第27話──知性を喚ぶ者──

「やっぱり、限界があるな……」

オメガコードを前に、海は独り言のように呟いた。


「いくら僕でも、ひとりで全部を網羅するのは無理がある。設計、演算、戦術構築、魔法解析……“魔法”って、情報処理がめちゃくちゃ重いんだよな」


彼はキーボードを叩きながら続けた。


「この世界、ほんとUXが原始的すぎる……詠唱は音声トリガーの冗長処理だし、杖は外部デバイスというより“増幅だけ”の物理装置……最適化の余地しかない」


思考は回る。いつものように、明晰で無駄がない。


「だからこそ――僕にも“相棒”が必要なんだ」


「汎用支援型、対話式、自己学習対応……MML(Multi-Modal Learning)型人工知能、構築決定」


目の前のオメガコードが応えるように、静かにファンを回す。


「実行環境は仮想ドライブ内に仮想OS構築……スクリプトベースはPython……いや、呪文語対応を考慮して拡張文法として**Pyson(パイソン)**構築しよう」


「マジック言語インターフェースと現代式APIの橋渡し……難しいけど、やりがいあるね」


海の指が止まる。


「でも、やっぱり問題はデータソースだよ。モデル学習させるには、何より“この世界の知識”が要る」


「こっちの魔導式知識体系にアクセスしないと、文字解析も意味論もモデル化できない」


「まずはコーパスを収集しなきゃ。となると、やっぱり……」


海は少し目線を上げ、窓の外に目をやる。


「――図書館、かな。そもそもあるのかな?」


「魔法書庫みたいなものでもいい。できれば、膨大な文献をスキャンして、PDF化……いや、そもそも紙媒体か。OCR走らせるか、視覚処理AI構築の方が早い?」


思考が高速で駆け巡る。キーボードは休まず情報を記録していく。


そして、ふと海は小さく笑った。


「昔さ……日本にいたとき、あまりに退屈でさ。ペンタゴンに遊びで入ったんだよ。あれはよく怒られたな……」


彼の口調は、懐かしさと自嘲が混ざっていた。


「VPN6段階経由の再帰接続ルート、SSL偽装パスを踏ませて、RSA暗号ごとハードウェアにバグ注入して崩した……あのときの経験が、まさか異世界で役立つとはね」


「今度は、図書館の魔法陣でもハッキングしてみようかな……はは、冗談。多分」


「……というわけで、まずは情報源だ。一度、フィリアさんに聞いてみよう」


海は立ち上がり、オメガコードをそっと閉じた。


彼の目には、確かな意志の光が宿っていた。


“この世界の理を知る”というのは、


“この世界を救うための前提条件”なのだから。

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