透け人間

岡部龍海

透け人間

 ある日のこと、悪夢に魘され起きた真斗。

 しかし起きるといつもの自分の部屋にいた。

 真斗は周りを何度も見渡し安心した。

「なんだ。夢か」

 夢の内容は忘れてしまったが、とりあえず悪夢から覚め、彼の新しい1日が始まることにとてもワクワクしていた。

 しかし、真斗は不思議な感覚であることに気付き。

「何か違和感があるな。」

 いつもは寝起きがいい彼が、今日はなぜかぼーっとしていたのだ。

「疲れてるのかな。」

 そう言い両手を見ると、なぜか手の奥の床と足が透けて見えるのだ。

「やっぱり疲れてるのかな。」

 すぐにベッドへ戻り、寝ようとした。

 気付いたら何もない世界にいた。

「これは夢か?」

 そして真斗が後ろを振り向くと、5メートルほど前にこちらを向いている自分がいた。

 顔は真っ黒でよく見えなかった。

 そして真斗は目を覚ました。

「もちろん夢だよな。」

 時計を見ると30分が経っていた。

 自分の手を見て驚いた。

「まだ、透けてる。」

 手の奥が寝る前よりさらに鮮明に透けて見えたのだ。

 急いでベッドのすぐ脇のカーテンを開け、朝日に向かって両手を翳した。

「やっぱり」

 太陽の光が彼の手を透けて目に差し込んできた。

 焦った真斗は一度3回深呼吸をしようとする。

 すると。

「起きてるの?」

 ドアの向こうから妻の優しい声が聞こえた。

 こんな姿を見せられないと思い戸惑う。

「どうしよう。どうしよう」

「返事がないけど、何かあったの?」

 心配になった妻はドアを開ると、布団中に隠れて怯える真斗がいた。

「大丈夫?」

 そっと布団を捲ると、透けた手が出てきて驚いた。

「どうしたの?」

「バサッ」と剥ぐように布団を吹き飛ばした。

「え……」

 半分透けてる真斗を見て驚愕した。

「……助けてくれ」

 真斗は妻に近付くが、妻は引くような表情で部屋を出て行った。

 悲しくなった真斗は涙を我慢し、今自分の体に一体何が起こっているのかを一度整理してみることにしたが、結局原因はわからなかった。

 これからしばらくは部屋から出ないように決め、大人しく生活するようにした。

 しかしそれ以降妻は部屋までやってこなかった。

 その晩も、一人部屋にいた真斗は一度部屋を出てみることを決心する。

 ドアを開けようとしたが、直人の心臓の鼓動が速くなり、息が徐々に上がってくる。

「また、妻に嫌な顔されたらどうしよう」

 それでも真斗は勇気を振り絞り、心臓の鼓動を抑えながらドアを開けた。

 すると、真斗の目の前に見えた光景にびっくりする。

 廊下の両脇に掛けてあった真斗と妻の夫婦二人の写真が二枚裏返って落ちていたのだ。

 何があったのかよくわからない真斗はそっと写真を拾う。

 恐る恐る表を見ると、額のガラスが割れていたのだ。

 それはただ落ちて割れたものではなく、誰かが意図的に尖ったもので割ったものだった。

 もう一枚の写真も、額のガラスが割れていた。

「下のリビングには誰もいないのか。」

 真斗の部屋は二階建ての家の二階部分だったため、リビングに行くために階段を降りた。

 すると、リビングに飾ってあった写真立てもひっくり返っていた。

 よく見るとその写真にも誰かが割ったようなものがあった。

 三枚全ての写真を持って一度部屋に戻った。

 写真を並べ、見比べてみた。

 そうすると、全ての写真の額の傷に共通しているものが見えてきた。

 全ての写真の自分の顔を中心にヒビが入っていた。

「これは、」

 誰かが自分に恨みがあるのかもしれないと思い、怖くなった真斗は布団に潜り、一晩中楽しいことを考えながら眠るつもりだった。

 しかし、そのまま眠ることなく何時間も経った。

 時計を見ると午前三時。

 もう眠れないと思い、布団から出た。

 そして写真を手に取り見つめていたら、ガラスに反射して天井は写っいたが、自分が映っていないことに気付いた。

 急いで部屋に置いてある鏡を見ると、やはりいるはずの自分が写っていない。

 真斗は混乱したまま鏡を見つめ続けた。

「どういうことだ……俺が映らないなんて……」

 冷静になろうと頭を抱える真斗だったが、全身が薄ら寒い感覚に襲われた。

 ふと、耳元で囁くような声が聞こえた。

「ここにいるのは、誰?」

 驚き振り向くが、そこには誰もいない。

「気のせいか……?」

 しかしその時、部屋の外で物音がした。

 恐る恐るドアを開けると、暗い廊下の先で妻が立っていた。

「起きてたの?」妻は柔らかい声で言ったが、その顔は妙に無表情だった。

「写真が割れてたんだ。何か知らないか?」真斗は震えながら尋ねた。

 妻は少し考える素振りを見せた後、微笑んで言った。

「真斗、あなたが何を言ってるのか、私にはわからないわ。」

 その笑顔を見て、背筋に冷たいものが走った。

 妻の表情には何か違和感があった。

「俺が見えないんだ、鏡にも、写真にも!」

 と、必死に訴える真斗に対し、妻は静かに近付いてきた。

「大丈夫よ、真斗。」

 彼女は優しくそう言いながら、突然真斗の手を掴んだ。

 その手は冷たく、どこか現実感がなかった。

「あなたはもうずっと、ここにいるの。」

 真斗は何かを言おうとしたが、その瞬間、妻の瞳に真っ暗な闇が広がっていることに気付いた。

 妻の言葉や行動に恐怖を覚えた真斗は、どうにかその場を逃れようと走り出す。

 しかし、階段を駆け降りた瞬間、急に足元が崩れるような感覚に襲われ、真っ暗な空間へと引きずり込まれる。

 気付くと、また自分の部屋の布団の中に戻っていた。

「……夢だったのか?」

 体を起こそうとするが、体は動かない。

 目を開けたまま、まるで身体がどこかに囚われているような感覚。

 その時、耳元で再び囁き声が聞こえた。

「真斗、まだ気付いてないの?」

 妻の声だったが、その声の冷たさに恐怖が増した。

 真斗の視界がぼんやりと暗くなり始め、体がから血が流れ始めた。

「ああ、俺は自分の妻に殺されていたのか。」

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透け人間 岡部龍海 @ryukai_okabe

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