第13話
今日からお姉ちゃんの彼氏が私に勉強を教えにきてくれるそうだ。
模試の成績が思うように振るわないと前々から相談はしてたけど、
こうもあっさり専属の家庭教師がつくなんて、なんか少し得した気分。
だって、皆んなは塾に入れて貰えるけど、
ウチにはそんな金銭的余裕は無いからーーどうして、私の家はこんなに
貧しいんだろう..。豆腐屋さんなんて畳んで、YouTuberにでもなれば良いのに。
お姉ちゃんは美人だし、それだけで稼げるのに、何で利用しないんだろう..。
「もしかして、
お姉ちゃんが色んな男の人の性的対象として
見られるのが嫌だからやらせないんですか?」
「は..?」
お姉ちゃんが紹介してくれた家庭教師の第一印象は、パッとしない、
どこにでもいる普通の男子高校生って感じだった。
クラスの男子の中で、5,6番目くらいの容姿ーー
目は澄んでて綺麗だと思うし、それぞれのパーツも整っているけど、
あまり自信が無い人なのかな? 猫背だし、声も小さいーー
「えっとじゃあ、苦手な教科とか..。あったりするかな..?」
「当たり前じゃないですか? 家庭教師お願いしてるんですよ?
最初から全部出来たら、誰かに教えてもらおうなんて思いませんよ」
だから、ちょっとこちらが強気に出れば簡単に萎縮する。
今までの経験上そう”ゆ”うタイプの男だと踏んだのに、彼は案外強情で、
私を諭(さと)そうとまでしてきたから腹が立った。
2年しか年も変わらないくせに、自分はもう人生とは何か知ってますよー
みたいな悟りを開いた顔で、講釈を垂れる人間ほど虫唾の走るものはない。
「それって、私の価値観の否定ですよね?」
「うーん..。俺は単にアドバイスとして言っただけなんだけどなー
否定したつもりじゃないよ、ごめんね」
簡単に謝る。そうやって、自分に非があるとすぐに認めてしまう。
なんでこんな弱い男をお姉ちゃんは選んだの? 意味が分からないけど、
少なくともこの人は、モノを教える技術に関してはそこらの学校教師より一枚上手だった。
理解力のあまり早い方ではない自分のペースに合わせてくれるというか、
何度分からなくて質問しても決して嫌な顔一つせずに真剣に向き合ってくれる所だけは
評価に値するのかもしれない。
事実、彼が家庭教師になってから受けた模試の成績は、
以前と比べ見違えるほどに向上していたーー
「ありがとう..ございます..」
お礼を言うのは彼の指導が適切で、それが自分の結果に結び付いたから。
ただ私は人に感謝の意を示すのがあまり上手い方ではないから、
どこかぎこちない態度になってしまった。
「違うよ、、」
ほら、彼曰く私の態度は不適切だったようだし、次からはもっと上手く言えるようー
「違う!!
これは紛れも無い、正真正銘クイナの努力の成果だよ!」
「え、、あえ、、へ..?」
この時から、彼に対する印象が少し変わった気がする。
私が高圧的な態度を取り続けるのは
凄く失礼な行為だと思ったからそれをやめたしー
「先生..」
気づけば、私は彼の事を先生と呼ぶようになっていた。
「どうしたの?」
先生は家庭教師として私の家に訪問しに来る時は、決まっていつも
自分の勉強をしたり、本や漫画を読んでいたりしていて、そんな作業を
こちらの都合で中断させるのは気が引けたけど、
私は先生の優しさに甘えていた。
♢
そんなある日の事だった。
何気なくいつも使っている問題集に向き合いノートに鉛筆を走らせながらも、
私の視線は傍でコーヒーを飲んでいる先生の所作を追っていた。
用があるわけじゃ無いのに、先生から目が離せなくなっていた。
「どうしたの? 分からない問題?」
「違います..」
「じゃあ、俺の顔に今、なんかついてる..?」
「そ、そういうわけでも無いです..」
「そっか..。なら引き続き頑張ってね」
「はい!!」
そっけない先生とのやり取りが異常に楽しく感じられる一方、
先生が私のお姉ちゃんと仲良さげに店頭で話しているのを見ると、
胸の奥がざわついて勉強に集中するどころではなくなっている自分がいた。
何でだろう?
今度ひ○ゆきさんにスパチャ送ったら教えてくれるかな?
「リョウ..」
ある日、
不意に私の口からその名が発せられると、先生は少しビクッとした気がした。
「分からない問題?」
「はい..。分からないことがあって、、」
意を決して、直接聞いてみる事にした。
「最近、問題集を見てると、自然と先生の方に目が向いてしまうんです..。
それに、先生が私のお姉ちゃんと話しているのを見るとムカムカしてきます」
「......。それ、冗談..?」
「いいえ..?」
「そっか..。どうしたもんかな..」
先生は必死で言葉を選んでいるように見えた。
「クイナ..」
「はい!!」
「前から気になってたんだけど、クイナってもしかして、俺の事嫌い..?」
「え....。そんなわけ!!」
思わず声が昂ってしまった。
そんなわけない。先生の事が嫌いなはずがないのに、
先生はどうして私がそう思っていると勝手に考えるんだろうーー
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