異常犯罪対策室・舞原氷雨 歪みのすゝめ

平良久楽

プロローグ

1話

 気づいた時から虫が好きだった。動物が好きだった。魚が好きだった。

 放課後になれば学校裏の林で、クワガタやセミを捕まえて遊んだ。中学生になれば猫を捕まえて遊んだ。試行錯誤して罠を作り、仕掛けてから学校へ向かう。動物や虫が罠にかかっていた時の満足感や爽快感は今でも覚えている。今思えば、あれは一種の性的興奮を覚えていたのかもしれない。

 しかし、それ以上に気持ち良かったのは、捕まえた動物たちを時間をかけて弄ぶことだった。

 特に好きだったのは捕まえた虫を指の腹でゆっくり潰すことだった。潰れる瞬間の感触、体内のものを全て出しながら潰れていく様を見るのは爽快以外のなにものでもなかった。他にも、水を張ったバケツの中に沈めてみたり、父が使っていたライターをくすねて火をつけてみたり、考え付く方法は全て試してきた。

 殺していくうちに、体の中がどうなっているのか気になるようになった。つぶした時に出てくる体液の正体、羽はどうなっているのか。いつからか、殺す前に解体をするようになった。しかし、当時の僕に虫の解体はいささか難易度の高いものだった。羽をむしったつもりが胴体も一緒に裂いてしまうこともあった。だから、考えたんだ。解体が難しいなら解体しやすい、より大きな物を使えばいい。

 罠にかかった猫の手足を引き裂いて背中の皮膚を剥ぐ。そうすると、聞くに堪えない断末魔を上げ、次第に息絶えていく。一通り体の外側を弄った後、腹にナイフを当てると肉を断つ感覚と共にじわじわと体液があふれてくる。そのまま切り進め、両手で切れた腹部を開く。すると、肺に心臓、様々な器官が顔を出す。その瞬間、これまでにない、得も言われぬ快感に襲われた。

 自分のやっている事が異常だという事は当時の僕も理解していた。だから、どれだけ仲の良い友人にも自分のやっている事は決して打ち明けなかった。幸か不幸か、僕は同世代の子供たちよりも頭の発育が少しばかり早かった。お陰で自分の行いを徹底的に隠すことができた。

 当時の僕が犯した過ちといえば、早々に猫に手を出してしまったことだろうか。おかげで虫では満足できなくなってしまったし、何よりしまった。短期間で猫の数が異常に減少すれば、誰だって違和感を覚える。特に誤算だったのは地元の野生動物保護団体が動いたことだった。 

 高校生になる直前、僕はこの行いを辞めざるを得なくなってしまった。それからは地獄のような毎日だった。強制的に禁欲生活を強いられているような、己の欲求とひたすらに戦い続ける毎日だった。そしてそれは、僕に交際相手ができたとき、別の欲求へ変化していった。

 ――この人の全てが知りたい。この人じゃなきゃダメだ。ああ、この人を殺したい。

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