第17話 「N級者たちの新たな交流」
朝霧が立ち込める森の中、ワシとリールは学院が手配した馬車を降りて商隊を見送った。護衛任務を終えた報告を簡潔にまとめ、学院への帰路につく。村の小道は静かで、昨日までの戦闘の余韻が嘘のようだ。
あのM級魔物の襲撃をあっさり切り抜けた実績は、学院側の期待を裏切らなかったはずだ。N級2人での対処が理論どおりに成功し、今後はより高度な任務が用意されるだろう。ワシらが帰還すれば、詳細なデータ分析や次のクエスト選定が進められるに違いない。
リールが微笑みながら、隣を歩くワシに話しかける。
「あのときの戦い、本当にうまく噛み合ったわね。光で惑わし、あんたが決める。短期決戦でM級を倒せるなんて、実際にやってみるまで半信半疑だったけど。」
「お前が狙いすました光を放ってくれたからだ。オレひとりなら時間がかかって、商隊に被害が出たかもしれない。2人だからこその勝利だ。」
リールは少し頬を染めて「そ、そうね」と視線をそらす。まだはにかみが残る表情が可愛らしい。
道中、野ウサギがピョンと跳ねて横切った。リールが笑って「あたし、昔はこういう小動物にも魔法で威嚇する練習したことがあるのよ。今じゃ小さすぎて相手にならないけど、あの頃は必死だった。」
ワシは首を振る。「誰だって最初はそんなものだ。N級になった今だから笑えるが、初心の頃を忘れちゃいけない。努力と工夫があって、今がある。」
「ほんとよね」リールは静かに頷く。過去の小さな経験が積み重なり、M級魔物を撃破できる今がある。これから先、L級、K級の脅威に挑むときにも同じ姿勢が必要だ。
馬車に揺られ、学院への帰路は穏やかだ。リールがちらりと窓外を見つめ、「あたしたち、これからも一緒に任務をこなすのかな」と呟く。
「あんたが嫌じゃなければ、そうなるだろうな。学院はN級者を活用した中級クエストを拡大していく方針らしい。ガルスや先輩らとも、また別の編成で出撃することもあるだろうが、オレとお前の相性は良いと先生方も認めてるみたいだ。」
「そっか…。嫌じゃないわよ。むしろ、安心できるし。」リールはうつむいて小さく笑った。確かな信頼が芽生えている。
学院に戻り、書類提出や軽い聞き取りを済ませる。担当教師が「N級2人でM級撃破とは想像以上に上手くいったわね。次はもう少し複雑な任務も検討できるわ。君たちには今後も期待してる」と高く評価。
リールも「また任務があれば声をかけてください」と素直に応じる。以前なら「もっと高度な相手と戦わせなさいよ」なんて高慢な言い方をしそうな彼女が、柔和な笑顔で教師とやり取りしている様子は、新鮮だった。
夕暮れ、校庭で軽く素振りをしていると、ガルスが現れ「お前らM級魔物やっつけたんだってな!オレも負けてられねえ。今度は別の任務でオレも力を発揮してやる!」と闘志を燃やしている。
「いいじゃないか。互いに経験積んで、力を蓄えて卒業までにN級を安定させれば、将来はもっと大きな目標を狙える。」
ガルスは「おうよ!」と拳を突き出し、ワシも軽く拳を合わせる。リールが遠目にそれを見てクスリと笑い、そっと近づいてくる。「あたしも混ぜなさいよ」と冗談めかした口調で、三人で軽く談笑する光景が、心地よい。
夜、寮の部屋でノートを開き、今回の護衛任務で学んだことを整理する。N2人でM級対処が可能なことが実証された。つまり、N級同士でペアを組むことで、自分たちの戦力を倍増以上に引き上げられるという事実だ。これを応用すれば、L級への対応も見えてくる。L級にはN3人が必要だが、信頼できる仲間がいれば、そう遠くない未来に挑めるかもしれない。
リールとの距離も縮まった。戦闘で背中を預け合い、救い合い、日常で言葉を交わす中で、互いに特別な意識が芽生え始めているのを感じる。
「焦らず、少しずつ進もう。魔物への対策も、リールとの関係も、着実に積み上げていけばいい。」
ペンを置いて小さく微笑む。もう初心者ではないが、まだまだ道半ば。これからどんなクエストが待ち受けているのか、どんな魔物や世界の謎に挑むのか、想像するとわくわくが止まらない。
窓から見える月が明るい。静かな夜、ワシは新たな一歩を踏み出すための余裕を味わいつつ、次なる任務や目標へ思いを巡らせる。
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