第3話 美味し!

インストールを終えたシンたちは、エリシオン艦橋で地球の現状について軽いブリーフィングを行っていた。地球各地の政治構造、文化、経済、軍事などを整理した情報が次々と提示され、彼らはそれに基づいて議論を始める。


「どこの国の政府も、汚職、不正、欲まみれなクソばっかり!」


シンが机を叩きながら毒づく。「これだから権力者って奴はいけすかねぇ!」


リーイエが静かに頷く。


「ええ。まったく。どこの惑星も似たり寄ったりね。いつの時代も泣くのは、善良な市民だわ。」


「人類は、罪深い生き物ね。」


エマが憐みの声でつぶやく。彼女の知識の中に刻まれた地球人の歴史がそう言わせるのだろう。


ジラーが勢いよく声を上げた。


「シン、マジで、アタシらで征服するか?」


「わたしも、ジラーの意見に賛成…ってか、70億人もの人類が…殺りまくりじゃない!」


エルザが笑いながら言う。まるでおもちゃを見つけた子どものような目だ。


「善良なものまで殺すことには、反対よ。」


冷静に反対意見を述べるのはアイシャだが、続けた言葉がさらに冷淡だ。


「非効率よ。」


その意見を受け、ジャネットが狂気を宿した瞳で囁くように言う。


「従順なものには、博愛を。それ以外のものには…クフフ。」


「地球人共を一度バラしてみたいですわ。」


ダミルィーも興奮気味に言う。興味の対象は人体実験だ。


シグはその流れに軽く乗りつつ、独自の提案を投げる。


「ウチも、ちょっとやってみたいことがあるんだよねえ~。地球にあるコンピューターを全部使い物にならなくしたら…どうなるんだろうねぇ~?」


「やめなさいよ~、皆さん良くないわ~。」


ヤシャスィーンがほんわかと口を挟むが、その説得力は皆無だ。




そんな物騒な話の中、ミリアがシンの裾を引っ張った。


「…シン、見て。美味しそう…」




彼女が差し出した端末には、日本の首都、東京の映像が映っていた。画面に映るのは某カフェテリアで、パフェやケーキ、華やかな料理が並んでいる。


シンが呆れたように笑いながら言う。


「おいおい、今そんな話してる時かよ。」


しかし、その光景を見たジラーやエルザも思わず興味を示す。


「いや、マジで美味そうじゃねえ?」


「これが地球の食文化ってやつか…?」




一瞬で場の雰囲気が和らぎ、彼らの議論はカフェテリアの映像を中心に新たな方向に向かう。




広大な宇宙において、食文化は信じられないほど多様性に富んでいた。だが、それはシンたちにとって「豊かさ」とは程遠いものであった。


宇宙の食材の問題点


各惑星には独自の環境があり、そこで栽培される野菜や家畜の種類も地球とは比較にならないほど多様だった。しかし、問題はその「多様性」にあった。




味覚の違い


 ある惑星の住民にとっての絶品料理が、別の惑星の人々にとっては耐えがたいほど不快な味になる。




見た目や匂い


 「食」として認識される基準が惑星ごとに異なるため、一見して不快な食材や、悪臭を放つ食材が多かった。




未知の成分


 購入した食材がどんな成分で構成されているのか、そもそも安全かどうかもわからない。艦内で分析を行うものの、その結果、「生理的に受け入れられない」と判断されるものばかりだった。




厳選された結果:食の貧困


このような事情から、エリシオン艦内の食文化は驚くほど限定的なものとなっていた。クルーたちは栄養バランスを最優先にし、不味さを我慢しながら摂取する食事に甘んじるしかなかった。


美味しい食材もあるが、レパートリーが少なさすぎて、飽きてしまった。




主食


 ・ゼリー状の経口食:無味無臭に近く、最低限の栄養を補給するためのもの。


 ・カロリーバー:乾燥した固形食。味はほとんどなく、食感も無機質


 ・サプリメント:各種ビタミン、ミネラルを補う錠剤。


 ・美味しい食材:見飽きた。




飲み物


 ・酒:艦内で厳選された数種類。


 ・ジュース:数種類の甘味飲料があるが、味は地球基準で言えば「そこそこ」。


そんな彼らにとって、地球の食文化は「未知の楽園」のように映った。




「ミリアが見せてくれたカフェテリアの料理、どれも綺麗で美味しそうだったな。」シンが独り言のように呟く。


「でも、地球人の味覚が私たちに合う保証はないわ。」リーイエが現実的に言う。


「それでも試してみたいっすよ~。」シグがニヤリと笑う。




地球への好奇心が高まり行動を決意したシンたち。その準備と行動はまさに電光石火だった。


シグの技術力


最新型スマートフォンを瞬く間に製造。それを地球の通信ネットワークに完璧に適合させる技術力を見せつけた。さらに、地球の富豪たちの口座をハッキングし、大量の資金をチャージ。これにより、彼らは地球で自由に行動できる経済基盤を手に入れた。




装備と慎重な対策


全員が一般的な地球人に見えるよう衣装を整え、現地の文化に適応した。さらに、各チームにステルス性能を持つドローンを随行させ、緊急事態への対応策を準備した。このドローンは、万が一の場合、大隊規模の敵を1分で制圧可能な火力を持つ。




東京チーム




シン・バークレー


義海賊の頭で、ナノマシンで強化された肉体を持つ。どんな状況でも冷静かつ大胆な判断を下す。


リーイエ


クルーの副長であり、頭脳明晰な万能型ホムンクルス。計画立案と指揮を担当。


ジラー


戦闘型ホムンクルスであり、チームの火力担当。地球の「格闘文化」にも興味津々。


ミリア


特殊個体であり、地球の「お菓子文化」に最も興味を示す。見た目の愛らしさから最も目立つ存在。




パリチーム




エマ


科学技術に精通し、地球の歴史と文化への関心が高い知識人。


アイシャ


寡黙な戦闘型ホムンクルスで、警戒態勢を保ちながら行動する。


ジャネット


医療型でありながら、地球人の身体構造に強い興味を持つ。表情は穏やかだが、内には狂気を秘める。




ニューヨークチーム




エルザ


トリガーハッピーな戦闘型ホムンクルス。都市の喧騒と銃社会への興味が尽きない。


ヤシャスィーン


穏やかな性格の万能型ホムンクルス。調査と情報収集に専念する。


ダミルィー


実験好きな万能型ホムンクルス。地球人に「解剖」への興味を知られないよう注意が必要。


シグ


電子戦のスペシャリスト。地球のインターネットと接続し、全世界の情報を掌握する準備を整える。




東京某所、シンたちは初めて体験する地球の「食文化」に圧倒されていた。小さなカフェテリアの一角で、それぞれが頼んだスイーツを口に運ぶ。


驚きと感動の瞬間


「…おいおい、マジで美味ぇじゃねぇか…!」


フォークで掬ったチーズケーキを口に入れたシンが、目を見開きながら感想を漏らす。




「本当。美味しいわ。」


リーイエもまた、ほのかな甘みとクリーミーな食感に魅了され、珍しく柔らかな表情を見せた。




「美味ぇ…美味ぇよ!」


同じ言葉を何度も繰り返しながら夢中で食べ進めるジラーは、カフェの他の客から奇妙な視線を浴びているが、全く気にしない。




「美味しい!」


8歳の姿をしたミリアが、目を輝かせながら満面の笑みで感想を口にする。その愛らしい様子に、周囲の客たちも微笑んでいた。




未来の計画


「こりゃあ、酒の方も期待できるかもな。」


シンはカフェのメニューに載っている各種アルコールを指さしながら提案した。




「おっ、そりゃあいいねえシン。」


ジラーがすぐに賛同する。彼女は戦闘以外のことに興味を示すことが少ないが、この場では珍しく食文化に興味を抱いていた。




「私はワインを飲んでみたいわ。」


リーイエが落ち着いた口調で提案する。地球特有のアルコール文化も調査対象として興味を持ったようだ。




「艦内に現物を持ち込んで、増幅装置で生産させれば、いつでも食べられるようになるからな、ミリア。」


シンがそう言うと、ミリアは一層笑顔を広げて元気よく頷いた。




「うん!」

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