第18話「戦術の磨き合い」
翌朝、学院の正門脇に、ひときわ見慣れない貼り紙が出ていた。中級クエストの募集要項らしく、複数のN級者が交代で領地周辺を巡回し、M級魔物の発生を抑える任務が正式に発表されたらしい。ワシとリールが前回の成功で評価を高めたことで、N級者の活用範囲が一段と広がった形だ。
「見て、あれが例の巡回任務ね。隊をローテーションで組むって書いてあるわ。」リールがやや興奮気味に指差す。
「そうみたいだな。オレらも参加する可能性は高い。M級魔物が出る地域を定期的に巡り、出現しだいN級2人で処理する方針か。」ワシは要項を睨みながら頷く。前回の戦闘で、N2人でM級魔物は対処可能と証明したからこそ、生まれた新方針だろう。
校内の一角でガルスと顔を合わせると、彼もまた別のローテーションチームに組み込まれるという。「オレは先輩と組む予定だ。あんたらみたいな仲のいいペアじゃないが、まあ練習しだいだな。」ガルスが苦笑しつつ言う。
リールは微笑み、「別のペアにも活躍の場が生まれるのね。私たちだけじゃなく、他のN級者たちもM級対応力を磨いてくれば、学院全体が力を付けてくるわ。」
ガルスは剣の柄をなぞりながら、「そうだな。皆で底上げすれば、将来L級やK級に挑む基盤ができるんだろう。」彼の目に闘志が宿る。
放課後、リールと再び訓練場へ向かい、新しい戦術パターンを練ってみることにする。今度の巡回任務は、一定期間同じエリアを回る長期作戦になるらしい。M級魔物が出たとしても、必ずしも単発の奇襲だけとは限らない。群れで来るかもしれないし、天候や地形によって有利不利が変わる可能性がある。
「もし雨の日に遭遇したら、光が霧に反射して効果が落ちるかも。どうする?」リールが真剣な表情で尋ねる。
「その場合、あまり強い光を使わず、逆に弱い光で魔物を誘導して狭い場所に押し込み、一気に叩く手もある。霧があるなら魔物の視界も悪いから、微妙な光加減で混乱させられる。」ワシは頭を回転させながら答える。
リールは感心したように頷く。「確かに、状況に合わせて光量を調節すれば、霧や雨でも応用が利くわね。あたし、魔力出力を細かく変える練習をもっとしておく。」
その日の訓練では、わざと水蒸気を含ませた小さな魔道具を借りて、視界が悪い状態を再現してみる。リールが微弱な光を複数点に分散させ、それらを揺らめかせることで、あたかも無数の小さな光源がぶれながら浮かぶような状況を演出。ワシはその中で最も隙を生んでいる「的」を瞬時に見極め、人形へ突進する練習を繰り返す。
うまくいくとリールが小さく拍手してくれ、「いいじゃない。ちゃんと動く光を追って混乱させてから狙うのもアリね。」と笑う。
ワシは息を整えて「まだ改善の余地はある。光を動かすタイミングをもう少し遅らせてくれないか?そうすれば敵がそっちへ意識向けた瞬間を作りやすい。」
「了解、あたしも魔力制御の精度を上げるから、遠慮なく要求言ってよ。」リールが真剣な眼差しで返す。
夕暮れ、帰り道でリールがふと口を開く。「次の任務はローテーションということは、常にあたしたちが一緒に出撃するとは限らないかもしれないわよね。もしかしたら別のN級者と組むこともあるのかしら。」
「それはあるだろうな。」ワシは肩をすくめる。「学院は多くのN級を抱えていないが、徐々に増やす方針らしいから、他の天才たちも出てくるかもしれない。状況に応じてペアを変えるのは、経験を広げるチャンスでもある。」
「そうね…。でも、正直あたしは、できればあんたと組み続けたいと思ってる。」リールが少し照れながら言う。「安心できるし、勝算も高まるし…それに…」
言葉を濁す彼女をワシは微笑ましく見守る。「ま、状況次第だ。絶対変わるとは決まってないし、もし別ペアになっても、お互い成長してまた再会すればいい。」
リールは微笑み、「そうね、お互いスキルを磨いておけば、いずれまた合流したときに、もっと強いコンビになれるかも。」と肯定的な受け止め方をする。二人の間にある信頼が、そう簡単に揺らがない自信を表しているようだ。
その夜、寮でノートに考えをまとめる。M級対応を高度化した今、次は実際のローテーション任務で戦術を実践することになるだろう。環境条件(夜間、霧、雨)、魔物の種類(獣型、虫型、時には半知性魔物)に応じて戦術を変えれば、N級能力をより深く引き出せる。
リールとの良好な関係が心を安定させ、戦闘中の判断力を高めるような気がする。彼女の魔力制御が安定すればするほど、オレも短剣の軌道を最適化できる。信頼関係が強みとなり、戦場で生き延びる確率を上げていることは、疑いようがない。
窓外には星が瞬いている。強敵魔物や未知の領域が待つ世界で、オレたちがN級として何を成せるか、考えれば考えるほど楽しみだ。L級、K級へと至る道は遠いが、今は準備段階。
学内の静寂を感じながら、ワシは穏やかな決意を胸に、明日からの訓練計画を思い描く。地道な努力が、いずれ大きな飛躍につながると信じている。
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