第13話 真紅の剣士

 話は少し巻き戻る。

「塔」を攻略した獅子隊はタイジェルへの帰途についた。

 街道に出るために森の中を進んでいく。

 唐突に前方で火の手が上がった。

 続いて喧騒。

 誰かが戦っているのか。

 アイオリア、オルディウス、ヴレンハイトが馬を駆って急進した。

 そこには。

 真紅の髪、紅い鎧、波打つ刃をもつ長剣を持った人影と、数匹のゴブリンたちがいた。

 地面にはまだ炎の消えないゴブリンの死体が5,6体転がっている。

 真紅の人影…かなりの美青年が、長剣を振るうと、爆炎がゴブリンたちを薙ぎ払った。

 あまりの力量に駆けつけたアイオリアらが唖然とする。

 青年がこちらを向いた。

 真紅の瞳がアイオリアらを見る。

「助太刀…なら、見ての通り無用になった。

 駆けつけてくれたことには礼を言う。」

 外見とその使う炎からは想像できない涼やかな声だった。

「あ、ああ…。

 すごいな、あれだけの炎使いは初めて見た。」

 アイオリアが感嘆の声を絞り出す。

「そうか。」

 青年は、ふと言葉を止めて、追いついてきたグインらと合流した一行を見た。

「不躾で済まないが、私にそっくりな女性を見たことはないか?」

 唐突な問いであった。

 だが、その視線は真摯そのものだった。

「…ご期待に添えず申し訳ないが、俺は見たことはない。

 オルディウス、あんたらはどうだ?」

 イリアス兄弟の方を振り向いたアイオリアは、困惑の表情を浮かべた。

 兄弟が考え込んでいるからである。

「お前さんの姿を見ると、心がざわつくのは確かだが…。

 何が、とは俺にもよくわからんし、『見た』かどうかもわからん…。」

 珍しくオルディウスの歯切れが悪い。

 青年の視線に僅かに驚きが混ざる。

「君ら『も』精霊、なのか?」

 今度は一行が全員おったまげる。

 フィレーナが珍しく口を挟んだ。

「たぶん、私とこのイリアス兄弟は精霊に深いつながりがあると思います。

 ただ、精霊そのものかは私達も記憶が定かでないのです…。」

「なるほど…。」

 青年…アミル・タリエンスと名乗る彼の話によると、500年ほど前に双子の妹が行方知れずになり、それを探すために旅を続けているというのだ。

 そして、この先にある「塔」から強力な精霊力を感じ取ったので様子を見に行く途中だったらしい。

「500年か…。」

 アイオリアが腕組みして唸る。

 正直、実感は湧かないが、アミルが嘘をついてはいないと直感が告げている。

 アミルの懸念を払拭すべく、再度塔に近づいてみたが、どの精霊も自由意志こそ持っているものの、「名前」を持つほどの自我ではないことがわかった。

 つまり、アミルの妹は混ざっていないということだ。

 アミルが直接念話で会話を試みたが、芳しい情報は得られなかった。

 それでもアミルは落胆した表情を見せない。

 見た目の涼麗さから想像もつかないほどの精神力を持っているのだろう。

 アーサーがひょこっとアミルの表情を覗き込む。

(まさか)

 アイオリアの直感が警報を鳴らした。

「ね、よかったら仲間にならない?」

「え?」

「世界中冒険してれば手がかりあるかもしれないし、イリアス兄弟がなにか思い出すかも知れないじゃん?」

 アイオリアはこめかみを押さえた。

 うん、知ってた、こうなるのは。である。

 アミルはしばらく思案していた。

「…そうだな…。」

 アーサーを見、そしてアイオリアらを見る。

「この先の遺跡に行くには限界を感じていたところだ。

 その提案、受けたい。」

「やったぁ!」

 アーサーが心底嬉しそうな顔をする。

「で、こっちがパーティのリーダー、アイオリアね。」

 と、ビシッとアイオリアを指差す。

 はぁ、とため息を付き、気を取り直してアイオリアがアミルの方を見る。

「アイオリア・レイセントだ。

 この<獅子隊>のリーダーをしている。

 よろしくお願いする。」

 こうして獅子隊はさらに多士済々の精強集団となっていくのであった。

「ところでアーサー。」

「何?」

「もうお前がリーダーやれば?」

「えー、向いてないからやだよー。」

「勧誘ほとんどお前じゃん。」

「でもみんなアイオリアのことリーダーって認めてるよ。」

 そこまで話して、アイオリアは全員の顔色を伺った。

 誰もアイオリアがリーダーであることに不満を持っていない顔だった。

「…わかったよ、俺の負けだ…。」

 もう何度目になるかわからないこのやり取りを繰り返しながら、一行はタイジェルへと帰った。


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