燈とヘレンが中学生で最強アイドルになるまで(全20話)
我が家の男性陣は基本的に気持ち悪い
私、六ノ瀬 燈!
小5のときに魔法少女をやっていた時期があるだけの、普通の女の子!
中学二年生一か月目!
ちゅんちゅん、と小鳥がさえずる音で目が覚める。瞼を開けると、窓からの白い光が目のなかに入ってきた。うーん、今日は晴れだ、いい朝だなー!!
私は自室の時計を見る。六時半だ、寝坊してなくてよかった!
通っている中学校の制服の、 白いセーラー服に腕を通した。薄ピンクのリボンが可愛らしい、私立の中高一貫校のものだ。
スカートと靴下も履いて、昨日の夜に中身を準備した学生鞄を片手に、部屋を出た。三階から一階へと降りる。そして、リビングと繋がっているキッチン付きダイニング部屋に入った。
「おはよー」
すると、家族から「おはよう」と返ってくる。上の義兄の声が見当たらないが、きっと洗面台付近にいるのだろう。
朝食のいい匂いがする。タンパク質をフライパンで焼いている匂い。
今日もママと、ママに抱き着いて髪の匂いを嗅いでいるパパの方を向く。
「ママー、今日は目玉焼き?」
「うん、そうだよ」
「わー! ママの半熟目玉焼き大好き!」
「もう、大袈裟だよ」
「理央の目玉焼きは別格だからな」
「だよねっ! めちゃめちゃデリシャス!!」
黙ってママの頭に顔をうずめていたパパが、顔をあげて話に混じる。ママは「えへへ」とはにかんで、照れたように俯いた。
ママの名前は六ノ瀬理央。家事のエキスパートだけど、本業は栄養管理&ダイエットアプリ会社の会社員なんだ。くすんだ金髪に緑の目を持っているんだ。私は桜髪紫眼だから「娘にしては似てない」って言われる。
パパの名前は六ノ瀬孝仁。お偉いさんが通う用な、すごいところに所属している占い師なんだって! パパの未来予測ってけっこう当たるの! あと、使っているタロットの絵柄も綺麗だよね。友達には、「占い師よりもホストが向いていそうな顔」って言われてる。そうかなあ?
パパがママの首筋を舐めて、ママが「んっ……ちょっと、燈が見てるから……」と声を漏らした。気にせずに、パパはペロペロしている。ママは身をよじらせた。仲いいなあ。我が家の見慣れた風景だ。
うーん、二人の世界に入っているし、邪魔するのも悪いから、顔洗いと歯磨きを行ってこようかな!
バスルーム前の洗面所に向かう。
そこには、眠気眼のまま、スマホを片手に歯を磨いている湊兄ちゃんがいた。
「おはよ、湊兄ちゃん」
「ん……おはよう」
上の義兄である湊兄ちゃんは、正直、株に手を出していたり起業していたりと、やっていることが頻繁にコロコロ変わる謎多き人物だ。二年前、名門国立大学の文系を卒業しているみたい。パないね。
洗面台にツバを吐いた後、湊兄ちゃんはスマホを見てニヤつき始めた。
「湊兄ちゃん、急にニコニコしてどうしたの?」
「……可愛い猫がいてな」
「えーっ! 猫?! 私もみたいみたい!!」
「いいぞ」
そうして、スマホの画面を見せてくれた。そこには布面積の少ない服を着たネコ耳カチューシャのコリスくん――私の友達兼、元魔法少女仲間が、頬を赤らめている写真が写っていた。アングル的に、自撮りだろう。
……うん、まあ、なるほどね。
実はコリスくんと湊兄ちゃんは付き合っているのだ。
ちょっとガッカリしたけど、それを悟らせないよう「かわいいねー」と湊兄に返した。
顔と歯を洗ってリビングルームに戻ると、ソファに腰かけている下の兄と姉の隣に座った。すると、無言でおねえちゃん――玲音ちゃんが、私の手に指を絡ませた。
おねえちゃんは、大好きな人の体温があると安心するのだ。だから、よく私や下の兄――武正兄ちゃんにくっついている。可愛いよね。でもそろそろあと一年で、高校卒業なので心配でもある。
武正兄ちゃんは今は、チャイルドシートみたいに、おねえちゃんを膝にのせている。
「レロレロレロレロ……」
あ、違った。後ろでおねえちゃんの髪を舐めている。
おねえちゃんは気にしない風に朝のテレビ番組の占いを観ていた(パパが知ると拗ねそう)が、流石にイラッとしたのか、武正兄ちゃんの手の甲を強くつねった。
「いった?!」
「せっかく髪を五分かけてセットしたんだから、台無しにしないでよ」
「この、麗しい御髪を前に我慢しろと……?!」
「うん」
「非情な!!!」
武正兄ちゃんとおねえちゃんが言い合っていると、私の足元に「クーン」と角の生えた黒犬が寄ってきた。
「おはよ、まおちゃん」
「うわ、この犬、外飼い用の犬小屋にリードつけたのに、なんで家の中にいるのかしら」
おねえちゃんが顔を歪める。おねえちゃんは犬が苦手なきらいがあるのだ。
まおちゃんは普通の犬じゃないけど。
まおちゃんは、最初は人間の言葉を喋る子だった。びっくりだよね。それで、私と友達に魔法少女の役割を課したんだ。でも、私の家族が全員怒っちゃって、まおちゃんは人語を話さなくなった。そのあと雨水に打たれるこの子が可哀そうで、私はみんなにこの子をペットとして迎えようと説得したのだ。
「できたよー」
ママの声がする。見ると、頭にたんこぶのできたパパと一緒に配膳していた。美味しそう! 湊兄ちゃんが、一番先に席についていた。
……実は私の家族と私は、いや、六ノ瀬家のメンバーは、みんな血がつながっていない。疑似家族なのだ。
ママとパパが高校生のとき結婚して、一番最初に養子になったのがおねえちゃん、その次に湊兄ちゃん、その次に武正兄ちゃん、最後に私だった。
五歳のとき、私は愛情を注いでくれていた実の両親を交通事故で失った。お父さんとはお母さんは天涯孤独で、引き取り手がいないうえに大切な人を失くした私はひどく心細かった。葬式会場の片隅で一人泣いていたら、パパが話しかけてくれたのだ。少し会話をした後、数日後正式に養子になることになった。
色々あったけど、私は六ノ瀬の一員になれて、幸せだと思う。
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