新しい星

くぼ あき

第1話


カメレルネフチはナイル川の畔で従者と共に鰐の口の中に鶏を放り込む父親をぼんやりと眺めた。鶏が喰われていく様を声をあげて悦ぶ父親を見ていると改めて思う。「なぜ自分は王家の娘などに生まれてしまったのか」

…自分以外に鶏が可哀想だと思っている人間はどこにもいない。やはり自分は頭がおかしいのだろうか?鶏に同情している自分を周りに悟られないように無表情を作る。

ここから数キロ離れた場所では大群衆が王のための墓を建設している。

カメレルネフチはいつしか空想の中に友を作るようになった。彼女は象形文字でパピルスの上に自分の苦しみを吐露し、それを静かに、そっと、河に流すのだった。父親と従者は鰐に餌をやるのに夢中でこちらを見ていない。その隙に事を済ませる。大丈夫。誰にも見られていない。無事手紙を流し終えると、従者のうちの一人がカメレルネフチのもとに歩みよる。

「姫様、クフ王がお帰りです。さあ。」宦官の腕に抱かれ、驢馬の背に載せられたカメレルネフチは、夕陽に赤く染まった大いなるナイルを振り返った。

「ケン!いつまでマンガ読んでんの!晩ご飯てべなさい!ランドセルも片付けて!!」

「いまやるーー!!」

そう返す少年は一向にランドセルを片付ける気配はなく、学校帰りに多摩川で拾った手紙の差出人へ、夢中で返事を書いていた。


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