プロトタイプとなる「逆噴射小説大賞2023」版から追いかけていた異能力×格闘バトルアクション、堂々の完結。
乾いた筆致で綴られる格闘描写もさることながら、本作最大の魅力はとにかく主人公:如月姫華に尽きる。
タロット由来の異能力を持つ鋼鉄の敵をも徒手空拳で粉砕したかと思えば、敵対する大企業の首魁にさえ怯むことなく煽り散らかす口撃力の高さを見せつける。
パワフルな一挙手一投足で我が道を突き進むそのバイタリティは、(不純な動機にも関わらず)陽性のエネルギーを読者に与えてくれること必須。
画才があれば個性豊かなサブキャラクター共々ファンアートを描きたい程だが、そのような能力のない己を呪うばかりだ。
数々の死闘の果てに、彼女の拳が撃ち抜くものとは……。
思わず共に拳を握ってしまう結末を、是非とも多くの方に見届けて頂きたい。
「担当(推しホスト)にのめり込んでいる女性が、脳に埋め込まれたカラテチップによって超人的な力を手に入れ(てしまい)、大企業が仕向ける暗殺ロボ(タロットカードになぞらえたカンフーチップ使い)と壮絶な死闘を繰り広げる……動機は年商30兆円の大企業から大金をせしめて担当をナンバーワンにするため……!」
こうしてあらすじを書くと、「ふざけているのか?」と眉をしかめる人もいるかもしれない。
しかし……作者の目はマジだ。キレ味鋭い渇いた会話の応酬と、硬派な文体で綴られていくシリアスな物語、そして圧倒されるカラテ vs カンフーバトルの連続に、読者も自然と真顔になるだろう。
「ホス狂いの主人公」という設定も、単にウケや意外性を狙ったハリボテではなく、徹頭徹尾、主人公の個性として、また、物語のなかの極太な一本のスジとして存在しつづけ……ホスト業界に疎い私ですら……ラストバトルでは思わず心のなかでシャンパンコールを叫んでいた……。
主人公は、さまざまな壁にぶちあたりながらも、暗い道に迷いすぎることなく、カラテを通じて前に突き進んでいく……そんな展開と読後感が素晴らしかった。