第4話 美味し!2

フランス、パリ某所。煌びやかなシャンゼリゼ通りからほど近く、一流レストラン『エピキュール』では、エマ、アイシャ、ジャネットの3人がディナーを楽しんでいた。誠実さに溢れた料理に、瀟洒な中庭に面したクラシカルな店内、トップレベルのホスピタリティが加わり、“フレションの世界”をいっそう華やかに彩る。


優雅な食事のひととき


「まあ、美味しそうだわ。」


エマが笑みを浮かべながら運ばれてきた料理を見つめた。その瞳には、地球の文化への好奇心が映っている。


「む…綺麗ね。」


アイシャが目を細め、目の前の一皿に盛り付けられた芸術のような料理をじっと見つめる。戦闘に特化した冷静な彼女も、この美しさには感嘆を隠せなかった。 


「さて、味の方はどうなのかしら。」


ジャネットがナプキンを軽く整えながら微笑む。3人の食事マナーは完璧で、まるで長年の貴族のような所作が自然と身についていた。




“スコットランドサーモン”フェンネル、キュウリ、ミントオイルなどが入ったソースとともに。


“ソローニュのキャビア”キャビアの下にはジャガイモのムース、カリカリに仕上げたそば粉を混ぜたサワークリームが。


“マダガスカル産バニラ”等々…


彼女たちの優雅な振る舞いと目を引く美貌は、店内の他の客たちを魅了していた。どのテーブルも彼女たちを一瞥し、まるで現代に舞い降りた女神のような彼女たちの存在に圧倒されていた。




地球のワイン文化への興味


食事を終えた後、エマが茶目っ気たっぷりに提案した。


「次は、ワインの方を調査してみましょう?もっとたくさんのワインをね。」




普段は寡黙なアイシャもこの提案には同意し、珍しく笑顔を見せた。


「…いいわね…。フフ。」




ジャネットは軽く頷きながら、グラスに残った赤ワインを一口飲み干し、微笑を浮かべた。


「地球人、侮りがたしだわ。」




華やかな夜の街へ


3人はレストランを後にし、夜のパリの街へと歩を進める。エッフェル塔が遠くに輝き、石畳の通りには街灯の温かな明かりが灯っている。高級ブティックや洒落たカフェが並ぶ中で、彼女たちはパリの空気を楽しむようにゆっくりと歩いた。


彼女たちが消えていく姿は、まるでパリという都市そのものが彼女たちを祝福しているかのように映った。その夜、地球のワイン文化に隠された魅力と奥深さを探る彼女たちの旅は、まだ始まったばかりだった。




アメリカ、ニューヨークの名店『ダニエル』。


エルザ、ヤシャスィーン、ダミルィ―、シグの4人がその扉をくぐったとき、店内の空気が変わった。ドレスアップした彼女たちの姿は、まるで映画のワンシーンから抜け出してきたかのよう。豪華なシャンデリアに照らされた店内で、彼女たちの美貌と存在感は際立っていた。




『ダニエル』は格式の高い一流レストランで、客層の大半は50代以上の落ち着いた雰囲気の人々だった。そんな中に現れた4人の美女は、店内の話題を一瞬でさらった。周囲の視線が彼女たちに集中するが、彼女たちは慣れた様子で悠然と歩を進め、指定されたテーブルへと向かった。




シグが言ったように、本来予約でいっぱいのこの店も、彼女の電子スキルの前では何の障害にもならなかった。予約の確認などスマートフォンひとつで操り、彼女たちは当然のようにその席を手に入れた。




料理が次々と運ばれ、彼女たちはそれぞれの味を堪能した。そして、最後に出された『ダニエル』の名物、焼き立てのマドレーヌ。




エルザが小声で呟く。


「…ヤバい…コレはヤバすぎるわ。」


冷酷な戦闘型ホムンクルスである彼女から出た言葉とは思えないほどの驚嘆だった。


「うふふ、美味しいわ~。」


ヤシャスィーンが微笑みながら言う。その優しい笑顔は、まるで天使の祝福のように周囲の客に映り、さらに視線を集めた。


一方、ダミルィ―はその狂気じみた趣味を抑えきれない様子で低く呟く。


「コレを作った人の脳を解剖してみたいですわ。」


怠け者のシグは、マドレーヌを一口食べてからさらりと言い放つ。


「ウチは決めたわ。地球上の一流レストラン全てを制覇するわ。」




その言葉に、エルザ、ヤシャスィーン、ダミルィ―は目を合わせて笑みを浮かべた。これ以上ないほどに満足した4人は、優雅に席を立った。




しかし、店内の一角。豪華なスーツを着た一人の男が、じっと彼女たちを見ていた。年齢は50代半ば、堂々とした体格と貫禄を持つその男は、アメリカンマフィア『ガ○ビーノ一家』の幹部だった。




彼はワインを片手に、興味深げに彼女たちの一挙手一投足を観察している。その目には、ただの好奇心ではない何かが宿っていた。「…いい女だな。オレのものにしたいぜ…!」


男はそう呟き、部下に小声で何かを命じた。部下は静かに頷き、店を後にする。




エルザたちはその視線に気づく素振りを見せることなく、レストランの扉をくぐり、ニューヨークの夜へと消えていった。しかし、マフィア幹部の目が冷たく光るのを、見逃した者は誰もいなかった。 




「?…!いない…どこに行った…?」慌てて駆けずり回るが、エルザたち4人を見つけることは、出来なかった。 




【エリシオン】艦内では、まるで学園の放課後のように、楽しげな雰囲気が漂っていた。




「チーズケーキは美味かったな!」と、豪快に笑うシン。


「ほんと、日本酒も最高だったわ!」と、ジラーが続く。


「フランス料理も素晴らしかったわ。美しい盛り付けも印象的だった。」と、エマが思い出すように微笑む。


「ワインなんて多すぎて~、どれを選んだらいいのか迷ったけど、どれも美味しかったわね~。」と、ヤシャスィーンが品よく頷く。




そこにダミルィ―が加わり、「私たちが食べたマドレーヌも絶品でしたわ!」と言うと、また一同が笑い声を上げた。






シグの野望


「でもさぁ~、シグが~『地球上の一流レストランを全部制覇する』って言ったの~、可笑しかったわ~。」と、ヤシャスィーンが言うと、ジラーが冷ややかに、


「ほー…怠け者のシグがそんなこと言ったのね。」


その言葉に、皆の視線がシグに集中する。




「ウ、ウチそんなに、しょっちゅう怠けてないし!」


シグは慌てて手を振りながら、ふとモニターを確認して大きく目を見開いた。


「あっ!そろそろ生産し終わったころじゃない!」




彼女はそう言うなり、勢いよく席を立ち、生産施設へと急ぎ足で向かう。 


           




量産完了


生産施設では、チーズケーキやマドレーヌ、日本酒、ワインなど、地球で堪能した数々の料理や飲み物が、増幅装置を使って次々と再現されていた。


「よし、これで艦内でも好きなときに楽しめるわ!」


シグが胸を張りながらつぶやくと、後ろからリーイエが顔を覗かせ、


「意外と真面目にやるのね。ちょっと見直したわ。」と、冗談めかして言う。




「うるさいなぁ…。これもウチの怠けない努力の成果だし!」


ぶつぶつ言いながらも、シグの顔には満足げな笑みが浮かんでいた。        

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