第4話 クラスにて
▼美咲視点
教室の窓際には自然と人が集まり、その中心にはいつものように私がいた。みんなの視線が集まり、声が弾み、笑顔が飛び交う。
「それでね、次に公開される映画、絶対に話題になるって!」
「さすが美咲ちゃん、情報早いよね!」
誰かが軽い感嘆の声を上げ、話題はさらに広がる。私は自然と笑顔を作りながら相槌を打つ。周囲の反応に合わせるのは慣れている。けれど、心の奥ではどこか冷めた気持ちが渦巻いていた。
(こうして話している間も、みんなが見ているのは「橘美咲」という仮面だけ……。)
誰も私自身を知ろうとはしない。いや、私が本当の自分を見せないから、それも当然のことなのかもしれない。
完璧でいなければならない。弱さを見せてはいけない。そう思い続けてきたからこそ、誰にも頼らず、笑顔を絶やさず、周囲の期待に応え続けてきた。それが「美少女四天王」としての私の役割。そんなステータスを捨てられない心の弱さも同時に持ち合わせている。だから、親友の真琴や菜月にすら、本当の気持ちを話せない。
ふと窓の外を眺めて、深呼吸をする。その時、教室の扉付近で静かに席に向かう男子の姿が目に入った。
(……誰だっけ?)
俯きがちで、周囲を気にせず歩く彼。たまたま目が合った気がしたけれど、彼はすぐに視線を落とした。
▼悠真視点
新学期が始まって数日。高校2年の教室はまだ少し慌ただしい。僕――白石悠真は、いつも通り目立たないように席に向かった。
窓際にできた人だかりと楽しげな笑い声。自然とその中心にいるのが橘美咲だった。明るい声に惹きつけられるように、彼女の周りには常に人が集まっている。
(やっぱりすごいな……。)
「美少女四天王」と呼ばれる彼女は、学校の中でも特別な存在だ。周囲からの注目を一身に浴び、どこにいても話題の中心にいる。その姿を眺めながら、僕は自分の席に座り、静かに本を取り出した。
(僕とは全然違う世界だよな……。)
そう思いつつ、手に取った本のページを開いた。ラノベの世界に意識を没頭させようとした時だった。
▼美咲視点
席に着いた彼を視界の端に捉えたまま、私は再び笑顔で会話を続ける。話は自然に盛り上がり、周囲の声も弾んでいる。だけど、ふとした瞬間に頭の片隅に彼の姿が浮かぶ。
(気になるわけじゃない。ただ、なんとなく……。)
そう自分に言い聞かせるけれど、目に入った彼の静かな雰囲気が、なぜか引っかかった。
▼悠真視点
カバンから取り出した本は「美少女との日常で変わりゆく、俺のぼっち生活」というタイトルのラノベだった。主人公が地味で目立たない自分に少し重なり、気づけばページをめくる手が止まらない。
その時、担任の大きな声が教室に響いた。
「今日のホームルームでは、クラス役員を決めるぞ!まずは委員会からだ!」
教室がざわつき始める。役を巡る軽い駆け引きは、毎年のことだ。けれど、僕にとっては面倒でしかない。何より、橘美咲と関わる役になるなんて、できるだけ避けたいと思った。
「じゃあ、文化祭実行委員に立候補するわ!」
美咲の明るい声が教室に響く。その瞬間、僕は少しだけ安堵の息を漏らした。
(よし、別の役なら問題ない。)
「数学委員は担当が私だから、一人でいいぞ。」
担任の言葉に、教室が一瞬静まり返る。周囲が少しだけ押し黙る中、僕は手を挙げた。
「……じゃあ、僕がやります。」
驚くほど冷静な自分の声。その瞬間、教室内の視線が一瞬だけこちらに向いた。
▼美咲視点
「彼が……数学委員?」
無意識に彼の背中を見つめていた。手を挙げる彼の姿に、どこか迷いのない表情が浮かんでいる。特別目立つわけでもないのに、その行動には不思議な存在感があった。
(なんで気になるんだろう……。)
胸の中で小さな感情がざわめく。その理由が何なのか、まだ自分でもよくわからなかった。
▼悠真視点
役員決めが終わり、教室が再びざわつく。僕は手元の本に目を戻しながら、そっとため息をついた。
(これでまた静かに過ごせるだろう。)
その瞬間、美咲の視線が一瞬だけこちらに向けられていたことに気づいた。
(いや、気のせいだろう。イケメンモードの俺ならまだしも、今の陰キャな俺に興味を持つわけがない。)
そう思いながらも、心のどこかに残る小さなざわめき。その正体が何なのか、自分でもわからなかった……。
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今回もお読みいただきありがとうございます!✨
今回は視点の切り替えを活かして物語を描いてみました。キャラクターそれぞれの感情や状況を、読者の皆さんにリアルに感じてもらえたら嬉しいです!視点が切り替わることで、いつもとは違う視点から物語を楽しんでいただけると思いますが、いかがでしたでしょうか?💡
感想や気になる部分があれば、ぜひ教えてくださいね!次回も楽しみにしていただけるよう頑張ります!💖
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