おしゃべりな金魚

@hoshibudou

おしゃべりな金魚

我が家の金魚はおしゃべりだ。

名前は「とけい」。

彼か彼女かはわからない。

うちに来て2年と数か月が経つが、卵を産む気配もないから、オスなのかもしれない。

当時4歳だった息子が生まれて初めての金魚すくいで掬い上げた一匹である。


息子が掬った金魚は一匹であったが、おまけだと言って他に2匹の金魚ももらってきた。

最初から弱っていた金魚だったのだろうか。

その2匹はそうそうに魚生を全うし、息子に掬われた「とけい」のみが図々しくも生き残った。


3匹用の水槽に1匹で暮らすことになった「とけい」はぶくぶくと肥えていった。

金魚は水槽に合わせて大きくなると聞いたことがあるが、これは本当だったらしい。

これ以上大きくなっても困るので、餌の量を調整することにした。

野生の金魚などいないのだろうから、金魚が元々何を食べるのかはしらないが、

万年野菜不足の私は迷った挙句に野菜がメインの餌をやることにした。

野菜を食べて太る生き物はいないだろう。

餌をやるのは一日二回、朝と夜、どちらも数粒ずつと控え目な量にした。


そんなある日、「とけい」がしゃべった。

水面から器用にも口だけを出して、ポコポコと音を出したのだ。

ちょうど私が水槽の前を通った時だった。

目が合った。

瞼のない開けっ放しの丸い目が、何か訴えている。

酸欠かと思い、水を替えることにした。

しかし、水を替えても「とけい」のおしゃべりは止まらない。

偶然ではなかった。

私が水槽の前を通った時にだけ、ポコポコと話しかけてくるのだ。

他の家族が通っても素知らぬ顔をする。


私は「とけい」の餌係だった。

よくある話だ。

子どもが面倒を見る約束をして迎えた生き物の面倒は大抵親が見る羽目になる。


もしかしてと思い、数粒の餌を入れてやると、ポコポコとおしゃべりをしたその口で一気に餌を飲み込んだ。

一瞬のことだった。

やはり空腹だったのだ。

空腹は不幸だ。

ダイエットなんて、人間の趣味みたいなもの。

金魚は魚らしく、好きな時に食べ、ひらひらと泳いでいればそれで十分なのである。


あれから一年が経った。

私はというと、餌係から召使いに昇格した。

今では私が水槽の前を通らなくても、空腹になると、ポコポコと私を呼ぶ。

召使いの仕事に休みはない。

子どもの相手をしているときも、自分の仕事をしているときも、趣味のドラマ観賞に勤しんでいるときも、主に呼ばれれば大急ぎで食事を運ぶ。


夫は「とけい」のことを「ギャング」と呼ぶ。

我が家のピラミッドの頂点にいるのは間違いなく、このギャングだ。

金魚すくい出身にしては、立派すぎる下剋上である。

掬った金魚に足をすくわれるとは誰が想像できただろうか。


我が家のギャングは今日も機嫌よく、下々の人間をこき使う。

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