第9話 創造の神殿《アルクリエ・サンクタム》

翌日、海と凛は**創造の神殿アルクリエ・サンクタム**へと案内された。


そこは異世界の理を超えた神聖な空間だった。天井を突き破るほどの光の柱が聳え立ち、床には無数の魔法陣が静かに輝いている。


空間には静謐な緊張感が漂い、二人はその圧倒的な神々しさに息を呑んだ。

中央に立つのは──女神アルフィーネ。


露出度の高い神々しい装束をまとい、長く流れる銀髪が光を反射して輝く。黄金の瞳は静かに二人を見下ろしていた。


「勇者たちよ。我は汝らに、己が運命を切り拓くギフト。つまり武器ウエポンを授けよう。」


その声は空間に共鳴し、海と凛の背筋を自然と伸ばさせる。


海の武器授与 – 理解されない「望み」


海が小さな足取りで一歩前へ進み出た。彼の瞳には恐れと覚悟が交錯し、手は小刻みに震えている。


「海よ。汝の望む武器を申してみよ。」


神殿に響く女神の声は優しくも揺るぎない威厳を宿していた。海は喉の奥で何度も言葉を反芻し、震える声で呟いた。


「……パソコン、です。」


──沈黙。


神殿内がまるで時が止まったかのように静まり返った。


凛は小さく首を傾げ、バルドウィンは目を細め、シャルロットは興味深そうに口元に手を当てた。


「……は? パソコン?」


「……武器なのか、それは。」


「興味深いわね。」


誰もが理解できずにいる中、女神アルフィーネだけが微笑を浮かべ、静かに海へと歩み寄る。


海の視界には女神の胸元が急接近し、その圧倒的な存在感に彼の顔は一瞬で真っ赤に染まる。


「あ、あのっ……女神様、近すぎますっ!」

動揺する海に、女神は柔らかく微笑むと、そっと彼の頭に手を添え、額を合わせた。


「汝の望みを、我に示しなさい──。」


その瞬間、海の意識は異次元へと引きずり込まれた。無限に広がるデジタルの海、青白い光が飛び交い、画面上には無数のコードと命令文が浮かぶ。


女神は目を閉じ、その情景を静かに受け入れる。

「理解しました。」


女神が手を広げると、天井から光が降り注ぎ、その中央に黒銀色のノートパソコンがゆっくりと浮かび上がった。


その姿は異質でありながら、どこか神聖さすら感じさせる。


海は両手を震わせながら、ゆっくりとノートパソコンを受け取る。


その瞬間、画面が青白く輝き、機械音が小さく鳴った。


「システム起動──オメガ・コード、オペレーション開始。」

海は息を呑み、画面を見つめた。そこには、彼だけが理解できる世界が広がっている。


「これが……僕の……武器……?」


女神アルフィーネは優しく頷き、静かに語りかける。

「これは汝の知識、そして可能性の象徴。恐れず、その力を解き放ちなさい。」


海は深く息を吸い込み、ぎゅっと《オメガ・コード》を抱きしめる。

「はい……僕、頑張ります。」


その声には震えながらも確かな決意が込められていた。


その瞬間、神殿の光が微かに揺らぎ、異世界から持ち込まれた「常識外れの武器」が確かな存在感を放った。


バルドウィンは何かを感じ取るように目を細め、シャルロットは口元に笑みを浮かべる。凛は驚きと少しの呆れを含んだ表情で海を見つめていた。


凛の武器ウエポン授与 – 意外すぎる選択


海の武器ウエポン授与が終わり、神殿には未だ神聖な光が揺らめいていた。


次に、女神アルフィーネはゆっくりと視線を凛へと向ける。


その黄金の瞳に射抜かれるような感覚に、凛は小さく息を呑みつつも、堂々と女神の前に歩み出た。


海はその後ろ姿を見つめながら、胸の内で静かに期待を膨らませていた。

(きっと、聖剣とか、大剣もいい……とにかく勇者っぽい武器だ! 伝説級のカッコいい武器に違いない!)オタク心に火が灯り火力はMAXを迎えていた。


女神アルフィーネが荘厳な声で問いかける。

「凛よ。汝の望む武器ウエポンを申してみよ。」


凛は一歩前へ進み、堂々と顔を上げた。そして、迷いのない強い声音で言い切る。

「そうね、わたし手袋がいいわ。」


──静寂。


まるで時間が止まったかのように、神殿内はしんと静まり返った。


海はその場で固まり、凛を凝視する。瞳孔は完全に開き、口元が小さく震える。

「……は?」


凛は海の反応など気にも留めず、真剣な表情で続ける。

「だって、爪が割れたり荒れたりするのは絶対に嫌なの!この前の黒トカゲの時も気持ち悪かったし。 それに、手元が綺麗じゃないと全然テンションが上がらないじゃない!」


その堂々たる宣言に、シャルロットは思わず微笑を浮かべ、バルドウィンは静かに目を閉じる。


そして女神アルフィーネは大きく息を吐き、天を仰いだ。

「分かりました。しかし、困りましたね。手袋だなんて...では」


女神が腕を広げると、神殿中に光が降り注ぐ。神聖な輝きが凛を包み込み、次第に光はその形を変え、凛の両腕に重厚なガントレットが形成されていく。


それは白銀と漆黒が交差する無骨でシャープなデザインのコンバットガントレット。指先には爪を守るための保護具があり、全体には複雑な魔法紋様が刻まれていた。


──武器名:《ヴァルキリー・ディヴァイン》

──形態:重厚で無骨なコンバットガントレット

光が収まると、凛の両腕にはその武器がしっかりと装着されていた。


凛はゆっくりと手を動かし、ガントレットの重みと感触を確かめる。そして、眉をひそめてため息をついた。

「……こんなの聞いてないんだけど。」


女神アルフィーネは静かに、しかし強い意志を込めて凛を見つめる。

「これは汝の戦うための力。美しさや繊細さではなく、強さを追い求めよ。そして、その力を恐れずに受け入れなさい。」


凛はしばらく黙ったままガントレットを見つめ、やがて小さく息をつきながら頷いた。

「……分かったわ。ちゃんと使いこなしてみせる。爪も折れなさそうだし。これでいいわ」


授けられた武器を手に、二人はそれぞれの新たな道へと足を踏み出す。


海は 魔導士団への入団を決意し、シャルロット団長の元へ向かう。

光を反射する《オメガ・コード》を大事そうに抱えながら、彼の瞳には小さな光が灯っていた。


「僕はここで、自分にできることを見つける。そして、誰かの力になれるように……。」


一方の凛は 双神流の修行を極めるため、険しい山岳地帯へと向かう。


無骨な《ヴァルキリー・ディヴァイン》が彼女の両腕にしっかりと装着され、その姿はどこか新たな覚悟を纏っていた。


「決して誰にも文句を言わせないくらい強くなってみせるわ。」


バルドウィンはその後ろ姿を見つめ、静かに拳を握りしめる。


旅立ちの前夜、二人は王都の小高い丘で顔を合わせた。


「精々に邪魔にならないように、あんたなりに頑張んなさい」

凛はそう冷たく言い放つが、その瞳にはどこか海を心配する色が滲んでいた。


「……うん。僕、頑張るよ。」

二人は小さく頷き合い、それぞれ別々の道へと歩き出す。


「かくして、凛は双神流の真髄を求め、海は魔導士団で己の才能を磨く道を選んだ。


その背中には、それぞれの武器──《ヴァルキリー・ディヴァイン》と《オメガ・コード》が、彼らの運命を照らしていた。」

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