第14話「新たな挑戦へのささやき―中級クエスト候補と内部事情」

 遺跡調査から数日が経ち、学院はいつもの穏やかな空気を取り戻していた。ワシ(バル)やガルス、リール、そしてレイアン先輩が成し遂げたKクラス相当魔物撃破の話題はすでに学内で広まっている。「N級4人でKクラスまで倒せるなんて」という驚嘆の声もあれば、「やっぱり天才は違う」と冷ややかに見る者もいる。


 ワシは余計な噂に惑わされず、日々の訓練を淡々とこなしていた。N級になったとはいえ、まだ最低自立ラインを踏んだに過ぎない。今はとにかく経験を積み、基礎力を上げる時期だ。次の中級クエストが近いうちに提示されるかもしれない。


 ガルスは訓練場で剣を振り込んでいる。「おいバル、最近オレは新しい剣術のフォームを試してるんだ。もっと早く正確に相手の急所を狙えれば、Lクラス魔物とも渡り合う準備ができるかもしれねえ。」

 ワシは笑う。「焦るなよ、Lクラス相手にはN級が3人必要なんだ。今のオレらでもMクラスなら2人で対処できるが、Lはもう一段上だ。」

 ガルスは肩をすくめる。「わかってるさ。でも上を目指したいのは事実だろ?」

 「もちろん、そのために努力を続けるんだ。」とワシは肯定する。


 一方、リールは魔法練習場で魔力制御の精度を上げていた。光魔法で遠方の的を正確に照らし、そこに魔力弾を撃ち込む訓練だ。少し前まで彼女はワシに対してライバル意識むき出しだったが、今は視線が合うと軽く微笑むようになっている。あの遺跡で救われたことが、彼女の中で何か変えたのは明らかだ。


 昼休み、学食でスープを啜っていると、レイアン先輩がテーブルに来た。「バル、最近あなたたちN級若手に興味を持つ外部関係者がいるらしいわよ。覇刀連(はとうれん)や各国騎士団が、優秀な学生に早期コンタクトを取ろうとしているとか。」

 ワシは首を傾げる。「まだ在学中なのに、そんな話があるんですか?」

 先輩は苦笑。「直接的な勧誘は卒業後だけど、情報収集や顔つなぎは早めにしたいのよ。N級でKクラス相手の実績なんて、卒業後すぐ有望な戦力になる可能性が高いもの。」


 なるほど、学院内での評価が外部にも影響しているらしい。この流れは、今後の中級クエスト準備にも関係してくるだろう。もっと高度な任務をこなせば、LクラスやMクラス魔物への挑戦も視野に入る。そうやって段階的に力をつければ、将来はさらに上位ランクへ進む道が開ける。


 しかし、焦る必要はない。ワシは「まあ、卒業までにNを安定させ、Mあたりを目指す足がかりをつくれればいい。周りが何を言おうと、オレは着実にやるだけです。」と先輩に答える。先輩は「その姿勢があなたの強みね」と目を細めて笑う。


 リールが少し離れた席から、こっちをちらちら見ている。その表情は照れや期待が交錯しているようだ。ガルスは気づいておらず、ひたすら食欲を満たしている。微笑ましい光景だ。


 午後の講義後、アマル先生に呼び出される。「バルフォール、今度の中級クエスト候補が固まりそうよ。今回はN級者が複数で参加する護送任務を考えているらしい。依頼元は商隊で、Mクラス魔物が出没する危険地域を通るんだけど、Nが2人以上いればMクラス魔物も対処可能でしょ?」

 ワシは慎重にうなずく。「MクラスならN2人で十分対処できますね。4人揃えば余裕ですが、今回は全員行けるんですか?」

 先生は「詳細はこれから。リールやガルス、それにレイアン先輩も候補者よ。とりあえず心の準備をしておいて。」


 護送任務だと、敵は突発的に襲ってくる可能性があるし、罠を仕掛けてくる盗賊型モンスター(Mクラス相当)も厄介だ。N級が2人いればMクラスを捌けるが、油断は禁物だ。ここでもチームワークが鍵になる。リールは遠距離支援が有効、ガルスとワシが前衛で押し込み、先輩が状況に応じてフォロー。ベストな布陣を考える。


 夕方、リールに声をかけてみる。「おい、次の中級クエスト、あんたも出るかもしれないって話だ。」

 リールはドキリとした様子で「そ、そうなの?」と返す。「Mクラス魔物が相手らしいが、N2人で対応可能だ。あんたとオレが組めば問題ないと思うけど。」

 彼女は微笑む。「あんたと…そうね、一緒なら安心かも。」言い終わると、顔がまた赤くなって目を逸らす。


 その様子に思わずワシも小さく笑ってしまう。強がりなリールが、こんなに分かりやすく照れるとは。周りから見れば、一対一でN級魔物に勝てる天才戦士同士が、こんな青春めいた空気を漂わせているのは妙に微笑ましいだろう。


 夜、ノートに今回得た情報や次の課題を書き込む。中級クエストは実戦経験を積む好機。Mクラス相手でもN級2人で対応可、つまりワシとリール、ガルス、先輩を組み合わせれば柔軟に戦術を組める。無理せず、徐々に領域を広げていこう。


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