第8話

「木綿豆腐ください」

「はい! 分かりましたリョウ先輩!」


「あれ..? 今日、シズクは..?」

「あぁえっと、お姉ちゃんは今、インフルエンザに罹っちゃって

ずっと寝ているので、今日から数日は私が店番なんです」


「インフルエンザ..。あぁ、前にそんな事言ってたな..」


 三学期が終わり、季節は冬から春へと差し掛かる中。

ポカポカとした陽気と共に、

クイナの性格も以前とは別人のように明るくなった。


 受験が終わってストレスから解放されたからだろうか?

制服の採寸を翌日に控え、彼女はすっかり上機嫌だった。


「はい! 木綿豆腐と、豆腐ハンバーグはサービスね!」

「おぉ..。クイナはハンバーグなんだ..」


「はい! 

お姉ちゃんはツクネが好きだけど、私はこっちのが美味しくて好きです」

「へぇ? よく食べるの?」


「そうですね」


 最近は、豆腐屋でも彼女と話す機会が以前と比べめっぽう増えた。

中学を卒業した今、春休み期間中のため四六時中家にいるからだろう。


 年頃の女性なんだからもっと友達と遊べば良いものを、彼女曰く

無駄な出費が嵩むのが嫌なのだそうだ。シズクも同じようなこと言ってたっけ..。


 相変わらず財政状況は逼迫気味であるらしく、これからはシズクとクイナの

二人で店を回していくそうだ。未成年就労だとか、そこら辺が気になるものだが..


「あの! 先輩は明日の制服の採寸、一緒に来てくれるって嘘じゃないですよね!」

「あぁ、勿論。そんなことで嘘つかないよ」


 明日の採寸は、本来は姉(シズク)と行く予定だったらしいが、

なにせ今はウイルス性の病気で寝込んでいるから外に連れ出すわけにはいかないし、保護者や兄弟、親戚同伴というルールがある以上、一人で行くわけにもいかない。


 遠い血縁者より、近くの親しい人を選ぼうと決めたのはシズクで、

俺は彼女に指名される形で、クイナの付添人となった。


「楽しみです。ついでに校舎案内してくれると嬉しいです!」

「校舎案内は入学初日にクラス単位で実施されるしそっちのが説明も詳しいよ」


「そうなんですね!」


 子供のように目を輝かせている。


「後、桜島学園は確か新入生歓迎合宿みたいなのがあったはずだ。

一年と三年がそれぞれ二人組のペアを作って、その作った一年生ペアと三年生ペア同士がくっついて、計四人のグループを作って桜島を探索する」


「あぁ! 私それパンフレット読んだから知ってます!

火山灰で埋没した鳥居があるとことか、月讀(つくよみ)神社行くんですよね!」

「そうそう。俺はもうシズクとペア組むって決めてるから、

その、もし良かったらクイナもーー」


「そっか。先輩と一緒に観光出来るんですね!

分かりました! なら私、先輩とお姉ちゃんのペアとくっ付きます!」


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