第7話 魔力


 俺は、ティオスがやってくるのを船着場で待っていた。潮風が少し冷たく感じる。


「珍しいな、お前が出迎えとは。どうした?」


「教えて欲しいことがある。魔法を教えて欲しい!」


 ティオスは目をあんぐりと開け、驚いたように眉を上げた後、からかうように笑った。


「知らん。わしには魔力が無いからな。それにお前に魔力があるかも、わからんぞ」


「そうか……」甘かったか。


「じゃが、街に行けば魔術師がおる。行くか?」


「ああ。ただし、戻ってくるぞ」俺は念を押した。


 半年ぶりに島を出た。街は島の静けさに慣れた俺の感覚には、妙に騒々しく感じられる。五感が研ぎ澄まされているのだろうか。


「王国が帝国を併合したらしいぞ。世界征服を狙ってるとか、レイラ王女の入れ知恵だそうだ」


「飢饉で苦しんでるあんな国、いらんだろう」


「だが、第一王子が戦死したらしい。追放されてた第二王子が戻るとなると、内紛になるぞ」


 聞き耳を立てるつもりはなかったが、人々の話し声がやけに耳に入る。雑踏の中でひときわはっきり聞こえてくる言葉に、思わず足が遅くなった。


「何だ、興味でもあるのか? 飯にするぞ!」ティオスが俺の背を軽く叩いた。


「ああ……」


 食事のために酒場へ入ると、一層騒がしさが増した。


「この酒場、女と遊べるらしいが、どうする?」


「いや、いい。そんなことより、魔術師だ」


「つまらん男だな」ティオスは肩をすくめて笑った。


 魔術師の館は町外れにあった。黒ずんだ石造りの建物で、扉を開けると、ひんやりとした空気に包まれた。中には、年齢不詳の女、エルダがいた。


「ティオス、何の用?」


「この小僧に、魔法とやらを教えてやってくれ」


「ふうん。あなたと違って、見込みがあるわね。取引よ。何をくれるの?」


 取引は金ではなく、島にある魔石を提供することで決まった。エルダは興味深そうに俺を眺めながら、魔力の特性を簡単に説明してくれた。


 どうやら俺には、魔力が人並み外れているらしい。ただ、それは体外に出すものではなく、体内を循環する種類のものだという。


 具体的には、体力や筋力の強化、治癒といった方向らしいが――まあ、俺らしいといえば俺らしい。


 一週間で、基本となる発動方法をマスターすることができた。思った以上に体が慣れるのは早かった。


「じゃあな。魔石は取れたら、必ず持ってくるよ」


「まあ、気長に待つわ。体に気をつけてね」


 エルダの言葉を背に、俺は一人で島に戻った。


 その後、魔物の襲来が何度かあったが、魔力の加護を得た俺の力は、それを撃退するのに十分だった。


 少しずつ、だが確実に――俺は前に進んでいる気がした。

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