができない状況にある。特に以下のような問題が深刻だ:




親中派議員の台頭:日本の国会議員の約3分の1が親中派とされ、中国からの資金提供や政治的影響力を受けている。




領土問題での妥協:尖閣諸島や東シナ海における中国の挑発行為に対し、日本政府は有効な対策を講じられず、事実上の現状維持に甘んじている。




経済協力の依存:中国市場への輸出依存度が高まり、中国が示す条件に従わざるを得ないケースが増加。




これにより、日本はアメリカと中国の間で自国の利益を最大化することができず、結果としてどちらにもいい顔をして譲歩を重ねる「中途半端な外交」と揶揄されるようになった。




宗教団体との癒着


日本の政治と宗教団体の関係もまた、大きな問題として取り沙汰されている。一部の宗教団体は、膨大な資金力や支持者数を武器に、特定の議員を支援し、政策に影響を与えている。




政策への影響:宗教団体が推進する価値観や倫理観が法律や教育政策に反映されるケースが増えている。これにより、世俗的な社会との摩擦が生じることも多い。




癒着の隠蔽:表向きは独立性を保っているとされるが、実際には多くの議員が選挙支援を受け、その見返りとして宗教団体に有利な政策を実行。




税制優遇の問題:宗教団体に対する課税制度の甘さが、国民の間で不公平感を生んでいる。




宗教団体との癒着は、日本の政治が公正さを欠いているという印象を強め、若者や無党派層の政治離れを助長している。




泥船としての日本


これらの要素が重なり合い、日本は国内外で「泥船」と揶揄される状況にある。具体的には以下のような批判がある:




国民の不満:税金が有効に使われず、公共サービスやインフラ整備が遅れている現状に対し、多くの国民が無力感を抱いている。




国際的な評価の低下:外交における主体性の欠如や、国内政治の混迷が原因で、日本の国際的な地位が低下。




将来への不安:少子高齢化問題や経済停滞が長期化し、次世代への展望が見えない。




日本の「泥船」状態は、問題を見て見ぬふりをする政治家たちによってさらに悪化している。必要なのは、徹底した政治改革と、国民全体での意識改革である。しかし現状では、その兆しすら見えていない。




このように、日本は表向きの安定性を保ちながらも、内部には深刻な腐敗と機能不全を抱えたままである。これが改善されない限り、国際社会においても、日本の存在感は徐々に薄れていくことが予想される。




シンが地球に滞在する中で最も心を惹かれるのは、日本の文化だった。彼が好む日本酒、旬の食材を生かした食事、肌を潤す温泉、そして武士道の精神を感じさせる時代劇の数々。これらの魅力に触れるたびに、日本文化の奥深さを実感し、特別な愛着を抱くようになった。しかし同時に、それらを生み出した国が抱える深刻な政治的、社会的問題を見るたびに、やるせない気持ちに駆られるのだった。




「こんなに素晴らしい文化があるのに、どうして国の政治家たちはこんなにも無能なんだ?」


彼の疑問と苛立ちは、愛情に似た感情から生まれていた。


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