ファンタジーの時間Ⅰ
八幡太郎
第1話 館長、異世界に召喚される
異世界Aでは魔族の支配が進み、人族は危機に瀕していた。
「王様、魔王より姫を差し出すようにと文が送られてきました」
「兼ねてより魔王はわが娘を嫁に寄越せと言っていたが、これ以上は拒めまい……」
王が諦めかけたその時、一人の神官が慌てて王宮に駆け込んできた。
「王様、遂に勇者の召喚に成功しました!」
「なんだと! して、勇者様はどちらに?」
「はい、今こちらに参られます」
王は神官の勇者召喚の知らせに喜んでいると、野太い中年男の歌声が聞こえてくる……。
「は~だ~か~の王様が~、やってきた、やってきた、やってきたぞ~♬」
「おい、なんだあの歌は? 何やら白い服を着たゴツゴツの男が近づいてくるぞ……」
王は驚いていた。
精悍な若者が現れるかと思っていたが、ゴツイ体格で、少し毛深くて禿げたおっさんが歩いてくる。
「おっと、この展開は娘が見ていたアニメを見たことあるからしってるぞ! 問おう、お前が俺のマスターか?ってな」
「お前とは王に対して無礼であるぞ!」
「うるせぇ、王を名乗るなら、もっと鍛えろ! なんだそのぶくぶくな体は!」
神官が呼び出したこの男、一撃会館館長・轟一徹、空手家である。
一徹は地下闘技場でライバルの柔術家・山嵐虎鉄と戦っている最中に突如異世界に召喚されたのであった。
「さっきそこの神官とかいう奴に聞いたが、お前困っているんだろ? まあ、場合によっちゃ協力してやるよ、話してみろ!」
王の前でもまったく物おじしない絶対的な自信と強者の風格、王は身なりと言葉遣いは気に入らないながらも、この異界の勇者に実情を相談してみた。
「なるほどな……。悪い輩が姫さんみたいないいとこの娘をてめぇの女にしたがるってのはよくある話だ……。まあ、俺が身代わりに姫さんの格好で魔王のところに乗り込んで戦ってやってもよいぞ!」
轟の大胆な提案に王も神官も目を丸くする。
「いやいやいや、轟殿、いくらなんでもそれは無理があるだろう……。その見た目で姫のドレスを着てもバレバレで、かえって相手を怒らせてしまう……」
王も神官もさすがにと轟を制そうとするが、轟は大声で怒鳴り散らす。
「道着もウェディングドレスも同じ白だろろが! それにウェディングドレス着て、顔さえ隠せばばれねぇだろ!」
(いやいや、絶対にバレるって……)
そう思う王と神官であったが、このままでは姫を魔王に差し出さなければならないという切羽詰まった気持から、轟の提案を受け入れ、空手道着の上に白いドレスを着せた轟を魔王城へと連れていくことになった。
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