二十歳
カエデ
二十歳
僕は二十歳だった。それがひとの一生でいちばん美しい年齢だなどと誰にも言わせまい。
二十歳、大学二年生。それはぼくにとって希望を見る年でありそれと同時に絶望を感じる年であった。
小さい頃のぼくは歌手になりたかった。でもそんな夢はどこかふわふわとしていて非現実的なもので中学生になった時にはすっかり忘れていた。
十八歳、ぼくは地方の片田舎から上京してきた。そして初めてライブに行った。そこでぼくの非現実が現実になった。テレビで、YouTubeで見ていた人が目の前で動いている、歌っている、手を伸ばせば届きそうなそんな距離にいる。その時今まですっかり忘れていた歌手になりたいという夢を思い出した。歌手、モデル、YouTuber、作家、その誰もがぼくにとって人間であって同じ人間でない、昔貧乏で努力したなんて成功者の話は異世界の話を聞いているような自分には関係ないものだと思って生きてきた。そんな価値観がその日、現実へと変わった。その日からぼくは様々なことに挑戦した。そしてぼくは二十歳になった。
あの日から約一年私は絵画、作曲、執筆などの創作活動を主に取り組んだ。そして分かったことが一つだけある。それは評価されなければ、見られなければ意味が無いということだ。どんなに上手い絵も曲も小説も誰からも見られなければただの落書きで雑音で文字の羅列でしかない。そして一年もすればプロとの距離の差がどれだけ離れているかが理解出来てくる。あの日見た現実はただの現実でしかなくその距離は非現実的なものと相違ないものだと分かる。だが一度現実だと認識してしまうと特別になりたいという想いはそう簡単に消えてくれない。もしぼくが東京に生まれていたら、もっと早くこの現実に気づいていたら、そんなことばかり考えてしまう。もし今何者にもなれなければ今後の人生何者にもなれずただ普通に就職をし、どこにでもあるような人生を歩むことになるだろうという焦燥が私を襲う。そういう人生も幸せだと分かってはいるが一度抱いてしまった想いがぼくの邪魔をする。あの日見た小さな希望のせいでぼくは。
二十歳 カエデ @kaede000108
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